経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/3/26(702号)
英国の永久債発行

  • トービン税への対抗?
    本誌は、一年前、11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」で永久債の発行を提案し、またそれにまつわる事柄を取上げた。当時は永久債なんて唐突な考えと思われる方も多かったに違いない。ところが先日、英国が永久債の発行を検討していると報道された(正確には100年債もしくは永久債)。過去に永久債(コンソル債)を発行していた実績を持つ英国だけに、永久債の発行の話が現実味を帯びている。

    後段でも述べるが、公式の英国政府の狙いは、英国債が低金利(10年国債で2%前半)の今日、永久債を含めた超長期国債の発行が有利と判断したということになっている。しかし筆者はもう一つの英国の狙い(こちらの方が真の狙いと筆者は考えている)を、英国債の価格の安定(長期金利の安定と言い換えても良い)と考えている。今日、欧州においてソブリンリスクが高まり国債市場が極めて不安定になっている。市場には投機マネーが流入していて、財政悪化が伝えられるやその国の国債が暴落する事態が続いた。

    今のところ英国債は安定しているが、いつ市場の混乱に巻込まれるか分らない。そして注目されることは、国債市場の混乱が国債の償還時期に合わせ起っており、国債価格の安定にとって償還が一つのポイントとなっていることである。永久債ならば償還する必要がなく、これによって償還時期の国債市場の混乱を回避することができる。


    投機マネーの流入による金融市場の混乱を抑える方法として、EUではトービン税(06/7/3(第443号)「トービン税について」他)が検討されている。トービン税は金融取引に極めて低い税を課すことによって急激な資金の移動を牽制するものである。EUの中ではフランスやドイツが前向きに検討している。トービン税導入に向け、フランスのNPOが以前から活動していた。日本でもこれに呼応して左派系のNPO団体が昔から導入を主張している。

    筆者は、トービン税というものの考え方には反対ではない。しかし現実の経済に導入することには疑問を持つ。まず世界的な同意がなければ、トービン税の導入は実現しないという難しさがある。またトービン税ぐらいで投機マネーの動きを止めることは不可能と考える。止めるようと思えば相当高い税率が必要になり、むしろこれによる弊害が発生する。

    またトービン税みたいなものは平時から考えておくべきものである。トービン税が話題になるのは、97年のアジアの経済危機や今回のEUの金融危機などいつも実際に問題が起ってからである。むしろもし今日トービン税が導入されれば、市場の混乱に拍車がかかると筆者は考える。

    EUの中でトービン税に猛反対なのが英国である。金融取引が大きな産業である英国にとって、トービン税などによって資金の流れが阻害されることは死活問題になる。英国の永久債発行のアイディアは、このトービン税導入の動きに対抗したものと筆者は感じる。


    もちろん筆者は英国の永久債の発行に大賛成である。筆者は、永久債の発行に止まらず、さらに一歩進んで中央銀行による永久債の購入を主張している。中央銀行が永久債を購入すれば、これは実質的にセーニアリッジ政策(政府貨幣・政府紙幣発行)と同じになる。筆者は、永久債が発行されれば自然と中央銀行による永久債の購入が話題になると思っている。

    ちなみに先進国の中で中央銀行が国債を保有しているのは、日本と米国、そしてこの英国である。ドイツとフランスは中央銀行による国債保有がほとんどない。実際、今回のEUの金融危機に際しても英国の中央銀行は国債の購入を増やしている。つまり英国でこそ永久債を中央銀行が購入する事態に発展する可能性があると筆者は密かに思っている。


  • 異常事態と非常事態
    前段で述べたように10年物の英国債の金利は今日2%前半で推移しており、今なら永久債を含めた超長期国債を3%台で発行できると見られる。3%台であっても年金資金の運用者などが喜んで買うと思われる。おそらく日本が超長期国債を発行するとなると2%台の発行が可能と筆者は考える。

    それほど世界的に資金が余っているのである。ところが大半のエコノミストやマスコミ(中には政治家まで)はこのような現実の金融に対する正しい認識がなく、ギリシャや南欧の国債価格の暴落を見て「やれソブリンリスクだ」「国債価格の安定には財政再建が急務」とカラ騒ぎをしている。そしてこのカラ騒ぎこそが問題をむしろ深刻にしている。ギリシャや南欧は例外であり、中でもイタリア国債などは売られ過ぎと筆者は認識している。


    筆者が日頃から主張している永久債の発行、また中央銀行による永久債の購入、さらには政府紙幣の発行といった政策は通常時には行わないものである。英国で永久債が発行されたのは、第一次世界大戦の戦費調達などのいずれも非常事態である(この他に18世紀の南海バブル騒動の時に英国で発行されている)。

    日本では03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」他で取上げたように、税財源を持たなかった明治維新政府が太政官札という政府紙幣を発行している。西南の役の戦費調達もこれで賄った。また03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」で取上げたように、高橋是清の日銀による国債引受け政策は世界恐慌が日本に及んできた時であった。いずれにしても非常事態であった。

    そして注目されることは非常事態で実施された「通常では行われない政策(政府紙幣発行や国債の中央銀行引受け)」がことごとくうまく行っていることである。とにかく今日の経済・金融が、非常事態までは行ってはいないとしても異常な状態という認識がまず必要である。それなのに政治家は経済・金融が通常の状態を前提にしたような政策しか思い付かないのである(増税と歳出削減)。


    日本を始め、世界の経済は非常事態まで行っていないが異常事態である。金融資産が増え、バブルを起しさらに金融資産が爆発的に増えた。人々は金融資産が増えることは良いことと思っているが、本誌がずっと指摘しているように一方で有効需要が失われている。しかしこの認識がほとんどない。金融資産が増えているのに、失業が増えるなど人々はどんどん不幸になっている。

    世界の金融資産が考えられないくらい増えるといった異常事態の裏側で、バブルが崩壊しギリシヤなどでソブリンリスクという非常事態が発生した。異常事態に対する対処が遅れたり間違ったため、異常事態が非常事態に発展したのである。


    ユーロという統一通貨を導入することによって、ユーロ加盟国は異常事態や非常事態が起った時の政府の機動性を完全に失っている。つまり統一通貨を使うことのリスクが、今日、明らかになったと言える。それにしても英国がユーロに参加しなかったことは、本当に賢明な選択であった。

    英国には永久債を含めた超長期国債の発行を是非実現してもらいたいものである。これによって世界にどれだけ金が余っているかが明らかになる。また「通常では行わない政策」がいかに有効であるかの認識が広まると筆者は考える。逆に今日世界的に起っている財政再建のための「増税」や「歳出削減」がいかに愚かな政策かということを知らしめることにもなる。さらに英国の中央銀行がこの永久債を購入するところまで進めば完璧である。



来週は英国の永久債発行の話をもう少し続ける。

本誌のバックナンバーがアップできない状態が続いていたが、ようやく解決した。問題はサーバの容量ではなく、筆者が間違って空ファイルを転送したために起った障害であった。



12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
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11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
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11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
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10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
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10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
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10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
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