平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/3/17(第7号)
政府の景気対策を考える
  • ちょっと古い話になるが、1月12日(日)に「テレビ朝日系」で放送された「サンデ-プロジェクト」の内容が興味深かったので、それについてまとめてみよう。番組は連日の東証株価の下落を受け、株価が今後の景気の行方を暗示すると言う前提で、政府の採るべき経済政策はどういうものか、識者に問うものだった。ゲストは東海総研社長・水谷研治氏、国際経済評論家・水野隆徳氏、野村総研研究員・リチャ-ド・ク-氏の三名であった。景気の先行きがあまり良くないことを前提に、「政府の経済政策はどうあるべきか」と言う問いに対する、3氏の回答は次の通りであった。

    水 谷水 野ク -
    減  税減税しない減税する減税する
    財政支出増やさない増やさない増やす


    以上の通りみごとに3氏の意見はバラバラである。ただ、名目では金利が下がるところまで下がった状態で、これ以上金利政策に期待できない点と、今の予算案の執行を前提にすれば、4月以降の景気は期待できないことについては、意見が一致している。
    筆者はどちらかといえば、これまで本誌で主張しているようにリチャ-ド・ク-氏の考え方に賛成であるが、先週号で述べた通り、日米政府の為替に対するスタンスが変わるまで(筆者は客観的情勢からいつ円高傾向に移っても不思議はないと考えているが--本誌第4号第5号をご覧下さい)期間を要するなら、外需の増加により、当分の間景気は底固く推移するのではないかと考えている。
    水野氏の意見は、他の二人のもののを合わせたようなものであり、また二人の中間的のものと言えるであろう。

  • 過去何回も政府により景気対策が採られてきたが、そのつど「有効策はなにか」と議論されてきたのは事実である。多くの場合は、せいぜい「財政支出の増大」と「減税」のどちらが有効であるかといったことが議論されたのである。ところが今回は景気の認識は一致しているのに、それに対する対策が180度違うのである。もっと正確に言えば、水谷氏は「景気が悪くなっても政府は関与しない」と主張しているのである。こまったことに、こういう意見は氏に限ったことではなく、広く政府関係者のみならず、与野党を問わず大半の政治家もこれに近いのである。一部の野党は「特別減税の継続を主張している」と言うが、筆者に言わせれば、「貯蓄性向」を考慮すれば同じ財源を使うなら一番効果があるのは「公共事業」であり、二番目は「消費税の減税」であり、一番効果が小さいのは「特別減税の継続」である。それに特別減税の絶対額もそんなに大きくないのだから、効果の程も知れている。したがってこれらの主張がどこまで本気なのか疑わしい。
    ところで、このように政府は「財政再建」の掛け声のもと、自らの政策の選択の幅を狭めているが本当に大丈夫であろうか。米政府から日本の内需拡大の要請(先週号をご覧下さい)があるが、どのような対策があるのか今後注目される。

  • エコノミストの中には「財政均衡主義者」と呼ばれる人々がいる。とにかく政府は収支を均衡させることが大事であり、経済の動きに対しての影響は中立を維持するよう主張する。また、一方にはよく似た考えで「小さな政府を標ぼうする人々」がいる。現状では、両者は「財政支出の削減」の点では一致しているが、前者はさらに「増税」による財政の均衡を主張しており、後者は「さらなる財政支出の削減」と「減税」を主張している。特に後者は政府の役目はなるべく小さくし、経済への介入さけるべきで、市場の自動調整メカニズムにまかせるべきと考えている。両者のような考えを持つ人々は、いつの時代にもどのような国にも現われる。特に経済がスランプに陥る時に現われ、発言力を増すからなお厄介である。さらに、世論調査でも「財政支出のカット」に賛成の人の方が多いと言うことでもあり、政治家もこのような意見を無視するわけにはいかないだろう。たしかに、昨今の役人の不祥事や公共支出の不経済性を指摘される度、「ごもっとも」と答えるしかないのである。
    しかし、筆者は「政府の効率的な運営と言うものには、まったく賛成であるが、経済がいびつな状態に陥ったら、政府は、経済に介入するという調整機能を保持し、必要に応じこれを使うべき」と考えている。場合によっては、国債を発行して「財政の支出を増大」することや「減税」を行うことにより「内需の拡大」が必要なのである。(2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
    をご覧下さい)

  • 「世界経済」に対する「日本経済」の影響は大きいものである。(これに対して日本経済の占める地位はかなりさがっていると主張される向きもあろうが、もしそれが本当なら各国から何もクレ-ムや要請がないはずであるから、政府にとってこんな楽なことはないであろう)  少なくとも日本の金融資産は莫大であり、この流れが各国の経済に与える影響は大きいことの自覚は必要であろう。ここが上記の「論者たち」の欠落している点である。日本の経済政策の失敗が自国民の不幸だけにとどまらず、他国にも迷惑をかけるのである。日本がまた「鎖国」でもするのなら別だが、経済の運営も国際協調を視野に入れるべきである。実際これまでも「世界経済の機関車役を期待されたり」「内需の拡大の要請を受け」ながら経済の運営を行って来たはずであり、ここへ来てこれらの働きを全て放棄することが本当にできるのであろうか。
    筆者が予想するシナリオは、当分の間政府のスタンス(緊縮的な経済政策)は変わらないが、各国(特に米国)からの要請(いわゆる外圧)が強くなれば、経済拡張的な政策を採らざるを得ないと言う形をとることである。しかしその政策は、時期遅れの小さなもので、効果はあまり期待できないものであろう。

  • 「世紀末」のせいか最近世間では、やたら「経済の未来論」がはやっていて、色々なシュミレ-ションが行われている。ただ現状を悲観的に見ている人の分析が多いせいか、だいたいが「今のままでは、20年後・30年後こんなにひどくなるのだから現在の政策を改めなさい」式の話である。しかし、これらのシナリオがはたして正しいのか検証のしようがないのである。この人々の言う通りの政策を採るともっと悪いことになっているかもしれない。また20年後・30年後にはこんな議論があったことさえ誰も覚えていないかもしれないのである。
    「楽観論を唱える者」より「悲観論を唱える者」の方が多少賢く見えるかもしれないが、 本当の知恵ある人は「過去の経験に学び、将来を語る人」であろう。リチャ-ド・ク-氏は、日本経済の現状が米国の30年代半ば頃の状態に似ていると指摘している。1929年に始まった不況に対して米国政府は 景気対策を行い、一応景気は持ち直しつつあったが、「財政均衡主義者」の勢力が段々強くなり、景気が持ち直す前に「緊縮型の経済政策」が採られ、その結果景気は前の落ち込みより一段と悪化したと言う歴史的事実である。

  • 筆者は、日本経済に関して外需が期待できる現状を考慮すれば、リチャ-ド・ク-氏ほどには深刻に考えていない。しかし氏の主張するところはまさに示唆に富んでいると思われる。
    また、筆者は、今の日本経済が、1985年 の「プラザ合意」前の状態に近ずきつつあると思われる。つまり「活発な外債への投資」による「円安」を背景に輸出が大きく伸び、各国(特に米国)から「市場開放」と「内需の拡大」を求められた時代である。「プラザ合意」後は急激な「円高」になり、「円高不況」に陥ったことはご存じのことである。(また大幅な円高により、外債投資を行っていた機関投資家はかなり大きな損を抱えたと想像されるが)

  • 筆者は、また、もっと長いトレンドで見た場合、現在の日本経済の形は30年代のむしろ英国のそれに似ていると思われる。英国が大きな大英帝国の莫大な金融資産を持ちながら、一通りの生産設備や社会資本は揃って、国内にめぼしい投資機会なくなった時代である。資金は溢れて、金利は下がるところま下がっているのに、新規の投資がない。投資機会を求め、資金は海外(新大陸やインドなどの植民地)にどんどん流れるのに、おりからの不況もあり、国内には失業者が溢れていた。
    このような状況下でケインズが「一般理論」を著わし、財政支出の増大による「有効需要政策」を訴えたのが36年である。「財政の均衡主義者(いわゆる古典派)」との間で論争(古典派は貯蓄が増えれば金利が下がり投資が生まれるのだから、政府は余計なことはしない方が良いと言う考え---一方ケインズは金利は下がってもいわゆる「流動性のわな」にかかり、貯蓄がどんなに増えても一定以上は下がりにくくなる。また、仮にそんなに下がっても需要がないのだから貯蓄は投資に回らないと指摘し、政府が財政支出を増大し、有効需要を創出すべきと主張した)になったが、やはり「均衡主義者」の方が勢力が強く、ケインズの政策は採用されなかった。それ以降の経過は、ご存じの通り各国とも不況克服に「財政の均衡」と「ブロック経済」でのぞみ、最後は第二次世界大戦である。ところが皮肉にも軍備の拡張は有効需要の創出を生み、ケインズの政策は実現し、失業問題は解消したのである。
    筆者は、日本が「このような緊縮財政」を続けると「戦争」になると言ったバカげた話をしたいわけではない。ただ、日本のような貯蓄過多の国が長い間「緊縮財政」を採り続けば、経済は外需に頼らざるをえなくなり、その結果、各国(米国だけでない)との軋轢が増大することを覚悟すべきと言いたいのである。



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