経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/2/13(696号)
デフレ経済下での増税

  • 消費税増減税の影響
    不思議なことに、消費税の増税論議が盛んになっている割には、増税が経済に及ぼす影響についての議論がほとんどない。増税推進派は敢てこの話を持出そうとはしない。一方、増税反対派は「増税は、デフレ経済を直撃し日本経済に打撃を与える」と主張している。しかし反対派も増税が経済にどの程度の影響を与えるのか具体的な数字で示しているわけではない。

    そもそも増税の推進派や容認派の人々の中でも、増税によって得られる財源の使い道については同じ考えではない。増収分の全額を社会保障に使うものと思っている者がいる一方で、増収分の大半を財政赤字の穴埋めに使うつもりの者がいる。主に財政危機を無闇に煽っているのは後者の人々である。


    当然、増収分の使い方によって、増税が及す経済への影響は大きく異なってくるがこの点の議論がほとんどないのである。本誌は10/6/21(第620号)「菅首相の想定」で、増税分をそっくり財政支出した場合の経済への影響を取上げた。

    増税を行ってその全額を財政支出に充てるとなると大きな政府政策ということになる。マクロ経済への影響は所得税の増税によるマイナスの効果と財政支出増大のプラスの効果の差引きとなる。筆者は、所得税の場合で増税と財政支出の組合せなら、増税額分の需要増があると結論付けた。貯蓄として退蔵される部分が財政支出に振り変わるからである(ホーベルモ効果と説明)。


    ただ今日問題となっている消費税増税の場合は、貯蓄性向が小さい低所得者の負担がより大きくなるため(反対に消費性向が小さい高額所得者の貯蓄の減り方が相対的に小さくなる)、このホーベルモ効果的なものは所得税の場合に比べ小さくなると筆者は見ている。つまり消費税の増減税の経済への影響は、所得税の増減税の影響と比べ相対的に小さいと考えられる。

    この点が誤解されている。以前、「消費税還元セール」を実施したスーパーが来店者を大幅に増やしたことが話題になった(消費税を値引きという表現は景品表示法に違反する可能性がある。正しくは消費税相当分の値引きであろう)。しかしこれはこのスーパーだけが実施したから効果があったのであって、他のスーパーも同じ事を行えば効果は薄くなる。


    97年の橋本政権による消費税増税の影響を振返ってみる必要がある。筆者は、この時の経済の急激な落込みは、消費税増税の影響だけではないと考えている。一つは消費税増税前の仮需要がなくなり、さらに反動で買い控えが起ったことである。また当時の金融機関の不良債権問題が表面化し、株価が大幅に下落したことによる逆資産効果もあったと見られる。

    そして最も重要なのは橋本行財政改革によって財政支出が削減されたことである。たしかに前年の96年は、バブル崩壊に対する政府の経済対策の効果と輸出の伸長によって日本の経済成長率は先進国の中で相対的に高かった。これに安心して橋本政権は財政再建にカジを切り墓穴を掘ったのである。

    たしかに消費税の増税と減税の経済への影響は、言われているほど大きくはないと筆者は見ている。消費税の増税の影響は消費物資の価格上昇として現れ、減税は反対に価格の下落となる。しかし価格下落が続く日本で消費が伸びたという明確な証拠はなかった。


    誤解してもらって困るのは、筆者が消費税増税を容認しているのではない事である。ところで政府は、消費税増税分を社会保障などの財政支出に充てるといったニュアンスの言い方をしている。この通り実施されれば、たしかに前述したようにマクロ経済への影響は小さいがプラスになる。

    しかし原理主義的な財政再建論者がそのような甘い事を考えているとは思えない。将来、社会保障を増やすと思われるが、一方で他の財政支出、例えば公共投資などを大幅に削減するつもりと筆者は見ている。「増税分は社会保障にしか使いません」と言っていても、他の財政支出が減らされては何の意味もない。


  • 政治家ごっこ
    これだけ消費税の増税論議が盛上がっているのに、客観的な経済への増税の影響を示す数値をほとんど見かけない。筆者が見かけた唯一と言って良いほどの数字が04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」で取上げた内閣府の「実質GDP押し上げ効果」であり、これを下記に示す。なお各数値は各々1%増減した場合の実質GDPの増減率である。また( )内は98年の旧モデルの数値であり、また3年間の合計数字は筆者が算出した。

    実質GDP押し上げ効果
    公共投資所得税減税消費税増税
    1年目1.14(1.12)0.48(0.62)▲0.18(▲0.14)
    2年目1.13(1.31)0.63(0.59)▲0.29(▲0.17)
    3年目1.01(1.10)0.58(0.05)▲0.24(0.10)
    合計3.28(3.53)1.69(1.26)▲0.71(▲0.21)


    たしかに前段で説明したように、これらの数値を信じるなら消費税の増減税のマクロ経済への影響は相対的に小さいことになる。ところが消費税増税を推進したいはずの政府が、この数値を何故か前面に出していない。理由の一つはシミュレーションモデルの信頼性が低いことが考えられる。たしかに消費税の増減税の影響が小さ過ぎる印象を筆者も受ける。また公共投資の押上げ効果の大きい事がバレることを危惧しているとも考えられる。


    筆者は、財政再建論者達が財政再建には増税と歳出削減しかないと思い込んでいることをずっと問題にしてきた。彼等の視野は狭くなっている。当然、経済の成長による税収の増加政策というものがあってしかるべきである。

    さらには政府紙幣発行や永久債の日銀引受けなど、増税に頼らない方策はいくらでもある。実際、日銀は国債買い切りオペ残高を90兆円まで増やしている(新たな財源の確保にはこの金額をさらに増やせば良い話である)。この事がなかなか浸透しないのが残念である。ただ「財政支出の無駄遣いをなくすことが先」と言った小さな政府論者の例の増税反対論は雑音でしかない。


    筆者は、世論が一足飛びに「政府紙幣発行」や「永久債の日銀引受け」に行くとは思っていない。筆者がましな主張と思っているのは「このデフレ経済下の日本で増税とは正気の沙汰ではない」と言ったセリフである。民主党議員の中にもこれを主張している勢力がある。これは単純であり人々にも分りやすい。

    とにかく消費税議論ではマクロ経済への影響や他の財源確保についてもっと議論すべきである。「不退転で取組む」とか「ブレない」といった政治姿勢なんてどうでも良い事である。松下政経塾出身の政治家の「政治家ごっこ」は他でやってくれ。



来週は地方自治体を取上げる。



12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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