経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/1/23(694号)
世界的な金利低下

  • 正気の沙汰ではない事
    本誌は10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」で世界的に金融業が既に斜陽産業となっていることを指摘した。この根拠として、世界的に金融資産が異常に膨張し、金融業が扱う商品である「資金」というものが希少性を失っていることを挙げた。これも先週号で取上げた「過剰貯蓄による災い」の一つなのかもしれない。

    この金融の状況を反映し、世界全体で見れば資金の価格である金利は低下している。ここが大事なポイントである。上昇しているのはギリシャなどのような信用不安を抱えた国々の金利や、不良債権が問題になっている欧州の銀行の間の取引金利である。その銀行間の取引金利でさえも、昨年12月の欧州中銀(ECB)の資金供給拡大後、落着きを見せている。連日の上昇によって0.6%に近付いていたロンドン銀行間金利(LIBOR)のドル3カ月物金利は、直近では0.56%程度まで低下している。


    たしかに欧州の金融情勢については今後も波乱が十分予想される。しかし今回のECBの対応のような政策がどんどん実施されれば、何とかなんとか安定を保つことができるかもしれない(ただ今後必要な施策を実行するだけの見識がEUの指導者に有るかは疑問であるが)。つまり南欧の金利の状況だけを見て物事を判断するととんでもない間違いに陥るということを筆者は指摘したい。

    ところがEU各国を始めとして「第二のギリシャにはならない」といった声が大きくなって、どの国も財政再建に走り始めている。また各国で政権交代が起っていて、財政規律により厳しい政権が次々と誕生して行く気配がある。しかしこのようにマクロ経済や金融全体の大きな流れを無視した政権の運営が続く限り、経済の復興はとても無理である。


    20年も不況が続く日本でも、唐突に消費税増税による財政再建が推進されようとしている。当然、増税は経済に影響を与えるが、ほとんどこの事は考慮されていない。野田首相にとっては「ブレ」ない事の方が大切らしい。

    しかし「ブレる」とか「ブレない」といったことは問題ではない。状況が変わったり、新しい情報や別の知識に接することによって政治判断を変えることは、政治家にとって必要な資質であり常識である。「ブレる」とか「ブレない」といった事に政治家としての価値を見い出すこと自体が異常である。

    ところが最近の政治家には「ブレない」ことを政治的テクニックの一つと考えている者が多い。おそらく小泉首相をマネているのであろう。たしかに政策や意見を変えることによって支持を失った政権が続き、また政治生命を断たれた政治家も多い。さらに意見を変えることがマスコミや野党に格好の攻撃材料を与えることになっている。


    しかし政治家にとって一番大事なことは、正しい情報と知識を基にした正しい政治判断を下すことである。日本は、今日、金利がさらに低下傾向にあり、新卒者の就職状況は最悪の状態が続いている。この経済状況で「増税に不退転の決意」なんて正気の沙汰ではない。

    増税を急がなければならないほど日本の財政が悪化しているわけではない。その根拠は、日本の長期金利がまた1%を割込んで、これが世界で断トツの低い金利であることである。ところが増税を推進する財政再建原理主義者は、卑怯にもこれには一切触れようとしない。

    またバーチャルな日本の財政赤字の数字がどうしても気になるというのなら、筆者達が主張してきた政府紙幣の発行や日銀による国債の購入を考えれば良い。政治家を始め日本中が、バーチャルな財政赤字の数字に翻弄されている。特に政治家には、現在、他にやるべき事や考えるべき事が沢山あるはずである。


  • 中央銀行による国債の購入
    世界で膨張した金融資産という名の過剰貯蓄が色々な方面で問題を起している。一つは各国の財政悪化であり(景気対策による歳出増と税収減による)、もう一つは有効需要の壮大な喪失である。もっとも有効需要の喪失がバーチャルな財政数字を悪化させてきた面がある。

    世界中が失業の増大に示されるような経済の低迷と財政の悪化に見舞われている。さらに金利が世界的に低下している(欧州のソブリンリスクによる金利上昇はあくまでも特殊事情による)。まさに日本がバブル経済崩壊後(筆者はオイルショック後と認識しているが)に経験してきたことである。


    これらに対する究極の解決策は、前段で述べたように政府紙幣の発行や中央銀行による国債の購入と筆者は考える。ただ政府紙幣の発行はあまりにも大胆な政策であるだけに実現が難しいであろう。せっかく中央銀行があるのだから、中央銀行による国債の購入というところに落着くと思われる。

    もっともこの政策は既に実施され始めている。米国ではFRBによる米国債の購入が実施され、さらにQE3が噂されている。英国もイングランド銀行が国債買入れを実施している。日本も日銀が国債買い切りオペ額をこれまで増やしてきた。問題は中央銀行による国債の購入によって得られた資金を何に使うかである。

    金融機関に資金が有り余っているのだから、中央銀行が単に国債や債券を買って金融緩和を行っても効果は薄い。もし本当に経済を立直すという決意があるのなら、この資金を財政支出に充てるべきである。しかしどの国でも財政が悪くなっているという事になっており、財政の無駄が真っ先に問題になっている。この状況で財政支出を増やすには、政治家に大きな勇気と決断力が必要となる。


    EUのソブリンリスク問題の解決のカギも中央銀行による国債の購入である。しかしこれを実施するには必要な政治体制の構築から始める必要がある。現状の体制のままならECB(欧州中銀)による共同債の買い入れということになる。しかしまずドイツの反発が強く共同債の発行が難しく、ましてやそれをECBが買い入れることはさらにハードルが高くなる。

    もう一つは、ユーロを解体し各国の国債を夫々の国の中央銀行が購入するという方法である。しかしせっかく作ったユーロというものを消滅させるという話も現状では現実的ではない。おそらく中間的な政策、例えば極めて限定された額の共同債を発行しそれをECBが買い入れるといった中途半端な政策になると筆者は思っている。しかもその程度の政策の実施でも相当の時間を要すると予想される。


    最初は色々な理由で過剰貯蓄が発生する。例えば将来に備えた年金の積立や所得格差の拡大(高所得者の消費性向が小さい)、そして原油価格の高騰などがある。次には実態経済(設備投資、住宅投資、耐久財購入資金、運転資金など)に必要な以上の貯蓄は過剰流動性となって実態経済以外に流れる。

    具体的には過剰貯蓄は不動産や株式、そして金などの商品などの市場に流れる。銀行は実態経済以外に資金を流した方が収益が大きいのでその方面での運用を拡大させ続け、最後にはバブルが発生する。そして銀行の信用創造機能がこのバブルの生成を助長する。そしてこのバブル経済によってさらに過剰貯蓄が格段に増える。


    実態経済は民間経済と言い換えても良い。民間経済は予想収益率と金利を比べ借入を決めると考えられる。今日、日本、ドイツ、米国の10年の長期金利は既に1〜3%まで下がっている。しかしここまで金利が下がっても民間は銀行から借入れを起してまでは投資を行おうとしない。

    これは民間が需要以上の過剰の設備を今日抱え込んでいて予想収益率が低くなっているからである。つまり世界的に収益を生むための民間投資が、それほど必要とされない経済状況に入ったと判断されるのである。そしてこの段階になると過剰貯蓄を使う者がいなくなる。

    場合によっては過剰貯蓄がなくなるまで経済が縮小することも考えられる。しかし過剰貯蓄は政府が使えば良いという事に気付くバランス感覚のある者も結構いる(FRBのバーナンキ議長などもその一人と言える)。金利がタダ同然なのだから、過剰貯蓄を政府が借りるかあるいはそれに見合う国債を発行し中央銀行が購入すれば良いのである。どうせ民間が資金を必要としないのだから、調達した資金は、インフラ整備や社会保障など国民が喜ぶことに使えば良い。ちなみに国債を中央銀行が購入すれば国の実質的な金利負担はゼロである。



来週は政治家について述べたい。



12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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