経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




11/12/5(689号)
「騒ぎ屋」の時代

  • 本質をずらす「騒ぎ屋」
    世の中で大きな問題が起って人々は驚いたり心配する。しかし多くの場合、それが大した事でなく解決する方策も存在する。ところがその問題で人々に必要以上の恐怖を与えることを生業(なりわい)にしている人々がいる。不良マスコミ人がその代表である。またかなりの政治家や官僚もそれに近い。政治家は次の選挙を意識し注目を集めるためである。官僚は、自分達の立案した政策を進めるためであったり、所属官庁の官僚機構の中での権限の拡大を狙って騒ぐ。

    筆者は彼等らを「騒ぎ屋」と呼んでいる。もちろん彼等の言っていることが正しいのなら全く問題はない。ところが前述のようにそれが大袈裟であったり間違っていることがよくある。しかし一般の人々は、話がおかしいと思ってもそれを覆すデータや情報がない。日本の財政問題はその典型である。


    単なる「騒ぎ屋」なのか見極める必要がある。まずそれには彼等が言ってきたことを吟味しなければならない。一つは彼等の言動の微妙な変化を捉えることが大事である。最近、産経新聞の大御所の論説委員が「日本の財政はバブル崩壊までは良好だったが、今日、最悪の状態になった」と驚くような論説をしていた(この文章はネットでも見かけたが、今探しても見当たらない)。

    どう考えても日本の財政が悪いという事が問題として浮上したのは、バブル経済のはるか前である。筆者もずっと大平首相が始めた財政再建運動が日本経済を狂わせ(内需縮小政策が円高を招き、この円高不況を克服するため金融緩和に片寄った政策を実施しバブルを生成した)、後のバブル経済の原因を作ったと主張してきたほどである。それを今頃になって「バブル崩壊まで日本の財政は良好だった」とは何事だ。もっともこのように脇が甘いのも「騒ぎ屋」の特徴である。

    この論説委員は筋金入りの増税論者であり、また小泉改革の熱心な賛同者でもある。彼等のような財政再建論者はよく「日本はイタリアより財政が悪い」とこれまで盛んに言いふらしてきた。ところが財政の悪いとされるこの日本に欧州は支援を求めて来ているのである。つまり日本の財政が最悪という話は悪質なデマである。

    しかしこのような「いい加減で卑怯」な財政再建論者の言論が幅をきかせ、日本の経済運営は完全に間違った方向に向かっている。産経新聞は自称「保守派」であり、「日本人の心を大切に」と言ってきた。しかしこのような論説委員の言動が、日本の国力を削ぎ日本国民を不幸に陥れてきた。この「騒ぎ屋」まがいの論説委員に、長年、いい加減な発言の場を提供している産経新聞とは何という新聞であろう。


    「騒ぎ屋」は問題の本質をずらす。例えば前述の話のように「日本政府の債務残高はGDPの200%以上もありイタリアより悪い」という話をよく耳にする。しかし10年物の日本の国債の利回りが1%であるのに対して、イタリアの国債は7%程度である。つまりイタリアの年間の利払い額のGDP比率は、日本に比べ格段に大きい。

    一方、日本国債の利払い額のGDP比率は世界的に見ても小さい。ましてや日本政府は、一方で膨大な外貨準備などの金融資産を所有していて、純債務の利払い額はさらに小さくなる。この辺は10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」でも取上げた。

    本誌が主張してきたように日本の財政が他の先進国に比べ悪いわけではない。ところが「騒ぎ屋」が「日本の財政は最悪で増税は待った無し」と言ったキャンペーンを繰り広げている。このままでは日本の財政・経済政策は間違った方向に進む。健康体の人が「あなたには病気の徴候がある」と「騒ぎ屋」に言われ続け、その結果、本当に健康を損うようなものである。大平政権に始まる財政再建運動以降の日本経済の変遷を見ていると、この悪夢が現実のものとなりそうである。


  • 本質を外したTPPの議論
    先週号までの3週間で、日本で物事の本質や根本がないがしろにして、どうでも良い事に人々の関心がそらされていることを指摘した。例えば、今後、年金の給付金はどんどん増えて行く。しかし年金給付金からの消費といった需要に対応する供給力が日本にある限り問題はない。また年金財政の問題を解決するにはセーニアリッジという方策もある。今議論すべき事は、消費税増税ではなく、政府紙幣の発行やそれに準ずる政策であろう。

    この他にも「GDP以上の伸びを示す金融資産の経済への影響」「60才以上の高齢者に再就職先がないのに年金給付開始を68才以上にしようといった政府の方針」「本来人々に恩恵を与えるべき技術進歩がむしろ失業を生む」といった大きな根本問題を取上げた。つまり供給力が大きく伸びているにもかかわらず、日本人が幸せになれない現実を問題にしたのである。今の日本経済を表現するのなら、まさにケインズが指摘した「豊穣な国の貧困」である。


    本質を外した議論ということになるとTPPの話も同様である。筆者は、11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」で一年前述べたように、TPPが米国が参加することによって性格が変わったと筆者は思う。グローバル経済の信奉者が考えるような「自由貿易の枠組み」といった単純な話ではなく、TPPが中国を封じ込める機構に将来変身する可能性があることを筆者は示唆した。つまりTPPが経済の連携に止まらず、軍事的同盟に進む可能性があると筆者は考える。

    つまり将来とも米国と同盟関係を維持するのか、それとも中国に接近し米国離れをするのか日本に選択を迫っていると言える。ところが単細胞のグローバル経済信奉者は「まずTPPに参加し、将来中国をこれに引込む戦略を考える必要がある」といった本質を外した間抜けな主張を行っている。

    筆者達は、時々今後どのような国との友好関係を維持して行くのが好ましいのかといった話をする。真っ先に浮かぶのは日本領土に野心を持たない国々ということになる。具体的にはちょうどTPPの参加国のような国々が候補に挙がる。


    筆者は05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」で述べたように、日本が他国との経済関係深めたり、ましてや他国に過度に依存することに反対してきた。実際、中国との経済関係が強まるにつれ日本の名目GDPは縮小している。これに対して「中国との交易が増えたから日本経済の縮小はこの程度に収まっている」という屁理屈が聞こえて来そうである。しかし日本政府が内需拡大に極めて消極的であったことが、日本経済を中国依存に追いやったと言えるのである。

    「鎖国主義」と言っても、全くの鎖国を標榜するものではない。ただ付合う国を吟味するということになる。また周辺に異常な軍事力強化に励む国がある以上、日本の安全保障という観点が必要となろう。日本がTPPに参加するか否かは、TPPがどの程度安全保障に関わってくるのかに掛っていると筆者は考える。


    TPPの議論で欠けているもう一つの本質的な問題は、11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」でも取上げた「為替」である。「為替」が今日操作されている中で「自由貿易」なんて有り得ない。この話は本誌でも繰返し取上げてきたので詳しくは述べない。

    ようやくブラジルが為替の不当操作を批難するようになったが、中国がこれに猛反発をしている。ただブラジルのような国はいまだ少数派である。それにしても不思議なことにグローバル経済信奉者は、この問題に一切触れようとしない。しかし関税障壁よりこちらの方が影響は大きいであろう。



来週は財政破綻の話を取上げる。



11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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