経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/10/24(683号)
気乗りしないTPPの話

  • 推進派VS反対派
    今週はあまり気乗りしないが、話題になっているのでまずTPPの話をする。これは11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」で取上げてから一年も経っていないので、筆者の考えもそれほど変わっていない。それにしてもTPPに関しては分らないこと、不明なことが多過ぎるとまず指摘する必要がある。ところが政府は、来月のAPEC総会までに、このTPP交渉に参加することを決定したいと唐突に言い始めた。


    TPPを推進する立場の人々、つまり推進派は、TPP参加を決定するのではなく単に「交渉」に加わることを決定するだけと主張する。交渉の過程で、TPPというものがとても受け入れられないものなら、そこで参加を取り止めれば良いと言う。また仮にTPP参加ということになれば、交渉に最初から加わっていた方が日本の立場は有利になるとしている。もっともらしい言い分である。

    一方、反対派は「TPP交渉への参加はイコールTPP参加」と捉える。交渉に一旦参加すれば、最終的にTPP加入は避けれないと見ている。たしかに世間体を気にする日本人の性格からすれば「日本がTPPを壊した」といった批難を受けたくないと考えるのが普通である。それならば最初から交渉に参加しない方が良いと反対派は考える。

    ただ反対派の中には慎重派という人々もかなり含まれ、彼等はTPPそのものよりも政権のこれまでの事の進め方や手順の方を問題にしている。例えばTPPは極めて広い分野の国際交流を含んでいて、これまで国内で全く議論がなかった分野が多い。このようにTPPに関しては問題や疑問が山積の状態であり、直に交渉なんて有り得ないと主張する。ところが政府は「一カ月後には交渉に参加する」と先走って国際的な約束をしようしていると慎重派は強く批難している。


    ところで一般の日本国民の多くは、TPPに関し「取り敢えず交渉に参加するくらいなら構わないのではないか」といった軽い感じであろう。たしかに直接的な利害のない一般の人々は、それほど真剣にTPPのことを考えたことはない。したがってTPPに関しては世論調査の数字を尊重するなんてできないのが現実である。


    TPPについては推進派と反対派で根深い対立がある。これはTPPだけに限った対立図式ではないと筆者は見ている。反対派の多くの人々は、おそらくTPPみたいなものを推進する人々の性格や人格を嫌っているのである。たしかに推進派には、グローバル経済の信奉者や日頃から軽率な発言を繰返している政治家などが目立つ。

    つまりTPP推進派はいつものメンバーである。基本的に構造改革派であり、彼等は日本経済をグローバル化し規制緩和をすることが経済の成長戦略と唱える。そしてTPPに参加しなければ、日本は、韓国や中国との競争に負け経済は衰退すると脅している。しかし彼等は、TPPでメインテーマになっている関税などより、ずっと大きな問題である不当な韓国ウォン安や人民元安の問題を取上げることを何故か避けたがる。


    マスコミもTPPの事がよく分らないためか、適切な報道をしているとはとても思われない。実際のところ日本にTPP交渉への参加を要請しているオバマ大統領自身も、TPPのことを正しく理解しているか怪しい。TPPが米国にとって本当に必要なものなら、もっと前から強く日本に要求していたと思われる。

    おそらくオバマ大統領にとって、これは来年の大統領選挙に向けた単なる外交ポイントの一つに過ぎないと筆者は考える(ただし一般の米国国民はTPPにほとんど興味はないはず)。つまり日本がオバマ大統領の再選にどこまで協力してくれるのかオバマ政権は見ていると筆者は思っている。


  • EUが手本
    筆者は、混乱があっても来月のAPEC総会までに日本はTPP交渉に参加する意思があることを表明すると思っている。いずれにしてもAPEC総会までは、日本国内でTPPの議論は盛上がるであろう。しかしAPEC総会が終われば、急速に人々のTPPへの関心は薄れると筆者は見ている。

    一方、TPP加盟国(準加盟国を含め5カ国)や加入予定国(4カ国)はTPPについて協議を続けている。しかし対象分野が非常に広いことや加盟国が増えることによって、妥結が一段と難しくなっている。もっともWTOを見れば分るように、参加国が増えるにつれ妥結が難しくなるのは当然の話である。


    マスコミはあまり伝えないが、11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」で述べたようにTPP加盟国(シンガポール、ブネネイ、チリ、ニュージランド)であっても、既にTPPに興味を失いつつある国もある。具体的にはニュージランドである。実際のところ、TPP参加国にとってもどれだけメリットがあったのか不明であろう。


    TPPに先行してEUやNAFTA(北米自由貿易協定)などの地域協定がある。おそらくTPPは、EUにより近い形を目指していたと考えられる。当時、EUだけでなくいくつかの地域協定が発足し、世界経済がどんどんブロック化する様相を見せていた。

    当初のTPP加盟国は小さな国ばかりであり、このような世界の動きに危機感を持った。このままでは小さな国はどこの地域協定からも相手にされなくなる恐れが出てきたのである。つまり小さな国が集結することによって、大きな国との交渉を有利に導こうというのがTPP発足の主旨であったと考えられる。


    しかしこれはEUが、順調に発展して輝いていると見られていた時代の発想である。しかし今日、様々な経済問題が欧州に起っている。もしこのような事態が事前に分かっていたならTPPといった考えが生まれていたか疑問に思われるほどである。

    EUの問題は、ソブリンリスクなどの金融問題だけではない。例えばEUに域外から大量に移民が流入した問題が起っている。これは移民流入に甘い加盟国が有り、このような国を経由してEUに入ってきたのである。このような事態はEUも想定していなかったのである。またEUだけでなく他の地域協定にも色々な問題が見え始め、加盟国自体もTPPに対する熱も冷めている可能性が大きい。


    前から述べているように筆者は、日本のTPP参加に積極的に賛成することはもちろんないが、特に反対もしない。例えばTPPの性格が変われば、日本の加入も有り得ると見ている。その可能性の一つとしてTPPが軍事同盟的な色彩を帯びることである。

    ただ少なくとも今のTPPに参加しなければ、日本が衰退するという話は大嘘と考える。筆者は、TPPの話にあまり乗り気になれないのは、このようないい加減な言動が幅をきかしているからである。日本のマスコミは、TPPの実体をほとんど伝えず、いつも日本の農業などが日本経済の足を引張っているかのような印象を与え続けている。


    ユーロ圏の金融危機への対処は、銀行の資本増強策などが具体的に決まってきた。ほぼ本誌でも想定していた線である。しかしこれらによって欧州の金融・経済問題が解決の方向に進むということではない。これはあくまでも当座の応急処置に過ぎない。

    欧州経済が上向くといった徴候は見られない。むしろ南欧の債務国の経済はもっと悪くなることは必至である。これに引張られて他のEU諸国の経済も落込む見通しである。経済が悪化すれば、債務問題は永遠に続くことになる。この解決には財政による経済浮揚策が必要になるが、EU首脳にはそのような事を考える余裕は全くない。



来週もテーマは未定である。

世田ヶ谷の放射線騒動では、週刊誌は住人が年間30ミリシーベルの放射線を浴びていたと伝えている。しかし専門家によっては年間90〜180ミリシーベルトの被曝量と算定している。そしてここに50年住んでおられた方はいまだ健在である。これに対して古い放射線防護の学説にしがみついている学者は苦しい弁明をしている(年間1ミリシーベルト以上の被曝は健康被害を起すと主張する)。それにしても原因物質の撤去が早すぎる。放射線防護研究の観点から、もっと徹底的に調べてからラジウムを撤去すべきであったと筆者は考える。結果的に真実を隠そうとしたと言われてもしょうがない。撤去したラジウムを元の場所に戻し、放射線量をもう一度きちんと調べ直すべきである。



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11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
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11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
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11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
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11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
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