経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/10/17(682号)
解決策はユーロ離脱か

  • より厳しいストレステスト
    先週は、欧州の信用不安にまつわる事項で具体的な動きがいくつかあった。一つはスロバキア議会がもたつきながらも欧州金融安定基金(EFSF)の機能強化法案を承認したことである。これによって正式に欧州金融安定基金の各国出資分の信用枠は4,400億ユーロに拡大された。さらに基金を金融機関への資本注入や加盟国の国債購入に使えるようになった。

    もう一つは、フランス・ベルギー系銀行のデクシアが解体・国有化されたことである。フランス、ベルギー政府の国費投入による事実上の破綻処理であり、預金は全額保護される。デクシアはギリシャやイタリアなどの南欧諸国の国債を大量に保有していたため、経営不安が囁かれていた。処理は唐突な印象を受けるが、ロンドン銀行間金利(LIBOR)の異常な上昇に見られるように、信用不安を抱えるデクシアのような銀行は、市場からの資金調達が困難になっている。

    デクシアの破綻処理は、欧州の銀行が置かれている厳しい状況を示している。ロンドン銀行間金利のドル3カ月物金利は先週も毎日上昇した。このように銀行間の資金の融通は難しくなっており、今後もデクシアのように行き詰る銀行が出てくることは十分有りうる。


    デクシアの破綻を見ても分るように、これまで実施されたストレステストは有効でなかった。7月のストレステストではデクシアは問題ないとされていた。今後、EUは加盟国の銀行により厳しいストレステストを課す方針である。具体的には、国債価格の見通しの一段と厳しい査定と中核的自己資本の規制強化(5%から7〜9%へ)である。これによって欧州の銀行は3,000億ユーロの資本不足に陥るという観測がある。

    つまりスペインやイタリアの国債価格は想定以上に下落しており、新たなストレステストによって大きく資本が毀損する銀行が出てくることは避けられない。もっとも筆者は、南欧諸国の国債の評価損だけでなく、欧州の銀行がバブル崩壊に伴う不動産融資の焦付きも大きくなっていると見ている。ただこちらの方はあまり話題になっておらず、このことが不思議に思われる。いずれにしても資本不足が明らかになれば、銀行の自己努力による増資を別にして、政府支出や欧州金融安定基金(EFSF)といった公的資金による資本増強が考えられる。ただし欧州金融安定基金側は、順番として各国政府による資本注入の方が先としている。

    しかし金融機関(主に銀行)の経営陣は、責任を問われる可能性のある公的資金による資本増強を避けたがっている。これは昔の日本の銀行の不良債権処理でも経験したことである。また欧州の一般国民は、公的資金を使った銀行の救済に抵抗が大きい。これも日本で見られた光景である。このように簡単に資本増強と言っても、実際に実施されるまでには大きな障害がいくつもある。


    いかなる処置を経てもギリシャのデフォルトは避けられない。7月にギリシャ政府に対する債権を有する欧州の金融機関は、自主的に21%の債権カットを申し出ている。しかしEUではこれを50〜60%に引上げることを検討している。したがってギリシャ政府の債務残高が4,530億ユーロであるから、2,300〜2,700億ドルの貸倒れ損失が金融機関に発生する可能性がある。その損失の大半は欧州の金融機関に発生すると考えて良い。


    ところで欧州金融安定基金の信用枠が4,400億ユーロと小さいことが問題になっている。そのためEUは信用枠のさらなる拡大策を検討している。しかしその方策が加盟国17カ国の承認が必要となるならまた一騒ぎである。

    またデクシアへの国費投入によってベルギーやフランスの国債がトリプルAから格下げされる可能性が出てきた。もし格下げが行われたならば、欧州金融安定基金の発行する債券のトリプルA枠が両国の負担分だけ小さくなるという問題が発生する。このように欧州の信用不安問題には終わりが見えない。


  • 誰も持っていない解決策
    NYの株価は3週連続して上昇しており、欧州の株価も回復している。またユーロ相場も多少戻している。株式市場の動きだけを見ていると、何か欧州の債務問題が解決したような錯覚を覚える。

    前段で取上げたように経営不安が囁かれていたデクシアが破綻処理され、スロバキア議会が欧州金融安定基金(EFSF)の機能強化法案を承認した。たしかにこのように二つの懸案事項が先週片付いたため、それらにまつわる不確実性がなくなったと言える。今のところ株式市場の急回復は不可解であるが、それを反映していると考える他はないのだろう。


    ギリシャを始め、支援を受ける南欧の経済はマイナス成長が予想されている。これでは財政が再建されるわけがない。しかしこれらの国に金を注ぎ込み、当面の破綻を防ぐ他はないというのが現状である。

    EU首脳が実行可能で抜本的な解決策を持っているとは思われない。また新興国が、奇跡的な経済成長を達成し欧州経済を助けることも考えにくい。また支援を受けるため財政支出を削減している国々では、人々がストやデモを行ってこれに抵抗している。しかしこれらの人々も解決策を持っているわけではない。このように時間が過ぎるだけで、その間に事態が好転することはないと思われる。


    筆者は、解決策があるとしたなら、それは債務問題を抱えた国のユーロからの離脱と考える。ユーロから離脱し自国通貨を発行し、この新通貨の大幅な切下げを行うことである。これによって経済を立直す他はない。

    これに関する大きな問題は旧債務の取扱いである。ただギリシャに関しては、前段で述べたように債権国も大幅な債務カットの覚悟が既にできている。これを考慮して新通貨の相場を決めれば良いのである。


    もしギリシャがユーロから離脱すれば、一時的には、輸入品が高騰しギリシャは物価高に見舞われる。しかしギリシャ国民は、これに対して自国での生産に励むようになると思われる。またギリシャの通貨が安くなれば観光客はかなり増える可能性がある。ユーロ離脱から数年は、経済的に厳しいかもしれないが、その後ギリシャ経済が再生するものと考える。大体、ギリシャは、ユーロ加盟前、何年か一度通貨の切下げをずっと行ってきたような国である。

    以前、ロシア(98)とアルゼンチン(01)もデフォルトを起した。しかし両国とも通貨を大幅に切下げてこの苦難を乗越えた。両国も通貨の切下げによって、物価が上昇したが、これによって自国の生産が活発になり経済は再生した。ロシアとアルゼンチンは、資源や農産物といった一次産品の生産が経済の中心の国であり、ギリシヤと事情は違うけれど通貨切下げが同じく経済再興の切り札になると筆者は考える。


    ただユーロの場合、問題がギリシャにとどまらない。もしギリシャがユーロを離脱した場合、イタリアやスペインまで離脱が波及する可能性がある。ユーロ加盟国の主要国であるドイツやフランスなどは、これを恐れギリシャのユーロ離脱をなんとか防ごうとしている。

    しかしギリシャにとってユーロに残ることはジリ貧路線を続けることを意味する。仮に今回大幅な債務のカットを受けても、経済が立直らない限り、数年経てばまた債務危機に陥ることは見えている。同じことはイタリアやスペインにも言える。



来週号のテーマは未定である。

欧米の株価は順調に回復しているが、ロンドン銀行間金利(LIBOR)のドル3カ月物金利は、先週も毎日上昇し先週末には0.40472%(先々週末は0.39111%)になった。欧州の金融情勢がますます悪くなっていることをこれは示している。



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