経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




11/10/3(680号)
現実論者VS観念論者

  • ギリシャのデフォルト回避
    9月27日ギリシャ議会は増税法案をなんとか通過させ、ギリシャは10月にEUとIMFからつなぎ融資を受けられそうである。したがって10月中旬がタイムリミットのギリシャ国債のデフォルトは避けられる見通しである。ただ10月末には、年金減額や公務員削減といった緊縮財政の関連法案を成立させる必要がある。このようにギリシャのデフォルト回避のための綱渡りが限りなく続く。


    ギリシャ発の欧州市場の混乱は一時的に鎮めることができるかもしれないが、根本的な解決策を見い出すことは難しいと思われる。まずEUの参加国が多いことによって意思統一が容易でない。また経済政策の決定を各国に委ねておきながら、共通通貨のユーロを導入したといった大きな矛盾を抱えている。おそらくこれが最大の難点であろう。

    ギリシャ政府の債務残高は4,530億ドルと一般に思われている以上に大きい。過去のデフォルトで期日通りに支払われなかったケースとしては、アルゼンチン(01年)の823億ドルとロシア(98年)の727億ドルがある。つまりギリシャの債務が全額デフォルトになると、これらの国の5倍以上の不良債権が発生することになる。

    したがってそのような事態が起れば、フランスやドイツなどの金融機関が不良債権処理によって資本不足に陥る可能性が出てくる。またフランスなどの政府がこれに対して財政的な支援を行えば、これらの国の国債の格下げに繋がる。このようにギリシャの債務問題をきっかけに、欧州の金融不安のドミノ倒しが始まる恐れがある。EU首脳にとっては、とにかくギリシャの突然のデフォルトだけは避けたいところである。ところがそれぞれの国の国民はギリシャ支援に強い抵抗感を持っているため、実行可能な対策も限られる。


    欧州経済の混乱に関しては、注目がギリシャの債務問題だけに集まっている。しかし一方で欧州の金融機関の信用低下が目立っている。もちろんギリシャの債務問題の影響もあるが、その他にバブル崩壊による不良債権の増加があることが見逃されている。

    ギリシャの債務問題は収束の方向に向かっているという雰囲気はあるが、市場の見方はむしろ厳しくなっている。9月初旬、ロンドン銀行間金利(LIBOR)のドル3カ月物金利は0.33%まで上昇していた。ところがギリシャの債務問題への対処が曲がりなりにも進展しているにもかかわらず、さらに毎日のように上昇が続き9月末には0.37%(0.37433%)に達した。


    そこで欧州経済の混乱を収束する方策が本当にあるのかを考えてみる。EU、欧州中銀(ECB)、IMF、そしてドイツやフランスといったEU主要国は、欧州の金融危機を回避するための諸策を講じている。しかしこれまでの対策は、問題が噴出してからの後追いであり、対策規模も不十分であった。

    また今実施しようとしている諸策は、ギリシャに対する当面のつなぎ融資を実施するための条件作りに過ぎない。これは株価急落やドル資金の調達難といった、今日、EUが直面している市場の動揺を鎮めることが主な目的である。たしかにギリシアの突然のデフォルトを避けることができれば、数カ月の時間的余裕が生まれる。しかしその間に抜本的な対策が講じられるかは不明である。


    EU首脳がなんとか当面の危機的状況を回避したがっているのは分る。しかしギリシャの問題を別にして、欧州経済を抜本的に立直すことは困難である。それどころかEU各国が緊縮財政を続けていることによって、むしろ欧州経済は下降している。ところが景気低迷によって金融機関の不良債権が増加することに、不思議なくらいEU首脳は無頓着である。

    EU関係者に問題解決のためのアイディアが無いわけではなく、むしろ観念論者が多い欧州を反映してか様々な構想がポンポン出ている。「欧州金融安定基金(EFSF)の規模拡大」「欧州金融安定基金(EFSF)に銀行機能の付加」「共同債の発行」などである。中には「トービン税の導入」という話まである。これについては本誌も06/7/3(第443号)「トービン税について」で取上げたことがある。問題は、これらの構想の実現性と効果であり、もう一つは意味の分らない緊縮財政の継続である。


  • 借金踏倒しの常習
    世界的な株価下落と景気後退が起っている。ところが日・欧・米とも有効な対策を持っていない。これは先週号で述べたように、人々が「金融資産が増える(バブル生成と崩壊によって)につれ、有効需要が不足するといったメカニズムを全く理解していない」からである。そこで各国が、今後、どのような方向に進むか大胆に予想してみる。

    今後の経済回復は人々がどれだけ現実的な対応ができるかに掛っていると筆者は考える。これを言い換えれば「現実論者」と「観念論者」の闘いみたいなものが将来を決すると見ている。「観念論」が優勢な間は、経済はどんどん泥沼にはまって行くと考える。


    まず前段でも取上げた欧州であるが、ここは全体的に「観念論」が優勢である。特にドイツなど支援を求められている国に「観念論者」が多い。もっともEUやユーロの枠組み自体も観念的であった。例えばユーロの加盟条件が財政赤字がGDPの3%未満と言った観念的なものである。ギリシャは債務を隠しながらユーロの加盟を果たしたのである。「観念論者」にとってはこのような不正は有りえないという感覚なのであろう。

    筆者は、EUが誕生した時、これから欧州経済はブロック化すると思っていた。ところが欧州にはグローバル経済の信奉者といった観念論者が意外と多い。したがってFTAにも積極的である。為替を安値誘導している韓国とさえFTAを結んでいる。為替を安くしている国からの自動車の輸入に高関税を掛けるといったブラジルと好対照である。


    今回のEUの財政問題で支援を必要とされる国は、ギリシャの他にポルトガル、アイルランド、スペイン、そしてイタリアと全て旧教徒、つまりカソリック(ギリシアはギリシア正教)の国々である。一方、支援を求められているのがより観念的な新教徒、つまりプロテスタントの国々である。ところで中南米を見ても分るように、昔から旧教徒の国々は「借金踏倒しの常習」と見なされている(そう言えばロシアもロシア正教徒)。それが分かっているだけに新教徒の国々の人々は、支援に反発をさらに強めていると筆者は見ている。

    しかしユーロ不安によるユーロ安によって、輸出主導経済のドイツなどは大きなメリットを受けている。筆者は、ドイツなどはもっと現実的になり、利益の半分くらいは支援に回せば良いと考える。また欧州経済はデフレに陥っているのだから積極財政に転換すべきである。また物価上昇の原因がほとんど海外要因なのに、ECB(欧州中央銀行)は何故か利下げに躊躇している(それどころか2カ月前の7月に利上げを実施)。つまり事態を好転させるには、欧州の人々がどれだけ現実的になれるかということに掛っている。しかし筆者はほぼ絶望的と見ている。


    最も観念論的であるピューリタンが創った国が米国である。しかし観念論だけでは国が立ち行かないと分かって、08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」などで述べたように、プラグマティズムな発想を併せ持つようになったのがこの米国である。しかし近年ティーパーティー派(茶会派)といった急進的な観念論者が下院で議席を占めるようになり、米国は現実的な経済対策が採れなくなっている。

    現実的なバーナンキFRB議長などはいるが、実施できる政策は観念論者との妥協の産物であり迫力に欠ける。米国は、急激な経済の落込みでもない限り、当分の間、現実論者が劣勢に置かれると見られる。どの時点で米国でプラグマティズムな政策転換が行われるかが注目される。


    最後は日本である。経常収支は、米国が赤字、EUがトントン、そして日本は黒字である。つまり日本が一番財政政策を打ち出せる状況にある。ところが東日本大震災復興事業という特需が有りながら、この財源を増税で賄おうという観念論が幅をきかしている。

    「後の世代に借金を残すのは無責任」という観念論がもてはやされている。しかし肝心の「後の世代」は、デフレ経済で「ろくな就職先」がないのが現実である。これでは将来国の債務返済なんてとうてい出来るものではない。しかしこう言うと必ず「大学を作り過ぎたから」と言ったバカげたことを言う者が現れる。彼等は、高卒者の就職状況がもっと厳しいという現実を無視する。


    不幸にも日本は観念論者で溢れ返っている。面白いのは、今日、日本では観念論者と観念論者の闘いになっていることである。財政再建論者という観念論者が復興増税を持出せば、構造改革派という観念論者が他の財政支出をもっと削れと主張する。構造改革派は必ず「議員の定数を削減せよ」とか「議員の歳費を減らせ」と言った幼稚なことを言う。これでどれだけの金が浮くというのだ。ちなみに筆者は国会議員の待遇を落とすことに反対である。金に窮した政治家が怪しい金に接近する事態はまっぴらである。

    財政再建論者の財務省が建てようとしている公務員住宅に、同じ観念論者の構造改革派が噛みついている。わずか100〜200億円程度の事案である。そもそも東日本大震災復興事業もたった10〜20兆円程度の話である。公的債務がほぼ1,000兆円というのに、このような桁違いに小さな事で大騒ぎできる観念論者達を筆者は異常と感じる。筆者は、このような観念論者が跋扈している限り、日本がデフレ経済から脱却することは無理と考えている。このように日・欧・米とも前途は暗い。



来週は、人間の根源的な経済活動に戻って経済というものを見直したい。



11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
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11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
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11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
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11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
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