- 今後の経済動向のポイント
世間の経済への関心が、ここに来て急速に薄れている。昨年11月の大型金融機関の破綻に始まる信用不安や景況の悪化により、世間の関心は経済に集中した。しかし、金融機関には公的資金の手当が発動され、16兆円の総合経済対策の方針が決まると、なにか景気先行きは心配がなくなったかのように最近は人々の経済への興味も小さくなったようである。このところたしかにインドネシアの政変やインドとパキスタンの核実験など大きな事件があって、マスコミの経済の取扱も小さくなっている。また、これはよく言われる「日本人の熱しやすく冷めやすい性格」が表われているとも言える。以前から筆者は、世間の経済への関心の度合は「株価の変動」に大きく影響を受けると考えている。その株価も1万5千円台で膠着状態である。 しかし一方、経済の実態は確実に悪化の道を辿っている。失業率も4パーセント台になり、在庫も積み上がっている。企業収益も97年度は4期ぶりに減益となり、今期も経常利益の伸び率はマイナスの予想である。日経新聞の集計では今期の経常利益は3.1パーセントのマイナスと予想しているが、今の経済状況が続けば一桁違うマイナスの数字になると筆者は見ている。このように経済の実態が悪いのに、人々は比較的に落ち着いているように見える。これはバブル崩壊以降、経済のスランプがずっと続いており、皆が「不況」に慣れてきたことも挙げられる。たしかに失業率は4パーセントであるが、残りの96パーセントの人々は失業していないのである。また、地域的にも北海道のように落ち込んでいる所もあれば、それほどでもない地域もある。さらに世間には公務員や年金生活者のように収入が安定し、将来にも心配のない人々も沢山いるのである。特に現在のように物価が下落しておれば、これらの人々の実質所得は逆に増えているのであり、この不況をむしろ喜んで良い立場なのである。つまり会社の倒産などで職を失った人々や良い就職口がない新卒者などに不幸が集中しているのが現状である。日本は、経済が破綻寸前まで行った韓国や暴動まで起こったインドネシアとは事情が違う。したがって、つい最近までの経済への関心の盛り上がりの方が尋常ではなく、人々の経済への関心が薄れても無理がないと言えるのである。 しかしこの状態も今しばらくであり、再び経済に関心が集まる時期が来ると思われる。そのポイントを示せば次のようになる。
- 為替の動向
現在円レートは139円台とジワリと円安傾向にある。日本の膨大な経常収支の黒字を考えるとこの為替の動きは矛盾している。世間では円安の理由は、「日本の景気の先行きが不透明」なことと「内外の金利差」と言うことになっているが、筆者はこれは証券会社や銀行が外債投資や外貨預金を顧客に勧めてていることが主な原因と考えている。今言われている円安の理由が同時に証券会社などが顧客に外債投資を勧める際のセールストークの一つになっていると理解している。セールストークであるから、一見理解されやすいが、いつ変わるかもしれない。 筆者は、いつ為替が円高に移行しても不思議はないと考えている。一旦円高になれば金利差のメリットも、為替差損で一瞬に吹っ飛んでしまうのである。計算上は年間で5,6円の円高で金利差によるメリットは消えることになる。つまり現在行なわれているこのような外債投資は極めて危険な行為と思われる。過去においても何回も日本の機関投資家がこれで大損してきているのである。 筆者は、為替動向の転換ポイントは、日本側ではなく、やはり米国経済と米国の株価の動向と考えている。しかし、米国の株価の動向を予想することは難しい。現在の米国の株価が高すぎると言う見方は正しいと思われるし、米国国内でも一般的な受け止め方になりつつある。しかし、これまでも「高すぎ」と言われながらも上昇を続けて来たのも米国の株価である。筆者は、昨年本誌で景気予想を行なったの際、「米国の株式市場の下落がきっかけとなり、資金の流れが日本に逆流して来る」ことを前提に、逆流してくる資金が日本の不動産に向かい、最終的に株価をある程度押し上げることを予想した。予想では「不況下の株高」もありえるとした。しかし「不況」は当ったが、「株高」はみごとに外れた。これも米国の株価の動向の読み違いが原因と考えている。したがって米国の株価の動向についてはヘタな予想はしないことにする。ただ、米国の株価が暴落と言う事態になれば、為替が円高に大きく振れることは必至と考えている。筆者は、依然として米国の株価の下落と為替の円高への転換はいつ起こっても不思議はないと考えている。
- 住宅建設の動向
住宅の建設は、その単価が大きいことと、また近年その件数の変動が大きいため、景気動向に影響が大きい。このため筆者は、継続して経済指標の中で住宅着工件数に注目してきた。4月の住宅着工件数は10万6千戸と昨年同月より16.1パーセントもの減少である。政府の見通しは年間140万戸であるが、筆者は今年度の住宅着工件数の合計は120万戸も無理と考えている。住宅一戸の建設による最終経済効果を3千3百万円とし、住宅建設資金が他の消費に回らないとすれば、住宅だけで約7兆円の需要が不足することになる。住宅やマンションの販売業者は1月頃から一段と力を入れた営業を行なってきた。それにもかかわらずこの数字である。今後も景気動向を占う上で、住宅着工件数は自動車の販売台数とともに注目される指標である。
- 国と地方の長期債務残高の議論の追加
先週号5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」の中で、国と地方の一人当りの借入金残高について述べた際、比較として東京電力の例を示したが、読者の方から、「東京電力の方は従業員数を使っているのだから、国と地方の場合は公務員数で割り返すべきではないか」と言う指摘を頂戴した。このご意見はもっともである。実際この部分は昨年2月発行の2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」の一部を引用したものであり、そこでは一応公務員で割り返した数字も併せて紹介している。ただ、公務員と言った場合、公団などの特殊法人の人員をどうするかとか色々議論が予想され、問題が複雑になり、議論が本筋からはずれていくと考え、先週号では省略したのである。 筆者が先週号で指摘したかったポイントは、マスコミが国と地方の債務残高が大きいことだけに焦点を当てこの問題を捉えるのは問題と言うことである。このような指摘を繰り返し報道されれば、世間は「財政再建」が一番大切なことと考えるようになるのは当然と思われるからある。筆者は、国と地方の債務残高が大きいことは承知しているが、この問題はもっと色々な角度から検討するべきと考える。一方、マスコミはどうしても問題を単純化して捉える傾向にあり、これが世論のミスリードにつながるのである。 国と地方の債務残高については、この読者のご指摘のように割り返す分母をどれにするかによって結果がかなり違ってくる。また、債務残高だけが議論の対象になっているが、国と地方の資産についてはあまり話題にもならないのである。実際、現在国や地方が所有している資産を今から建設しようとしたら、はるかに500兆円を超えるはずである。また債務の実質的な負担は金利である。しかし、現在の長期金利は史上最低であり、高金利時代に発行された債券の負担を除けば、金利負担はかなり小さくなっているはずである。そして筆者が一番指摘したいのは、日本経済は、かなり前から常に需要が不足する体質になっており、その不足する需要の補填を国と地方の財政支出で行なってきたことである。これまでも財政再建の掛け声がかかる度、政府は財政の支出を絞ることがあった。しかし、その後かならず内需不足を背景に輸出が増大し、各国の非難を浴び、その後は「円高」と「不況」である。その結果、結局景気対策が行なわれ、財政の赤字はまた増えると言うパターンである。同じようなことを何回も繰り返しているのである。今回も「円高」を除けば、まったく同じである。 マスコミは、債務残高が大きいことだけを取り上げるのではなく、どうして債務残高が大きくならざるを得なかったのかを考え、日本経済の体質の特徴や問題点についても取材と分析を行ない、その解決策を提起する方向で物事を考えるべきである。
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