経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




11/9/26(679号)
世界的な「日本化」

  • 日・欧・米のバブル経済
    今週は、欧州経済の混乱に際し、筆者がこれまで述べてきたことをおさらいしてみる。まず経済現象を説明し経済問題の解決策を提案するにしても、これらに説得力を持たせることが難しいと言える。例えば日本経済が深刻なデフレに陥っていることを人々に納得してもらおうと、本誌でもいくつかのアプローチを試みてきた。一つは過剰な供給力を示すことであり、これには生産関数を使った分析を引用したことがある。

    06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」では、政府や日銀が公表する生産関数を使ったデフレギャップ(GDPギャップ)が過小に算出されていることを指摘した。しかし元々生産関数は抽象的な概念であり、現実の経済分析にこれを使うことに筆者は躊躇する。

    そもそも06/7/3(第443号)「トービン税について」10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」で、ジョーン・ロビンソンが「全く異なる製品を製造する生産設備をどうやって集積することができるのか」と生産関数に強い疑問を呈していることを本誌で紹介したほどである。つまり生産関数を使って日本には莫大なデフレギャップが存在していることを示し、大きな財政支出を主張するにしても、生産関数という概念自体が危うい存在なのである。このように生産関数を使った説明は、政府のデフレに対する認識の甘さを指摘するには有効ではあるが、それに続く具体的な政策提言に結び付けることが難しい。


    もう一つのアプローチは、資金の流れや、これによって生じる有効需要が不足するメカニズムからの説明である。それをまとめたのが08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」などである。ただ本誌の分析は、当初、主に日本のバブル生成から崩壊後までを対象にしていた。はたして米国の資産バブルの崩壊後(サブプイムローン問題とそれに続くリーマンショック)の経済にもこれが適用できるかが一つの課題であった。筆者の結論は、米国の場合にもほぼ適用できるのではないかというものであった。

    そこで今日問題になっている欧州経済の混乱にも、本誌流の分析がどこまで有効であるか検証してみる必要がある。たしかに欧州でも不動産などの資産バブルは起っていた(同じ時期米国でも不動産バブルが起っていて、日本もミニバプル状態であった)と言える。例えば10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」で触れたように、スペインの不動産価格は2.7倍に上昇していた。つまり欧州でも不動産バブルの崩壊によるデフレと金融機関の不良債権問題が起っていると考えて良い。ただし欧州経済の混乱の特徴は、この資産バブルの崩壊に加え、ギリシアなどのソブリンリスクといったやっかいな問題が加わっていることである。

    もっともソブリンリスクも、バブル崩壊と無縁ではない。具体的には不動産バブル崩壊後、余った資金が高金利のギリシアなどの国債買いに向かっていたことが考えられる(当時ギリシアの隠れ債務がまだバレていなかった)。また今日、特殊であったはずのギリシアの財務問題がクローズアップされ過ぎていることの方が問題と考える。ソブリンリスクを強調するあまり、必要なデフレ対策が実施されなくなっており、むしろ財政再建のための緊縮財政によって事態が悪化している。


    日・欧・米のバブル期に不動産や株価が上昇していることは共通している。しかし資金の源泉が異なる。80年代後半の日本のバブルは、金融緩和政策と日本国内の資金だけで生成されたものである。それに対して欧米のバブル生成は、2001年の同時多発テロ以降の経済不調に対応する金融緩和に加え、中国や産油国、さらに他のアジア諸国からの資金の流入が大きく影響している。

    つまり世界的な金余りが、欧米のバブル生成を助長したと言える。バブルの最盛期、FRBは金融引締めに転換したが、アジアなどからの資金流入が続き長短金利が逆転していた。一方、欧州の場合、主な資金の流入元は中国と産油国であった。中国は資金運用の分散化を目的としたユーロ買いであった。


    産油国は、2000年代に入って着実に原油価格が上昇し巨額の収入を得た。使い切れない資金(一部はドバイの高層ビル建設などに使われた)が欧州などに流れた。これが欧州の不動産価格上昇などの資産バブルの一因となった。このように日・欧・米のバブル経済の生成と崩壊後のデフレ経済については、各々似たところもあるが異なる点もある。


  • 有効需要不足のメカニズム
    過度の金融緩和や国外からの大量の資金流入によって、不動産価格や株価が実際の価値からかけ離れて高騰する。いわゆるバブルの生成である。資金の一部は設備投資に回る。ところが一通り産業の近代化が終わっている先進国では、設備投資に必要な資金需要は限られる。欧州の場合、たしかにEU拡大に伴って東欧諸国への投資が活発になった。しかしこれに必要な金額をはるかに越えた資金が集まり、この余剰資金が不動産市場に流れた。

    また資金を仲介する銀行などの金融機関にとって、設備投資に係わる融資はまどろしく感じる。この種の融資は回転に長い期間を要し融資額を増やすのに時間が掛るため、これでは増える資金に運用が付いて行けない。一方、不動産投資への融資は手っ取り早く、資金の回転が速く利益も大きくなる。また不動産価格が上昇している間は、これほど安全な融資はない。そして不動産取引が活発になるにつれ、信用創造によって銀行の資産も大きくなった。


    経済が循環するには、経済規模に比例した一定規模の資金が必要である。そしてマネーサプライをGDPで割り返した数値が「マーシャルのk」であり、この関係を取上げたのが08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」他であり、先進国ではこの値が0.5程度である。つまりGDPの半分くらいのマネーサプライがあれば経済は十分循環する。ところが日本は郵貯をマネーサプライに含めると「マーシャルのk」は2.0程度と飛び抜けて大きくなる。つまり日本の場合、異常な量のマネーサプライがあり、このマネーサプライのほとんどが凍り付いている状態である。

    所得の格差が極端になり貯蓄される部分が大きくなったりバブル経済を経ると、必要以上にマネーサプライが増える。本来、この資金が消費されたり実物投資に回れば、デフレ経済に陥ることはない。しかし一旦凍り付いたマネーサプライは融け出すことなく金融機関に眠り続ける。一方、金融機関はバプル崩壊によって巨額の不良債権を抱えることになる。


    バブルの生成と崩壊は、有効需要(購買力と言って良い)を奪うことを意味する。バブル生成と崩壊は、10の価値のものがバブルで100になりバブル崩壊で10に戻るといったものである。ローンを組んで100で買った人は、ローン返済のため消費を抑えることになる。そこでもし100で売った人が、これを全部消費するなり実物投資するのなら需要の不足は起らない。しかし100で売り抜いた人の売却代金は、通常、金融機関で眠り続けるため、全体の有効需要は不足することになる。

    原油代の高騰も消費国の有効需要(購買力)を奪うものである。もし増えた石油収入の全部が輸入品を買うのに使われるのなら世界的に需要の不足は起らない。しかしこの一部でも欧米に流出すれば、その分有効需要が不足する。もっともこの資金で欧米でバブルが発生していたので、その間は有効需要の不足が表面化しなかっただけである。今日、欧米のバブルが崩壊したため、世界的に需要が不足する事態に直面することになった。


    2001年(同時多発テロの頃)以降、世界的な金余りによるバブル経済が徐々に形成された。これには10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」で取上げた、スティグリッツ教授の「資金の受入先であったアジア諸国や韓国までが、資金の出し手になったのである。つまりこのことが欧米のバブルの生成を大きくした要因と言える。そしてこの要因を作ったのが、過酷な緊縮財政の勧告に見られるようなIMFの行動だ」という指摘もある。

    一年前、10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」で、世界の金融資産が200兆ドル(1京7,200兆円)に達したことを取上げた。1990年の金融資産は48兆ドルだったので4倍以上になったのである。ところがその間にGDPは2.6倍になったに過ぎない。したがって世界的にもマーシャルのkがかなり大きくなっていると推測される。つまり世界的な「日本化」が起っているのである。


    このように世界的にデフレ経済が進行中なのに、各国は財政再建に走り出している。まさにアクセルを踏むべき時にブレーキを踏もうとしているのである。日本でも復興増税といったとんでもない話が持ち上がっている(為替市場では日本が本当に増税を行うと思い込んで円が買われている面がある)。金融資産が増えるにつれ、有効需要が不足するといったメカニズムが全く理解されていないのである。



来週は、欧州経済の混乱や世界的なデフレに対する処方せんが本当にあるのか考えてみる。

FOMCは短期国債を売却し長期国債を買い増すといったツイストオペを決めた。これは事前に予想された政策であり、市場は失望し米株価は下落した。またここに来て金価格の下落が起っていて、やたら米国債が買われていることも注目される。
EUの首脳はギリシア救済を確実に実施すると強調している。しかしこの程度の対策は時間稼ぎに過ぎない。今後、ギリシアのユーロ離脱という話が現実のものになる可能性がある。

日経新聞には全国各地の放射線量が毎日掲載されていて、筆者は毎日これを見ている。長らく1.3マイクロシーベルト/時の後半だった福島市の放射線量が23日に1.03、24日には0.98(25日は1.01)まで急激に下がった(一週間前は1.18〜1.20で推移)。やはり台風15号の豪雨で放射性物質がかなり流された可能性がある。



11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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