経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


来週は休刊で、次回号は9月26日の予定

11/9/12(678号)
欧州発のリーマンショック

  • ユーロ圏のバブル崩壊
    11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」で述べたように、世界中の経済が下降している。欧州経済の悪化は、昨年のサミット前後からの政策転換が一つの要因と筆者は認識している。そして政策を間違える最大の原因を、指導的立場の人を含め世界の人々の経済への無理解と思っている。世界全体で正しく経済を理解していると思われるのは、バーナンキFRB議長など極少数の人々だけであろう。

    今日のようなバブル崩壊後のデフレ経済は、従来の景気循環の不況とは質的に全く違うものと考えるべきである。バブル崩壊後のデフレは、1年や2年の景気対策ではとても脱却できない。ところが少し経済が上向くと、各国の政府は景気対策に伴う財政赤字を気にするあまり必ず出口戦略に転換するのである。


    筆者は経済を正しく理解するには、経済用語を正しく使うことから始める必要があると考える。本誌で何回も述べてきたが「インフレ」と「物価上昇」、また「デフレ」と「物価下落」は同じものではない。このことがなかなか理解されない。たしかにインフレ時に物価上昇、デフレ時に物価下落が起りやすい。ところがデフレ時にも物価上昇が起る場合がある。現在の欧米の経済がこれである。失業率を見れば明かなように欧米経済は、決してインフレではなくデフレである。

    伝統的な経済理論では、物価上昇は需要が供給を上回った時、つまりインフレ時に起ることになっている。しかし現実の国内物価の上昇は、これに加え市場の競争状態、輸入品そのものの価格上昇、そして為替の下落による輸入物価の上昇など様々な要因がからみあっている。欧州はデフレ状態のまま、輸入資源価格の上昇やユーロの下落が響いて物価上昇が起っている。つまり欧州の物価上昇は、主に海外要因による。ところが欧州経済がインフレではなく明らかにデフレなのに、昨年から欧州各国は財政支出を絞ったり(あるいは増税を行い)、欧州中銀(ECB)は利上げといったとんでもないことをやってきた。


    10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」で述べたように、欧州のバブル生成は、主に中国などのアジアや産油国からの資金流入が原因である。たしかにEUの拡大に伴い、東ヨーロッパへの投資が活発化し資金需要が増えた。しかしこれに加え、中国などの経常収支黒字国が、外貨準備の米ドル偏重を是正するため大量のユーロ買いに動いた。世界中から欧州に資金が集まったのである。

    このため100円前後だったユーロは01年辺りから上昇を始め、米国のサブプライム問題が表面化した頃には160円に達した。これはかなりの資金がユーロ加盟国に流入したことを示す。08年9月のリーマンショックの直前の7月にはピークの168円をつけた。リーマンショック後は、ユーロは130円台まで下落し、さらに10年5月のギリシアの財政危機表面化によってさらに110円前後まで下落した。今年の4月には120円と少し戻したが、今回の債務問題再燃によって直近では107円台まで下落している。


    ギリシアへの財政支援についてユーロ加盟国の国民が冷たい。EUは欧州金融安定基金(EFSF)などの支援の枠組みを設定した。さらにこれを拡充する動きがある。しかしドイツでは、有権者がこれに不満を示し州議会選挙で与党が負け、フィンランドは欧州金融安定基金拠出(信用保証)に対してギリシアに担保を要求している。このようにギリシア救済に関してユーロ加盟国の国民の目が厳しくて、安易な救済は政権の命取りになる。

    今、支援が必要とされる国はギリシアの他にポルトガル、アイルランド、スペイン、そしてイタリアである。これらの国への与信額は、フランスの金融機関が6,400億ドル、ドイツが5,300億ドルである。万が一これらの国がデフォルトになると、財政が比較的健全と言われている国の金融機関の経営にも大きなな影響がある。これを危惧する各国政府は、ギリシアなどの支援を急いでいる。


    しかし支援側の国では国民の気持は違う。中国や産油国の資金をどんどん取入れ、南欧などに無謀な融資を行い、バブルを生成させたのは大手の金融機関であると見ている。バブルが崩壊したからといって、加盟国全体の国民に負担を求めるなんてとんでもないと主張するのである。

    このような主張に野党も乗って、政府の対応や支援拡充策を攻撃する(ドイツは連立与党の自由民主党さえ支援拡充策に反対している)。各国政府はこのような国民の声を無視するわけに行かないので、支援を受ける国に対する条件(財政支出削減や増税)を厳しくしている。ところが支援を受ける国の国民は、この厳しい条件に反発しデモやストを行って抵抗している。日本での住専への公的資金投入時の混乱を思い出す。


  • ユーロという共通通貨の矛盾
    ギリシアなど事実上国債を発行できない国の資金繰りを助けるため、欧州金融安定基金(EFSF)というものが昨年できた。基金といっても資金を拠出したものではなく、ユーロ加盟国などが、債券の信用保証を行うものである。ユーロ加盟国の保証総額は4,400億ユーロで、保証の割合はEU出資金の出資割合である。さらにこれに加えEUが600億ユーロ、IMFが2,500億ユーロと、合計で7,500億ユーロの信用保証枠になる。

    欧州金融安定基金(EFSF)の債券を発行する会社はルクセンブルクに置かれた。債券の格付は、加盟国の国債の格付の加重平均はトリプルAより1ランク下であるが、EFSFの債券は一応トリプルAである。このトリプルAの格付は、加盟国の中でトリプルAの国債を発行している国の信用で成立っている。最近、フランスの国債のトリプルAからの格下げが噂されたが、もし格下げされたらトリプルAで保証される金額がフランスの保証分(全体の20%)だけ減額される可能性がある。


    前段で述べたように、EU各国の首脳は欧州金融安定基金(EFSF)の拡充に前向きである。一つは「共同債」の発行という話が出ていて、「共同債」を発行するくらいならEFSFを拡充した方が良いという思惑がある。ところが野党や国民は「共同債」どころかEFSFの拡充にさえ反対している。特にギリシア経済が低迷していて財政赤字の削減が無理と判明し、欧州金融安定基金(EFSF)による支援さえも暗礁に乗上げている。

    7,500億ユーロの信用保証枠自体心もとないものである。もしスペインの国債利回りが急騰し、国債発行が困難になれば、国債の借換えに3年間で3,500億ユーロが必要になる。さらにもっと財政規模が大きいイタリアを支援する事態が起れば、とても7,500億ユーロでは足りない。

    ECB(欧州中央銀行)は、8月上旬にイタリア、スペインの国債を緊急的に買入れた。米国国債の格下げ観測を受け、これらの国の国債が売られ利回りが急騰したからである。しかしこの決定に抗議しドイツ出身のシュタルク専務理事が、今月9日、辞意を表明した。このようにECB自体も混乱している。


    EUの前身であるEEC(欧州経済共同体)にしても、当初の大きな目的はドイツの封じ込めであった。第一次、第二次世界大戦の戦場となった欧州各国にとって、ドイツを取込むことが地域の安定にとって重要と考えられた。EECは経済の共同市場として誕生し、これがEUに発展し参加国も増えた。さらにユーロという共通通貨の発行まで漕ぎ着けた。

    対ドイツの安全保障の枠組みの構築が目的で始まったヨーロッパの共同組織が、いつのまにか共通通貨発行まで到ったのである。このまま統合が進めば欧州は一つの国、また一つ政府に発展すると思った人々もいたはずである。欧州合衆国みたいなものである。しかしそれは経済が順調に推移していた間だけの話であった。バブル経済の崩壊により今日のように財政や雇用に問題を抱えるようになって、各国の利害が対立し各国が強く主権を主張し始めた。


    しかし各国の主権を認めながら、共通の通貨を使うところに矛盾がある。この矛盾が吹き出したのが今回の南欧諸国の財政問題の処理である。どうもEUの内部には統合の推進派と懐疑派がいるようだ。後者の懐疑派は、「共同市場」までは賛成であるが共通通貨はやり過ぎと思っている。始めからユーロに参加しなかった国はその典型であろう。

    EU統合の推進派は、今回の事態をなんとか収束に導きたいと様々な対策を打出している。しかしそれらのほとんどは中途半端な対処療法であり、一時的な効果しかない。懐疑派はそのことを分かっているのか「泥沼」に入ることを警戒している。

    市場はEUやECB、さらに各国政府の混乱が続き、解決策が見出せないと見て欧州の株価が下落している。またロンドン銀行間金利(LIBOR)のドル3カ月物金利が0.33%を越えてきた。このように南欧の財政・債務問題の影響が金融機関の信用にも及んできている。このままで欧州発のリーマンショックが本当に避けられるか、今後、注目されるところである。筆者は、今回の一連の騒動を見ていて、欧州人が本当に観念的な思考を好むと感心している。



来週は休刊で、次回号は9月26日の予定。

G7は、例のごとく各国の債務の削減と経済成長の両立を唱っている。つまり金融緩和だけは続けると宣言しているようなものである。日本は円高の是正を訴えているが、まるで相手にされていない。EUは、スイスの為替介入は容認するが、日本の為替介入には反対している。「経常収支が大幅黒字の日本が何を言っているか」という感じである。

オバマ大統領は、事前の予想より12兆円大きい35兆円の景気対策を打出した。もちろん共和党が多数を占める下院をすんなり通るものではない。しかし通らなくとも、それでもっと経済が悪化すれば共和党の責任にできる。つまり来年の大統領選挙を睨んだ景気対策である。市場はこの景気対策がすんなりと実現すると思っていないので、この景気対策が公表されてから株価が大幅に下落した。次の注目は20、21日のFOMCに移った。

鉢呂経産相の「放射能」に関する発言が問題になり、辞任に追込まれた。しかし低線量の放射線の健康被害については、専門家の間でも「放射線は微量でも悪影響があり、少しの被曝でもどんどん蓄積される」と「年間100ミリシーベルトまでの低線量の放射線被曝は健康に影響はない」という全く相反する見解がある。どちらかが本当でどちらかが大嘘である。現地の福島でも専門家の言うことが全く正反対のため混乱している。
また九州では、福島の物産展の開催に「放射能」をまき散らすという抗議(まさに前者に基づくもの)があり、中止に追込まれた。マスコミはこの話を否定的に捉え報道しているが、マスコミ自体が「放射線」の危険性についてどう考えているかはっきりさせるべきである。もちろん11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」他で述べてきたように、筆者は「放射能を正しく恐れる」という立場であり、後者に賛同している。



11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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