経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/9/5(677号)
野田政権の成立

  • 国会議員の浮動票化
    民主党の代表選挙が行われ、野田佳彦氏が代表に選ばれた。筆者は、前日のマスコミ各社の予想から、接戦ではあるが海江田氏がやや優位ではないかと感じていた。特に今回の代表選は、党友・サポート投票がないことが反主流派(小沢・鳩山グループ)に有利に働くと思われた。

    ところが第一回目の投票で、野田氏が前日の予想より30票も多い102票を獲得した。対して海江田氏は、前日の予想にほとんど上積みのない143票にとどまった。まさに浮動票化した民主党議員の票が、ほとんど野田氏一人に集まったのである。ちなみに前原氏の獲得票数も、海江田氏と同様、前日の予想から伸びていない(前原代表なら解散の可能性があるというマスコミ報道も影響したと思われる)。しかし事前の予想では前原氏出馬によって、野田氏苦戦とマスコミは言っていたはずである。それにしても筆者は、民主党の国会議員自体がここまで浮動化(浮動票化)しているのかとちょっと驚いた。

    かなりの民主党議員が「風」を探しながら漂っていたのである。今回は野田氏に風が吹いていたので、最終的にそちらに乗ったのである。もし反対に海江田氏や前原氏が優位と感じたらそちらに流れていた可能性がある。つまり重要なのは「風」であり、投票行動に政策とか信条とかはほとんど関係がない。実際、極左との関係が指摘されている菅前首相が、「A級戦犯は戦争犯罪人ではない」と極右的なことを言っている野田氏を強力に支援していたくらいである。


    しかし浮動化は、民主党だけの傾向ではない。自民党の国会議員も小泉政権あたりから浮動化が目立つようになった。03年の総裁選では、橋本派の久間章生氏は「今回の総裁選は政策の問題ではない」と青木参議院会長と共に、政策・信条が全く異なる小泉氏の支持に回った。

    96年の総選挙から小選挙区制が始まり、政治風土がガラッと変わった。当選するためには有権者の半数の支持を受けなければならない。従来の堅い支持者の投票だけでは当選がおぼつかない。政治家が政治的信念を貫くことが難しくなったのである。代わって政治家は常に「風」を意識するようになった。この傾向は政党を問わない。一番典型的なのは、浮動票だけが頼りの「みんなの党」である。

    一般の有権者と同じように、段々と政治家自身が「風」で左右されるようになった。例えば「脱原発」という「風」が吹けば、皆、何も考えていないのに「脱原発」と言う。そのうち「原発再稼動」という「風」が吹いてきたら、彼等は「原発再稼動」と言い始めると思われる。まるで「こだま」のようである。このような小選挙区制でつちかわれた政治家の精神や行動パターンが、今回の民主党の代表選でも発揮されたのである。


    今回の代表選で「風」らしきものを作ったのはやはりマスコミであった。今回はマスコミが明らかに代表選を「親小沢と反小沢」の対決の図式に持って行こうとしていた。彼等は各候補者と小沢氏との関係を盛んに突いていた。このようなマスコミの働きかけに、浮動化した民主党議員が少なからず影響を受けたと見られる。

    マスコミが密かに期待したのは、代表選後も「親小沢と反小沢」の対決図式が強く残ることであった。理想は、民主党内が揉め、これがきっかけとなって解散に進む事態である。ところが野田氏は、執行部に親小沢派を採用するなどマスコミの予想を覆す党内融和人事を行った。とりあえず「親小沢と反小沢」の対決は回避された。まさにマスコミは肩透かしを喰ったのである。


    菅政権があまりにも酷すぎたので、野田政権はその分得をしている。ただ国民も新政権のもとで、懸案の事項がどんどん片付くとは思っていない。政権発足時の支持率が高くても、人々の期待値は低い(筆者も期待していない)。また復興税というとんでもない話が出ているが、今後の厳しい経済情勢を考えるとこの実現も簡単ではない。

    菅政権時代の仙谷、枝野、与謝野、江田といった大きなマイナス要因が抜け、さらに菅首相という最大のマイナスもなくなった。これだけでも次期政権にとって大きなプラスである。代わってマイナスポイントの閣僚(厚労相など)が何人か入ったが、とりあえずトータルでは差引きプラスのスタートになったと筆者は思う。


  • やはり米ドルが唯一の国際通貨
    為替について不可解な、あるいは誤解を招く話が多い。一つは先週号で取上げた「今回の円高はさほどではない」である。他にも「円高は決して日本にとって悪くない」とか「貿易を円建てにすれば為替変動の影響を避けられる」「円を国際通貨にすべき」といった話が時々出てくる。ただ「円高は決して日本にとって悪くない」は話が大きくなるので、別の機会に取上げる。


    今週はまず「貿易を円建てにすれば為替変動の影響を避けられる」という話である。実際、日本の円建ての輸出は40%程度まで増えている。主に中国への輸出が円建てになっている。しかし円建てにすれば為替変動の影響を受けなくなるという話にはならない。

    これについては、昔、本誌99/11/8(第138号)「為替変動と日銀」で説明したことがある。為替差損益には2種類ある。一つは取引終了後の確定した債権債務の決済までの為替差損益である。もう一つは、為替変動で生じる予算価格との差異によって生まれる差損益である。出荷差損益、仕入差損益というものである。円高になれば日本からの輸出品は割高になり、値上げがうまく行かなければ出荷差損が生じる。反対に輸入品は円換算で安くなり、これが仕入差益となる(値下げを迫られなければ)。

    前者の「決済までの為替差損益」は短期的なものである。しかしこれを避けるのなら円建てにしなくとも、債権債務の確定後に為替予約すれば良い。問題が大きいのは、後者「出荷差損益、仕入差損益」である。輸出品は円高によって輸入国から見て価格は高くなる。円高の状態が続けば、こちらの方がずっと影響は大きい。仮に円建てでも輸入国から見れば値上げになることは同じである。このように円建てすれば、為替変動の影響を避けられるという話はほぼ迷信である。ちなみにこちらも長期の為替予約を行えばこの問題も回避できるが、長期の為替予約にはリスクを伴う(経費も掛る)ため、輸出企業が何年にも渡る輸出金額の全額を予約することは現実的ではない。


    昔から「円を国際通貨にすれば為替変動リスクはなくなる」という話が根強くある。しかし最近の日本の経済力の低下からこのような声は段々小さくなっている。代わって中国の人民元による貿易圏(実際、東南アジアの一部で人民元が流通する市場がある)ができ、行く行くは人民元が米ドルに取って代わり国際通貨になるのではないかという話が出ている。

    しかし人民元が国際通貨になる話は、中国の閉鎖的な経済体制と通貨の管理体制を考えると無理と考えるのが普通であろう。実際のところ人民元の持出しには制限があるはずである。ただ人民元が上がり続けている限り、通貨として保有していることに魅力を感じる人がいても不思議はない。しかし中国という独裁国家の通貨に対するリスクというものは付きまとう。政治体制の転換や政策転換などによって、国外に流出した人民元の取扱いが大きく変わるリスクがある。


    このように一部の海外市場ならば円や人民元が流通することは有り得る。ところで米ドルの価値が下がり続けていて、米ドルの信認は落ちている。米ドルの保有国の不満は大きくなっている。これでQE3が実施され、さらに米ドルの価値が下がれば、本当に米ドルの保有を考える国は出てくるであろう。実際、昨今の円高はこれを織込んだ資金の動きの結果と言える。

    しかし米ドル以外で国際通貨となり得るものがないのが現状である。一頃ユーロが国際通貨の一つになると期待されたが、加盟国のソブリンリスクが発生し先行きが怪しくなっている。したがって消去法で依然米ドルが唯一の国際通貨として流通している。

    筆者は、別の観点から円や人民元が国際通貨にはならないと見ている。日本も中国も経常収支が大幅に黒字である。したがって円や人民元が世界に一旦供給されても、自然と日本や中国に舞い戻ってくるのである。一方、米ドルが国際通貨として流通している一つの理由として、米国の経常収支が恒常的に赤字であることが挙げられると筆者は考える。今後も米ドルがもたつきながらも唯一の国際通貨として存在し続けると思われる。



来週は、世界に広がるデフレを取上げる。



11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
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11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
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10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
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