経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/8/22(675号)
欧米経済の変調

  • QE3の可能性
    8月に入って欧米を始め世界の株式市場が動揺している。8月2日が期限の米国の債務問題がなんとか片付いてから、むしろ本格的に米国の株価の下落が始まった。これは5日の米国国債の格下げがきっかけであった。しかし欧米の経済変調は前から分かっていたことであり、特に欧州の株価はもっと早くから下落していても不思議ではなかったと筆者は感じる。

    米株価の動揺に加え、EUの株価下落はギリシア、ポルトガル、そしてアイルランドの財政問題が、スペインやイタリアにも波及するのではないかという危惧が発端であった。さらにフランス国債の格下げ観測も市場の動揺を招いている。また財政問題がスペインやイタリアに及んだ場合、これらの国の国債を大量に保有するドイツやフランスの銀行の経営問題に発展する可能性が出てきた。このため銀行株が叩き売られている。とうとうフランスなどは銀行株のカラ売り規制を実施しこれに対抗している。


    このように米国と欧州各国の財政・債務問題が、ほぼ同時期に起って、株価が連鎖的に下落した。さらに世界的な金余りによって新興国で資源価格や不動産価格の上昇が続き、中国やインドなどは金融引締めを行っていて、これらの国の株価もずっと下落していた。つまり世界中を見渡しても株価が好調な国はない。

    当面の株価暴落に対処する「カラ売り規制」などを除けば、各国政府は打つ手がない状態である。先週号で取上げた8月26日のジャクソン・ホール会合(経済シンポジウム)でのバーナンキFRB議長の講演まで、米国の株価は様子見の状態が続くものと見られる。QE3が実施されるかどうかは、もう少し経たないと分らない。


    米国のQE3に対して中国は露骨な牽制を行っている。しかしFRBは、そのようなことに関係なく必要があれば実施すると思われる。懸念は、金余りによる資源価格上昇の国内物価へのハネ返りである。またQE3実施によって米ドルはさらに下落する可能性が高いが、これはむしろ米国経済にとって好ましいことである。

    ただし米ドル安によって、米国国内の物価がさらに上昇すると思われる。要するにFRBのQE3の決断は、どこまで物価上昇に目をつぶるかに掛っている。今後の物価上昇がさほどでないと予想されるなら、FRBは本当にQE3実施に踏出す可能性がある。もっとも7月の消費者物価は、対前月で0.5%も上昇しており物価が安定しているとは言えない。つまり今のところQE3実施は難しい段階にあると見られる。


    ケインズ経済学では、所得は自生的支出(独立投資などの乗数効果)で決まる。また消費は所得の一定割合(消費性向)である。ところが米国では、これに加え資産価格(主に株価)の変動が消費に影響を与える。いわゆる資産効果(株価上昇による)と逆資産効果(株価下落による)である。これも米国民の保有金融資産の中で株式の比率が大きいからである。

    リーマンショック後、米国も財政政策に加え金融緩和政策によって経済の下支えを行ってきた。しかし財政赤字問題もあり、昨年あたりから金融政策偏重(いわゆるQE2)になっていた。FRBが6,000億ドルの範囲で米国債を今年の6月まで買上げるというものである。これによって株式市場や商品市場に資金が流れ、株価と資源価格が上昇した。


    しかし株価上昇による資産効果によって、少なくとも7月まで米国の消費は底堅く推移していた(ただし増加率は段々と小さくなっていた)。ところが8月に入って株価が急落したため、先行きの消費に赤信号が点った(8月の消費者態度指数が急落している。しかもこの調査は米国債格下げ直前に実施されている)。つまり、今後、米国は消費低迷によって経済成長の低下が見込まれ、さらにこれが株価の押し下げる要因となる。

    米国は、輸出や設備投資、そして公共投資の急激な増加が期待できない。ところが失業率は9%台と依然高いレベルで推移している。来年の大統領選挙を考えると何らかの政策が必要なところである。しかし議会の現状を考えるとこれ以上の財政政策はほぼ不可能である。考えられるとしたなら住宅減税ぐらいであろう。

    そうなれば残る政策はさらなる金融緩和しかない。実際、FRBは、あと2年、金融緩和政策を続けると言明している。しかし市場は、さらに大胆なFRBによる米国債の買上げ、つまりQE3を期待している。本当に米国も日本に似てきた。


  • バブル崩壊に関する誤った認識
    EU各国の財政問題は難問である。まず元々財政問題を抱えている国、つまりギリシアなどがある。さらに米国のサブプライム問題やリーマンショックをきっかけにそれまでのバブル経済が崩壊した国がある。例えばアイルランドやスペインなどである。特にスペインは、不動産のバブルが崩壊しただけでなく、太陽光発電パネルのバブルまで崩壊している。

    さらに他のEU諸国も多かれ少なかれバブル崩壊の悪影響がある。自国の経済が比較的安定しているフランスやドイツの銀行も、これらの国にかなり融資を行っていたり、国債や企業の債券を抱えている。そのようなこともあってか今回はドイツの株価下落が目立つ。


    2008年のリーマンショック以降、世界的な経済不調が襲った。この時は世界各国が協調して、財政支出の増大と金融緩和を実施した。その後新興国の経済成長もあって、欧米経済も復調してきた。ところが10/7/5(第622号)「サミットの変質」で取上げたように、昨年のサミットで唐突な政策変更がEU主要国から表明された。

    EU各国は、昨年のサミットで「リーマンショック以降の経済低迷の傷は癒えた。ギリシアのソプリンリスクを見れば分るように、むしろ次は財政の再建」だと言って、緊縮財政に方向転換した。オバマ大統領やあのIMFさえ危惧する政策転換であった。

    まずイギリスが付加価値税増税や歳出カットを行った。他のEU諸国もこれに追随した。また10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」で述べたように、トリシェ欧州中銀(ECB)総裁は「デフレ脱却には財政再建が重要」ととんでもない事を言っていた。何を考えているのかECBは7月に利上げを行っている。たしかリーマンショックの直前にもECBは利上げをしている。しかも驚くことに、トリシェ総裁は今でも次の利上げの機会を窺っているという。まさにトリシェ総裁は欧州経済の元凶である。

    米国はEUと一線を画し、財政支出の伸びを抑制したが、昨年11月にQE2を実施し一層の金融緩和を実施した。これは資源価格の上昇を招いたが、少なくとも今年の4月までは株価を上昇させた。しかしQE2だけでは、失業率を目立って低下させるほどの力はなかった。


    昨年のEUの強引な政策転換が大きな問題であったと筆者は考える。たしかに隠れ債務が明になったことでギリシアの財政危機問題が表面化し、これが各国の焦りを招いたと考えられる。つまり各国がソブリンリスクというものを、初めて身近に感じたのである。しかしEUがこのような事態が起ることを想定していなかった事も事実である。またドイツなどの主要国が、当初、ギリシア救済に極めて消極的であった。

    そのためギリシア救済の枠組みを作るまでに相当の時間がかかった。ギリシアの信用不安がポルトガルやアイルランドに飛び火し、EU主要国もようやく慌て始めた。しかし今年になってスペインやイタリアにも信用不安が及び始め、事態は悪化している。EUのこれまでの対応のまずさを見ていると、もしスペインやイタリアで信用不安が起った場合、対処するのは大変難しいと思われる。これには欧州金融基金(EFSF)や共同債の話に及ぶことになるが、これを本誌で取上げるとしたなら再来週頃になる(もしフランス国債の格下げが行われたならEFSFは大きなダメージを受ける)。


    バブル経済崩壊後の経済低迷やデフレ経済について、どの国でも正しい理解がなされてない。たしかに経済の大きな後退に驚き、どの国でも最初は大胆な財政・金融政策が採られる。しかし少し景気が戻って来ると途端に出口戦略を採ろうとする。バブル崩壊後の経済低迷を、景気循環における景気後退と同じという誤った認識を持っているからである。

    バブル崩壊の場合、必ず不動産などの資産価格の下落と金融機関の不良債権という問題を伴う。まず資産価格がある程度まで落ち切らない限り、新規の投資は生まれにくい。米国では住宅価格がほぼ底値まで下がっているが、減税措置が終わってから住宅投資は再び低迷している。日本の場合もバブル崩壊から10年以上も地価の下落が続いた(橋本政権の政策ミスがなければ7,8年で終わっていた思われるが)。EU諸国は、資産価格の下落と金融機関の不良債権問題が依然残っているのに、リーマンショック後たった2年で間違った方向に政策転換を行ったのである。

    さらにEU、及びEU首脳には、頭が固い人物が揃っている。英国のキャメロン首相やトリシェ欧州中銀総裁などである。彼等は「インフレ(物価上昇のことと思われるが)と財政赤字は敵」と思い込んでいる。これではEU経済が、今後、もっと悪化するものと思われる。反対に緊縮財政を唱え続けていたはずのIMFさえが、EU諸国の今日の経済政策を危惧しているのが面白い。



来週は、EUの政策をもう少し続けたいところであるが、先に為替を取上げる。

民主党の代表選が行われている。どの候補も原発は「少しずつ減らして行く」と言っていて、これがファッションになっている(最近はこのような政治家ばかり)。しかしこれは端的に言えば脱原発である。問題は「原発はどのようにしても危険」かどうかである。本当に危険と思うなら、そのような中途半端な事を言わず「原発は即廃止」と主張すべきであり、全ての原発の再稼動に反対すべきである。またその場合には理由を明らかにする必要がある。それがはっきりしない限り、電力会社も次の設備投資はできない。筆者はより安全な原発を推進すべきと考える。



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