経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/8/8(673号)
食品安全委員会の問題

  • 放射線防護の素人集団
    食品安全委員会(本誌はこの委員会を厚労省の所管としてきたがこれは間違い。正確には内閣府が所管し食品安全担当大臣が担当。ただし規制の実施は厚労省)は、7月26日、食品に含まれる放射性物質が健康に与える影響について、「通常の一般生活で受ける放射線を除き、生涯の累積線量が100ミリシーベルト以上で影響が見いだされる」という評価書で合意した。つまり規制の見直しに関し、食品だけでなく全体(外部被曝を含め)の被曝量を考慮すべきという考えである。外部被曝を考慮するあたり、ある意味では科学的である。

    しかし厚労省は、これを受けどのように食品の暫定基準値を改正すれば良いか分らなくなったと困惑している。この問題について作業部会の座長、山添康東北大教授(薬学)は「現在の規制値はかなり厳しく、極端に変更する必要はないのでは」との見解を示した。もっとも議論の過程で「食品の放射性物質について論じた論文が世界にない」といった驚くほど頼りない話があった。

    つまりこれだけ人々を大混乱に陥らせている食品の放射性物質の規制であるが、示す基準に科学的な根拠がないと白状しているのと同じである。ところが日本のマスコミは、これまでこの根拠の薄弱な規制値自体を全く問題にしてこなかった。つまりマスコミにとっては、科学性を考えるより騒ぎが大きくなった方が歓迎なのであろう。そしてこの「いい加減」と言って良い規制値をもとに「何々県のホウレンソウが基準値を上回った」とか「何々県の牛に暫定基準値を上回って出荷停止」と、政府と一緒になってマスコミはバカ騒ぎをやっているのである。


    筆者は、当然、食品安全委員会に放射線防護の専門家(ただし放射線被曝に厳しいAグループの学者)がいるものと思ってきた。しかしそのような専門家はいないようである(ただ作業部会などで、意見を述べる放射線防護の専門家くらいはいるとは思われるが)。つまり食品安全委員会の委員は、放射線の健康被害について皆「素人」同然ということである。

    たしかに最初から奇妙であった。福島原発の事故後、慌てて食品の暫定基準値が作られた。つまりそれまで基準が全くなかったのである。と言うより放射線物質に汚染された食品が流通する事態を想定してこなかったと思われる。したがって食品安全委員会に放射線防護の専門家は不要だったのであろう。


    これまでの食品安全委員会の一番の関心事は、米国からの輸入牛肉の安全性であった。そのようなこともあってか、誰を委員に選定するかが政治問題化していた。ともあれ放射線防護の素人集団に放射性物質の規制基準の決定を委ねたことが大間違いであった。

    ただ食品安全委員会の委員が放射線の健康被害について全く知識がないということではない。ただ彼等の知識や認識は、一連の発言を見る限り、昔の教育で習得された極めて古いものと見られる(これについては後ほど取上げる)。ところが11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」で述べたように、この20年間の放射線防護に関する国際的な認識は大きく進歩しガラッと変わった。ICRP(国際放射線防護委員会)の考えも大きく変わり、勧告も大幅に見直された。ところが食品安全委員会の議論にこれが全く反映されていなと見られるのである。


    筆者にとって、食品安全委員会の委員に放射線防護の見識がないのなら、なぜEUの規制値をそのまま使わなかったのか不思議でならない。EUの規制値はチェルノブイリ原発事故を受けて作ったもので、決して緩いものではない。またこのEUの規制値がこれまで問題になったとは聞かない。

    今、問題になっている放射性セシウムの日本とEUの規制値は次の通りである。

    日本とEUの食品の放射性物質の規制値(ベクレム/kg)
     日 本  E  U 
    飲料水200800
    乳製品1,000
    その他5001,250


    この他に放射性ヨウ素などの規制値があるが、それらも日本の規制値の方がずっと厳しい。もしEUの規制値をそのまま採用していたならば、今日起っている騒動はほとんど起っていないのである。もちろんEUの規制値も「毎日、1kgずつ食べ続けても健康被害は起らない」というものである。今日の原発事故の賠償が問題になっているが、風評被害の責任の大半は、東電ではなく食品安全委員会や無闇に広範囲な避難勧告を行っている政府にあると筆者は考える。


  • 「免疫力」の話はタブー
    今日、原発の危険性を巡る議論を突き詰めて行くと、放射能の問題に収斂する。福島原発の事故も、放射能の問題がなければ、単なる化学プラントの爆発事故に過ぎない。問題は、この事故で漏洩した放射性物質の低線量放射線による危険性や健康被害について、専門家の間で意見が大きく違っていることである。極端と思われる意見では、爆発事故の一ヶ月後、「もう避難地区であっても住民は戻ってかまわない」と言ったものがあった(マスコミはこのような意見を伝えたくないらしいが、筆者はこの意見が正しいのではないかと感じている)。しかしマスコミは、専門家の間で意見の相違があることすらほとんど伝えない。

    今日の低線量の放射線防護に関する最大の論点は、人の「免疫力」に関わるものである(高線量の被曝については意見の相違はほとんどない)。11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」で分類したAグループの専門家や食品安全委員会の委員は、人間には放射線被曝に対する「免疫力」は全くないという立場である。まさに古い放射線医学の教科書通りの考えである。

    それに対して、BグループとCグループは人間の細胞やDNAには「免疫力」や「免疫機能」があるという考えである。特にCグループは、低線量の放射線は、むしろ免疫機能を高め健康に良いとまで言っている。そしてこのBグループとCグループが、今日、ICRP(国際放射線防護委員会)の主流派となっているようだ。どうも居場所がなくなったAグループの専門家の一部は、環境保護団体や「緑の党」がバックに控える研究機関に移っている可能性がある。


    Aグループのように放射線に対する「免疫力」が全くないと言うのなら、人間が健康に生きていられる時間や寿命は、単純に放射線の被曝量で決まることになる。つまり放射線を浴びる度、まるで砂時計の砂が下に落ちるように、寿命が削られることを意味する。またAグループの理論では、「免疫力」や細胞・DNAの修復力を認めないので、年間の許容線量と言う概念は意味がない。つまり食品安全委員会が言っているように、生涯の総被曝線量(彼等の許容線量を100ミリシーベルトとしている)が問題になるのである。

    一方、「免疫力」を認めるBグループとCグループは、許容線量を年間などの時間の単位で捉える。放射線被曝で壊れる細胞やDNAとその修復力のバランスで許容線量を考えるからである。福島原発の作業員の許容線量は250ミリシーベルトであるが、正確にはこれは3〜5年間の許容量である。つまり3〜5年間経てばまた許容線量はリセットされるものと見られる。

    ちなみに、今、福島原発の作業員の中で問題になっているのは、許容線量の近くまで被曝している者達である。これでは福島原発を離れてたとしても、他の原発で働くことができなくなるのである。政府は、このような作業員に対して、許容線量の特別枠みたいなものを考えているらしい。


    「免疫力」のあるかなしかの議論はAグループとその影響下にある食品安全委員会にとって最大の弱点である。彼等は、自然に受ける放射線の量から生涯100ミリシーベルト(年間100ミリシーベルトではない)と言ういい加減な数字を導き出している。例のごとく、これを示唆する論文がいくつかあると言っている。しかし論文があることが重要ではなく、問題はそれらの論文が国際的な放射線防護の専門家の間でどう評価されているかである。

    だいたい自然環境からの放射線量は、住んでいる地域によって大きく異なる。日本の10倍以上という所はざらにある。特に南米やイランなどには極端に高い所がある。そのような所でなくとも、例えば米国のデンバーは年間5〜10ミリシーベルトと聞く。つまりAグループ達の主張では、デンバーに住んでいれば20年で病気になるか死んでしまうことになる。しかしこれらの高い自然放射線量の所に住んでいる人々が、健康被害を受けているということはない(むしろこれらの所の人々は健康状態が良いという話を聞く)。

    11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」で述べたように、Aグループの理論的支柱であった「H.J.マラー博士の研究」について、研究に使ったショウジョバエのオスの精子が「免疫力」を持たない極めて特殊なものと明らかにされた。つまり彼等の科学的根拠が叩き潰されたのである。またチェルノブイリ原発事故などの実態調査から、それまでのAグループの主張がことごとく誤っていることが明白になった。ところがこのような役立たずで有害なAグループの専門家や食品安全委員会の委員が、日本では大手を振って歩いているのである。戦後、先進国の中で、日本だけがマルクス経済を大学で経済学として教え続けているのと似ている。


    放射線に対する「免疫力」の話は、Aグループの専門家や反原発派にとってタブーになっていると見られる。ちなみに先週号でタウンミーティングでの筆者の説明が途中で邪魔された話をした。筆者が、ちょうどこの「免疫力」の話をし始めた時に、反原発派の放射線医師が話を折ったのである。



来週は、菅首相が総理の座にしがみついていることと、反原発派との繋がりについて取上げる。

先週日曜日(7月31日)、フジテレビ系のMr.サンデーで「世界高放射線測る旅、南米・ローマで驚いた」という特集をやっていた。まず日本では東京などの線量を測っていた。花崗岩は放射線を出すので、東京都内でも橋のたもとでは放射線量がハネ上がった。また石造りの建物が多いローマなどは、東京の2倍程度の放射線量であった。また日本の東北にあるラジウム温泉では、湯治客が線量計を持ちながら、放射線の強い所を探して岩盤浴をしていた。だいたい6〜7マイクロシーベルト/時(60ミリシーベルト/年)程度であった(欧州でもラドン温泉が放射線の強さを互いに競っているという話を聞く)。また核実験が始まってから、東京の放射線性物質の降下量が1万倍になった話もあった(7〜8年は続いていたはず)。
南米は全体的に放射線量が高い。特に放射線の高い海岸の砂浜があり、医者から勧められて治療に来ている人がいた。砂を患部にかぶせるとリュウマチに効くという話であった。近くで子供が遊んでいたが、別に健康被害はないとのことであった。
放射能ノイローゼの人が視たら気絶しそうな放送の内容であった。しかしこれらの話は、筆者達が昔から聞いていたものである。日本のマスコミは、これまで人々の不安を煽る放送ばかりやってきた。しかしそのうち大嘘がバレる時が来るはずである。このMr.サンデーの特集みたいなものが、今後少しずつ出てくるであろう。

欧米の株価や資源価格が下落を続けている。しかし欧米の経済が不調になることは以前から分かっていたことである。それにもかかわらず株価は一時的(5、6月)な下落はあったものの、2週間前まで上がり続けていた。また米国の債務問題が浮上していたのに、株価はそれほど下がらなかった。むしろ債務問題が片付いてから株価が大きく下落を始めた。実に奇妙な動きであるが、いつものように株価操作が行われているのであろう(米国債格下げ情報などが漏洩していると思われる)。いずれ大儲けしたところが分ると思う。
5日にS&Pが米国債の格下げを行った(トリプルAからダブルAプラスに)。どちらかというと格付に厳しいムーディーズが先行しそうなのに、意外にもS&Pが先に踏切った。米国債の格下げは噂されていたことであるが、ムーディーズは踏み止まっていた。ところが格下げが噂されていた米国債はむしろ買われ、長期金利は下がり続けている。5日のNYダウは小反発したが、「S&Pが米国債の格下げ」が取引後の発表で、これを織込んでいない。したがって8日の市場の動向が注目される。



11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
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10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
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10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
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10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
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10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
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10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
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10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
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10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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