経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/8/1(672号)
タウンミーティングの報告

  • 反原発派からの邪魔
    先日、原発に関するタウンミーティングというものにパネラーとして参加した。これは地場の新聞社が主催したものである。この新聞社の関係者であるHさんが、問題になっている原発について人々が話し合う場を設けたいと考えたのである。

    ところがこれを告知すると積極的に出席し発言したいというのが、のきなみ脱原発・反原発派の人々ばかりということになった。これではタウンミーティングが成立たない。そこで色々と捜し回ったあげく、本誌で原発推進を唱えている筆者に辿り着いたというしだいである。

    パネラーは3名で、脱・反原発派が2名(A氏、B氏とする)、推進派が筆者、そして司会はHさんが努めた。他の参加者は10名くらいであった。パネラーは各々15分くらい話をし、その後全員で話し合うという段取りであった。


    しかし予定通りには行かない。最初に講演を行った反原発派のパネラーA氏の話が異常に長くなった。多少の時間オーバはしょうがないとしても、30分たっても終わらないので、たまらず司会のHさんが話を終わらせた。

    この人物は元教師で、自ら反体制派であったと言っていた。おそらく教師時代は、自衛隊を否定し国旗掲揚や国歌斉唱にも反対してきたのであろう。そのため本人は周りから冷たくされたと言っていた(このような余計な事を言っているから話が長くなる)。そしてこの思想の流れから、反原発を唱えていると言うのである。


    この元教師は、原発についてほとんど知識はなかったと自ら話していた。彼は、今回のタウンミーティングで話をするということが決まってから、本屋に行って関連の本を買ってきて勉強し始めたという(タウンミーティングをなめ切っている)。彼は広瀬隆氏などの本を買ってきて読んだという(店頭に沢山積まれているため売れているのだろうと思って買ったという・・他には小出裕章京大助教授の本が多かったという)。この人のレジュメが配られたが、広瀬隆氏の本の目次みたいなものであった。

    広瀬隆氏などの受け売りなので、A氏の話の内容はここでは割愛する。実につまらないものであった。出席者の中には、反原発派の闘士と見られる者が2名いたが、明らかに彼等も退屈していた。A氏はほとんど他の参加者の様子や反応を見ることなく、ひたすら話を続けていた。


    次のパネラーのB氏は介護関連の人であった。B氏は原発に対して強い不安感を持っていると話をしていた。このような状態に耐えるくらいなら、経済が縮小しても原発から脱却した方が良いと訴えていた。しかしB氏は、それほど原発や日本経済について詳しい知識や情報を持っているわけではない。特に日本経済についてはちょっと考えが安易である。

    これはタウンミーティングの後でB氏と色々と話をしたので、なんとなく分かったことである。しかしこのような考えは、素朴ではあり、かなり多くの人々が共鳴するかもしれない。このような人々には、「原発は絶対安全だ」と一方的に説得しても効果はなく、もっと丁寧な説明が必要と思われる。またB氏も制限時間を少し越えた。


    最後は筆者であり、話は本誌で述べてきたことである。テーマを4つにまとめて話をしたつもりである。重要ポイントは「安全な原発の推進」と「放射能を正しく恐れる」の二点である。「安全な原発の推進」から話を始めた。

    しかし問題は最後の「放射能を正しく恐れる」のところであった。まず筆者は、放射能の危険性について政府や専門家の言っていることがバラバラであることを指摘し、これが人々の混乱を招いていると述べた。これは放射線医学の専門家の間で考えが大きく異なっていることが原因と筆者は説明した。そして黒板を使い、三つのグループの放射線に対する危険性に対する考えがどのように異なるか図を描いて示した。参加者は、この話に極めて興味を持ったのか熱心にメモを取っていた。

    ところがこの話がある程度進んだところで、突然、反原発派の闘士の一人と見られる放射線医師から「いつまで話は続くのか」という邪魔が入った。しかしここからが最も大事なところであった。この結果、重要なポイントの話は曖昧になったかもしれない。


  • ドイツの政策転換
    反原発派の闘士と見られたのは、この放射線医師と学生運動の活動家を昔やっていたという者の二人であった。後者の元活動家は、昔は東電の100株株主にもなっていて株主総会へも出掛けていたと話していた。パネラーの話が終了し、この元活動家も積極的に発言した。

    彼の話は昔なつかしいアジ演説のようなものであった。何でも二元論で解釈し説明する。東電のような大きな企業は絶対に「悪」であり、原発事故の収束で働いている下請業者の作業員は常に虐げられていると言う。

    この話に放射線医師が乗ってきて「福島原発で被曝量が多いのは下請業者ばかりだ」と発言した。筆者は、これらの反原発派の闘士達に議論を挑む気はなかったのでほとんど口を挟まなかった。しかし事実とあまりにもかけ離れている時には、さすがに彼等の間違いを指摘した。この時は「今のところ許容放射線量を越えている作業員の大半は東電社員である。原発の水素爆発の時に中央制御室にいたため、放射性物質を吸い込んで内部被曝した人が多い」と指摘した。

    また元活動家は、地球温暖化は原発の冷却水が原因という珍説を唱えていた。これに対してスリーマイル島原発事故後は米国で、チェルノブイリ後は欧州で、それぞれ新たな原発が造られていないという事実を筆者は指摘しようと思った。しかし面倒な話になると思ったので止めておいた。


    ところで22日にテレ朝系「朝まで生テレビ」が放送された。ここでかなり重要な情報が二つ得られた。一つはドイツが、最近、太陽光発電の電気の買取り価格を1kw当たり20円まで引下げたというものである。この話について飯田哲也氏は「これはドイツの太陽光発電の効率が飛躍的に上がったから」と説明した。しかしこれに対して他のパネラーから「嘘をつくな」「デタラメを言うな」と一斉にものすごい批難が起った。「朝まで生テレビ」ではめずらしい光景である。

    これは明らかに、表向きは別にし、ドイツが自然エネルギー発電の拡大政策を転換させたことを意味する。このことは11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」の欄外で取上げた情報(欧州で太陽光パネルの導入量が激減している)と合致する。ところがそれにもかかわらず「これから日本は自然エネルギー発電の推進」なんて、日本人、そして日本の政治家は本当に間抜けである。


    上記の放射線医師は「ドイツは自然エネルギー発電の割合を20%以上にする方針である。日本も原発を止め、ドイツを見習え」と訴えていた。それに対して筆者は、ドイツの政策転換の話を知っていたので「それは昔の話で、既にドイツは政策を転換させていると見られる」と否定した。おそらくドイツの電気料金が高くなり過ぎてこれまでの政策が限界にきているのであろう。

    特にドイツは産業の競争力維持のため産業用電気料金を極端に安くし(それでも他の国より高い)、家庭用電気料金の3分の1にしている。つまり家庭用が産業用の3倍もする(日本は1.5倍程度)。したがってコスト高の自然エネルギー発電をこれ以上増やせないところまで来ていると見られる。

    おそらく脱原発で、ドイツは、まず電力の輸出を減らし、次に石炭とガスによる火力発電を増やすと思われると筆者はこの放射線医師に説明した。特に隣国のポーランドには大量のシェールガスが埋蔵されていることが分かっており、これが開発されればドイツはパイプラインでこの天然ガスを輸入する可能性があると予想されるのである。


    司会のHさんは参加者全員に発言を促した。他の参加者にも、日頃聞けない話があり、タウンミーティングはまずまず好評だったと思われた。終了後、Hさんは筆者と脱原発のB氏を呼び止め簡単な慰労会に誘ってくれた(元教師のA氏はさっさと帰っていた)。

    Hさんも、初めてにしてはまあまあの結果ではないかという感想であった。ただA氏に長く話をさせ過ぎたのは失敗だったと反省していた。そしてB氏を交え三人で色々な話をした。


    今回のタウンミーティングを実施するにあたり、Hさんはいくつかの原発に関するタウンミーティングに参加してみたという。これらは反原発派の市民団体が開催したものである。Hさんによれば、彼等のタウンミーティングでは、講演者がいきなり壇上に現れ反原発の話をする。そして講演が終わると質議はなく、講演者はさっさと帰って行くという。

    あるタウンミーティングでHさんはたまらず質問をしたという。しかしどうもその質問内容がこの団体の意に沿わないものだったらしく、司会者から「ポジティブな意見を持っている人はこの集会から出て行って下さい」と言われたという。「ポジティブな意見」には筆者も笑ったが、これが反原発派のタウンミーティングの実態である。

    今日、原発に関わる説明会やタウンミーティングでの、電力会社や原子力安全・保安院の「やらせ」が一方的に問題になっている。しかし原発を推進する側が、今週号で引合いに出したような訳の解らない人々を常に相手にしていることを考えておく必要がある。もちろん「市民」を装った政治活動家もいる。



来週は食品安全委員会を取上げる。

本文で述べたように、22日にテレ朝系「朝まで生テレビ」でもう一つ重要な情報があった。札幌医科大学教授の高田純氏(筆者の分類ではBグループに属する放射線医学の専門家)が、原発20km圏内から避難してきた子供66名について、甲状腺の放射性ヨウ素の自ら計測した結果を報告していた。それによるとチェルノプイリ原発事故の時の千分の一程度の量だったという。そして高田教授は「将来の甲状腺ガンの発生はあまり心配しなくとも良いのでは」と話していた。
今回の原発事故で一番心配された健康被害は、放射性ヨウ素による子供の甲状腺ガンである。実際、チェルノプイリ原発事故では、6,000名の子供が甲状腺ガンに罹り15名が亡くなった。しかし福島原発事故では、この甲状腺ガンの発生が最小限に抑えられる可能性が出てきたという話になる。また福島では、今後、36万人の未成年者の甲状腺を継続的に検査するという方針である。これは当分の間必要な措置であろう。
高田教授の話が正しいとすれば、福島の原発事故による放射性物質拡散による健康被害は、一般に思われていたよりかなり小さいと予測される。時期尚早な判断と叱られるかもしれないが、「直接的な死亡者が限り無くゼロに近い」ということも有りうると筆者は思っている。

8月2日が期限という米国政府の債務問題がなかなか進展しない。共和党が多数を占める下院の同意を得ることが難しいのである。共和党の下院にはティーパーティー派(茶会派)という「小さな政府」を信奉する狂信的な構造改革派がいる。彼等は、米国国債はデフォルトに陥った方がむしろ「小さな政府」を実現するのに近道とまで言っている。日本で金融機関の不良債権問題が深刻になった時、「悪い銀行はどんどん潰した方が良い」と言っていた構造改革派と似ている。彼等は「破滅の美学」に酔っているのでまるで話にならない。
一応8月2日がデフォルトの期限ということになっているが、大きな利払いがある8月15日までは実質的なデフォルトはないという観測がある。つまり米国政府の債務問題の解決はまだまだ延びる可能性があるということをこれは意味する。米国の株価は連日下がっているがまだ小さな下げである。サーキットブレーカーが働くほどの株価の大暴落や市場の大混乱が起らない限り、オバマ政権と下院の妥協は成立しないのかもしれない。



11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
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11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
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10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
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