経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/7/25(671号)
意味の解らない暫定基準値

  • 脱・反原発は政治運動
    街で見かける反原発団体の抗議行動では、平日にもかかわらずよく子供が連れて来られている。おそらく親が幼稚園や小学校を休ませていると思われる。子供がマイクを握って「反原発の歌」を歌っている事もある。

    要するに子供は放射線に弱いということになっているので、子供を前面に出し反原発をアッピールしている。これも一種のイメージ戦略であろう。筆者はこのように今日の脱・反原発は政治運動の色彩が強いと見ている。そのうち取り上げるが、有名な反原発派の原子力科学者の言っていることは科学性に乏しい。むしろ彼等は政治的メッセージを発していると筆者は見ている。


    若年層の方が放射線の影響を受けやすいということが常識のようなものになっている。しかしこれは外部被曝に関して言えることと思われる。初期の放射性ヨウ素の被曝を除けば、飲料水や食品などによる内部被曝については何とも言えないと筆者は思っている。たしかに内部被曝に関し「子供は危ないかもしれないが年寄は大丈夫だろう」という話はよく聞く。

    しかし若年層の方が、新陳代謝が活発であるから、身体に取込まれた放射性物質はより早く排泄されると考える。むしろ年寄の方が放射性物質は長く身体に留まる。年寄の新陳代謝は子供の10分の1程度ということである。放射能に汚染された福島の牛も、数カ月ほど出荷を延し、若い牛から順番に出荷すれば大丈夫ではないかと筆者は見ている。


    先週号で、1960年代の日本全体が今日の福島程度に放射能汚染されていたことを述べた。当時、「死の灰が降ってくる」とか「雨の日は気をつけろ」と言われていたものである。しかし人々はことさら騒ぐことなく落着いていた。おそらく水や食品も相当汚染されていたと思われるが、人々は気にせず水を飲み日本で生産された食品を平気で食べていた。もっとも汚染されていると思われる食品を食べなければ、日本人は全員餓死していた。

    日本人は、このような時代をくぐり抜けてきた。しかし言われているような健康被害は受けていない。前述のように、今日、「大人は大丈夫かもしれないが、子供が心配」という声をよく聞く。ところが1960年代、子供も赤ん坊も分け隔てなく放射能の被曝を受けていた。しかしそれによって若年層が特に健康被害が大きかったという報告はない。


    先週号で「政府は1960年代の日本の放射能汚染状況を公表せよ」と主張した。これは今福島で起っている風評被害を抑えることが目的である。ところが公表によって政府が無意味に厳しい安全基準(チェルノブイリ原発事故を受けて作ったEUの安全基準よりずっと厳しい)を設定したことが明らかになり、これが問題になると思われる。つまり政府の責任を追求される可能性が出てくるのである。そのような事態を避けるため、現政府はデータの公表を行わないと筆者は感じる。

    同様のことはダオキシンについても言える。ダイオキシンの毒性が極めて低いということが今日常識になっている。しかしダオキシンが猛毒と言われていた時代にダイオキシンの規制値が設定され、その後変更されていない。したがって行政においては今でもダイオキシンは「猛毒」と見なされている。しかし現政府としては「ダイオキシンの毒性はそれほどでもない」なんて簡単に認めるわけには行かない。ダイオキシンが「猛毒」と言われ、高い焼却炉を買わされたところから訴訟が起される可能性があるからである。


    同じことが今回の放射能汚染騒動でも言えるのだ。それにしても今回の福島の原発事故に伴う暫定基準値の決め方がちょっと奇妙に感じた。通常、このような案件では、官僚(この場合は厚労省の役人)が諮問機関である食品安全委員会の議論を自分達が目論んだところに誘導すると思われる。ところが今回の決定は食品安全委員会に丸投げしていたと見られるのである。

    本来、厚労省は放射能に対して厳しいスタンスの官庁と見られる。したがって食品安全委員会の委員には、当然、放射能に厳しいAグループの学者や識者が選ばれていると思われる。ところが今回の暫定基準値決定に厚労省の役人が関与した気配が薄い。

    この結果、当然、現実離れしたとんでもない暫定基準値が作られた。当初、暫定だからそのうち政治判断があったりして改定するという観測もあった(筆者もそう思っていた)。しかし暫定基準値は見直されることなく使われている。このため数々のトラブルが起り、とうとう静岡の茶葉まで出荷制限されるはめになった。


  • 放射能を正しく恐れる
    原発事故を受け、急かされて作った暫定基準値は「基準を越えた数値の食品でも特段健康被害はない」といった全く意味の解らないものである。マスコミは、連日「暫定基準値を越えた食品が流通」と大騒ぎしている。しかし暫定基準値そのものについては、マスコミは疑問を何も呈してこなかった。しかし健康被害がないのなら、暫定基準値の方がおかしいのである。

    しかし想像以上に騒ぎが大きくなったため、驚き、そして焦っているのが厚労省である。厚労省は、今、急遽パンフレットを300万分作成し関係箇所に配付しているという話である。その内容は「たとえ暫定基準値を越えた食品を食べても健康被害はない」というふざけたものである。

    当初、日本の暫定基準値はEUの規制値を参考に作ったと政府は嘘をついていた。実際は、EUの規制値よりずっと厳しいものである。例えばよく問題になる放射性セシウムは、EUの2倍以上の厳しさである。


    最近、福島に実家がある人と話をした。地元では福島の原発事故そのものより、政府の対応に腹を立てている人が多いと言う。また原発の近くに住む人々は原発のことをよく知っているせいか、放射能の危険性についても比較的正しく理解している人が多いという話である。むしろ都会に住む人々の方が「放射能」と聞いて思考停止に陥ったり、無闇に恐怖心を持つのである。

    また低線量の放射線は、むしろ健康に良いということを知っている人が意外と多いとも話をしていた。実際、原発で働いている人や原発に出入りしている人が多いせいか、身を持ってそれを実感している人がいるのであろう。地元の農業関係者もそのような話を日頃からよく聞いていると思われる。したがって福島の人々は、「たとえ暫定基準値を越えた食品を食べても健康被害はない」というばかげたパンフレットを今頃作っていると知ったら、本当に怒り出すであろう。「パンフレットを作るくらいなら暫定基準値を変えろ」という声が大きくなりそうである。


    山下俊一長崎大学教授という福島県放射線健康リスク管理アドバイザーに対して、グリーンピースなどの環境保護団体などが解任署名を集めている。原因は山下教授が福島県の各地で「放射線は年間100ミリシーベルト、毎時なら10マイクロシーベルトまでなら問題はない」とか「子供でもこの範囲なら、外で遊んでも大丈夫」と説いて回っていることにある。たしかにAグループの学者のように「1シーベルトでも健康被害がある」という主張と大きく隔たりがある。

    教授は、WHO放射線プログラム専門科学官としてチェルノブイリ原発事故の調査も行っているように、実践的な学者でもある。また原発事故の初期に放射性物質が流れて行った所や、異常に高い放射線値を示す所からの避難を主張している。つまり彼は「放射能を正しく恐れる」という立場である。このように教授は「低線量の放射線ならむしろ健康に良い」といったCグループの学者ではなく、筆者の分類では穏健なBグループの属している。


    教授の言っていることは、ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に沿ったものであり、別に変なものではない。しかし環境保護団体の目的は社会に反原発の雰囲気を作り出すことである。そのためには福島の住人に放射能に対する不安や恐怖感を持たせることが大事と考えるのだろう。それに対して「一定範囲の放射線は大丈夫、安心して下さい」という教授の言葉は、彼等にとって邪魔なのである。

    山下俊一教授は、被曝二世であり根拠ない差別で長い間苦しんだ一人と思われる。今度は、福島の人々が同じ立場に立つと思うといたたまれないのであろう。しかし反原発グループにとって、山下教授は最も目障りな存在と映ると筆者は見る。つまり放射線防護に関する事項は、今日、もはや医学的な論争ではなく、まさに政治闘争の種になっている。



先日、筆者に「原発と今後のエネルギーを考える」というタウンミーティングにパネラーとして出席するよう、主催者から要請があった。主催者からは「脱・反原発の人ばかりで、原発推進派で話をする人がいないので是非出席して下さい」ということであった。来週号ではこのタウンミーティングの様子を報告する。

「米国政府の債務の上限問題」を心配する人が多い。8月2日の期限が迫っていて、米国債が大変なことになるのではないかと危惧しているのである。筆者は、これに対し「あまり心配する必要はないのでは」と応えている。根拠は、米国の株価が堅調に推移し、また米国債が買われていることである。米国の市場参加者はある程度正確な情報を得て取引を行っていると思われる。彼等はいずれオバマ大統領と議会は妥協すると見ているのであろう。海の向こうの日本人の方がこの問題を心配するのも変なものである。
ただ米国市場に大きな混乱、例えば株価の大幅下落などが起った場合には要注意ということになる。もっとも米国の市場が安定しているので、かえって大統領と議会の話し合いに切迫感がないとも考えられる。いずれにしてもこれから一週間は、米国の株価と長期金利の推移は注目される。



11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
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10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
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10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
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10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
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10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
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