経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




11/6/6(664号)
菅政権に対する不信任案騒動

  • とにかく延命
    今週は予定を変更し、菅政権に対する不信任案騒動を取り上げる。採決直前、2日昼間の民主党の代議士会の様子から、不信任案は否決されるが引換えに菅総理が早晩退陣するとほとんどの人々は思ったであろう。残る課題は辞める時期ぐらいであった。大方の人々は、退陣は7〜9月あたりと感じたであろう。

    ところが不信任案が否決されるないなや、菅首相は前言を翻すように来年まで辞めないと言い始めた。これには驚いた人が多かった。ただ中には菅直人という人物の性格から「やはり」と思った人もいたであろう。しかし諸情勢を考えて、やはり菅政権はそんなに長くは続かないと筆者は思っている。実際、この文章を書いている間に「今夏の退陣不可避」という報道が流れている。


    そもそも菅首相は、何事かをやりとげたいというタイプの政治家ではない。とにかく総理の座を仕留め、なるべく長くその地位にしがみつくこと自体を目的にしている。首相になって真っ先に打出したのが「消費税増税による社会保障財源確保」であった。消費税増税は、民主党のマニュフェストに全くないテーマであり周りは驚いた。だいたい菅氏は財政再建に熱心な政治家ではなかった。

    この時、筆者は「この菅氏はとにかく長く総理の座にいたいだけの人物」と感じた。財政再建なんて簡単にできることではないことを知っているからこそ、彼はこのテーマを持出したと思った。しかしこの消費税増税を打出したことによって、民主党は直後の参議員選で大敗し、参議院には大きなねじれが生じた。責任を取って退陣するのなら、この時でも良かったと考えられる。


    菅首相の頭の中には「延命」という言葉しかないと筆者は感じている。執行部の選出や組閣での小沢グループの徹底的な排除などを見ていると、最初から民主党全体で何事かをなそうという気はなかったと思われる。尖閣諸島の中国漁船事件に対する対応も、筋を通すことより、政権の延命の方が重視された。直後の東京でのAPEC総会を無事に開催させることの方がより重要だった。

    極め付けは、「たちあがれ日本」からの与謝野氏引抜きである。菅首相本人は、この人事で自民党とのパイプができ政権延命に繋がると勘違いをした可能性がある。しかしこれによって自民党の猛反発を買い、むしろ大連立は困難になった。


    東日本大震災当日の朝、菅首相に対する外国人からの献金問題が明らかになった。前原外相が同じ問題で辞任していることを考えると、菅首相は絶体絶命の瀬戸際まで追詰められていた。その日の午後に起ったのが今回の大震災であった。窮地に陥っている菅首相が、これを政権の延命に使おうと思ったのも当然である。

    それにしても菅首相の原発事故に対する入れ込み方は異常であった。また事故に乗じて政権の延命策が講じられていたと見て良い。「菅首相が廃炉を恐れる東電に命じ海水を注入させた」という作り話まで出ていた。

    しかしむしろ菅首相の行動が事故を増大させた可能性がある。事故当初の詳細が徐々に出てきているが、そのうち菅首相自身に関連して重大なミスが表沙汰になる可能性がある。ここまで往生際が悪いところを見ていると、何か早期退陣にはまずいことがあると勘ぐられるほどである。


    不信任案提出の数日前、菅政権は唐突に将来の社会保障と税の一体改革を検討する会議を開いた。不信任案が提出されることが分かっており、また震災復興が滞っている状況でやっていることではない。おそらく震災復興会議で進めようとしていた消費税増税が頓挫しそうなので、延命策の一つとしてこのような訳の分らない会議を開いていると考えられる。


  • 小選挙区制導入の結末
    菅首相の評判は最低であり、菅首相を支持するものはよほどの変わり者である。しかし世間に退陣を求める声はそれほど広がっていない。それは「誰がやっても一緒」という冷めた声が多いのからであろう。たしかに自民党を含め、めぼしい次の総理候補が全くいないのである。また筆者が期待している亀井静香氏や平沼赳夫氏は、小政党の代表に過ぎず、総理の座は遠い(ただ世の中何があるか分らないが)。

    今日、政治不信というより政治家不信というものが蔓延している。政治家の発する言葉と行動がいかにも軽いのである。本当に頼り無い政治家ばかりになってしまった。


    ある政治評論家は「政治家の質はそれを選ぶ国民の質で決まるのだから政治家だけの責任ではない」と主張する。何となく納得する意見である。しかし筆者は、選挙制度の影響が大きいと思っている。小選挙区制導入以降、政治家の質の低下が酷くなったと感じる。


    衆議院選挙で小選挙区制(小選挙区制と比例の並立制)が導入されたのは1996年の選挙からである。この選挙区制の改革の狙いは、派閥解消による政党への権力集中や金の掛からない選挙の実現といったものであった。しかしこの小選挙区制のもとでは、立候補者は50%以上の票を取る必要がある。

    熱心な支持者の投票だけでは、小選挙区では当選できない。どうしても政治家はマスコミが流す世論の動向というものに迎合するようになる。しかしこの世論の動向というものが曲者である。05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」から05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」で述べたように、新聞業界にはインナーという人々がいて、特定のテーマについて論調を合わせるよう談合を行っている。これによって世論というものが形成されてきた面がある(典型例が小泉改革)。

    例えば菅首相は、大手マスコミが流す「社会保障費用を賄うには消費税増税も止むなしという人が50%を越えている」という誤った情報を基に消費税増税を掲げ、参議員選で大敗した。おそらく仮に消費税増税に賛成した人々がいても、彼等は条件を付けているはずである。例えば「社会保障制度の全体像をはっきりさせる」「無駄な財政支出の削減を徹底する」「景気が良くなってから」などの条件が考えられるが、マスコミ各社はそのような事情を一切明かさない。


    小選挙区制のもとで50%以上の票を取るには、立候補者の見てくれが重要になる(他には弁説のさわやかさなどが大事)。ちなみに亀井さんは「スタートが小選挙区制だったら、絶対に俺は国会議員になれなかった」と言っていた。また知名度を利用した二世議員、三世議員がやたらと増えた。彼等の多くは妙にマスコミの流す世論の動向に敏感である。例えば福島の原発事故によって原子力発電に逆風に吹くと、さっそく二世議員、三世議員は「脱・反原発」を唱え始めている。

    小選挙区制導入後、やたらと政治家がテレビに出たがるようになったが、これも安上がりの選挙活動であろう。しかしテレビの番組では、物事を深く考えるよりも、テレビ向けに意見をコンパクトにまとめる能力が求められる。つまり政治家はテレビタレント化する必要がある。逆に、今日、テレビ慣れした元タレントが閣僚にまでなっている。

    またテレビの世界では数々の決まり事がある。例えば「バラマキ」は批難の対象である。「子々孫々に借金を残すな」という言葉もある。また財政赤字は「国債の暴落を招く」とか「ハイパーインフレを起す」というのがテレビ界では常識になっている。これらに反した発言をする若手政治家は、扱いにくいと思われ、そのうちテレビに呼ばれなくなる。


    菅首相にめぼしい後継候補が全くいないという状況は深刻である。いずれ消去法で誰かが総理の座に就くことになろうが、このままでは日本の将来は真っ暗である。しかし小選挙区制を15年間も続けていれば、このような惨澹たる結果になるということが証明されたようなものと筆者は考える。

    もちろん中選挙区制にも問題はあった。しかし中選挙区制の元では、少なくとも見どころのある政治家が育つ余地はあった。



不信任案騒動があったので今週は予定を変更した。来週はまた原発を取り上げる。



11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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