経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




11/5/30(663号)
ニューニューサンシャイン計画

  • EPRの話
    福島原発事故をきっかけに、日本の将来のエネルギー議論が活発化している。数あるエネルギー源にはそれぞれ一長一短があり、人々の意見は錯綜し鋭く対立している。主な議論の論点は、「経済性」、「安全性」そして「環境への影響」などであろう。筆者はこれらに「安定供給」と「エネルギーの他国依存からの脱却」という視点を付け加えたい。

    人によって重要と考えるポイントは異なる。ところがそれを明らかにしないまま議論するので、話が噛み合わない。特に反原発派のデマ話も加わり議論は混乱している。今、原発事故によって、自然エネルギーによる発電がもてはやされ、原発は守勢に立たされている。しかし議論は、多分にムードに流されていて、危うい方向に進み勝ちである。そこで今週は、エネルギー政策を考える上でいくつかのデータを示したい。


    どう考えてみても、エネルギー源として成長するための第一のポイントは経済性である。それを計る一つの指標が06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」で取上げたEPRである。EPRとは「発電所や石油生産施設などが生み出すエネルギーの総量を、施設の建設や運転などにかかるすべての投入エネルギー量で割った比率」である。つまり投入するエネルギーに対して、何倍のエネルギーが出力するかとういう数値である。この数値が大きいほど効率の良いエルルギー源ということになる。

    06年7月2日の日経新聞によれば、EPRの値はLNG火力2.14、石炭火力6.55、地熱6.8、石油火力7.9、中小水力15.9、原子力17.4である。ちなみに今日話題になっている太陽光は、0.98と産出エネルギーと投入エネルギーが拮抗している。原子力発電が伸びた背景には、効率性から生まれるこの際立った経済性がある。実際、電力会社の経営方針は、なるべく原子力発電の稼動を高め、火力発電の比率を下げることであった。


    エネルギー源の構成の影響もあってか、各国の電気料金には大きなバラつきがある。今年5月20日の日経新聞に各国(日、米、英、独、伊、韓の6ヶ国)の1kwhの家庭用電気料金の推移のグラフが掲載されている。たしかに2000年まで、日本は0.2ドルを越え突出して一番高かった。日本の電気料金が高いという話は、この時代のことが頭に残っているのである。しかしその後日本はほぼそのままの料金で推移しているが、05年あたりから英、独、伊の電気料金が急速に高くなっている。07年以降では、英国と日本がほぼ同じ(0.2ドル程度)であるが(英国の電気料金はそこまで上がった)、独、伊は0.3ドル近くまで上昇している。またどういう訳かドイツは08年、09年のデータを公開していない。

    米国と韓国はずっと0.1ドル程度とかなり安定的に推移している。たしかに米ドルやユーロといった為替の水準や化石燃料コストの変動は無視できないが、原子力発電の比率を高めてきた日本や韓国の電気料金は安定的に推移していると言える。反対に、風力や太陽光といった自然エネルギーによる発電比率を高めようしているドイツとイタリアの電気料金の高騰が目につく。

    近年、ドイツやイタリアも政府レベルでは原発への回帰を模索していた。背景にはこの電気料金の高騰が考えられる。このまま電気料金が上がり続けば、国内産業の国際競争力も失うことになる。ところがドイツやイタリアの原発への回帰の動きに止めを指したのが、福島第一発電所の事故であった。


  • 中国製の発電パネル
    反原発派は、日本で風力や太陽光による発電が伸びない原因を、日本政府がこれらを育ててこようとしなかったことと主張している。しかしこれは真っ赤な嘘である。日本は、第一次オイルショックの直後、石油依存からの脱却を考え、1974年から「サンシャイン計画」というものをスタートさせている。

    これは風力、太陽光、地熱そして水力といった自然エネルギーによる発電を推進するものであった。この「サンシャイン計画」は国民の大きな期待を背負ったものであった(正直言って筆者も、この時代、この計画に大きな期待を持っていた)。予算も年間1,000億円を越えていた時代もあった。つまり原子力発電だけが、予算措置が取られ、推進されてきたという話は全くのデマである。


    しかし「サンシャイン計画」の結果は無惨であった。この結果、いまだに全発電量に占める比率は、風力が0.4%、太陽光が0.2%と極めて惨めな状態である。ほぼ同時期に始まった原子力発電が30%近くまで増えたのと対照的である。これも前段で述べたように、自然エネルギーと原子力では経済性に格段の開きがあるからである。

    「サンシャイン計画」は「ニューサンシャイン計画」として何回か見直されてきた。しかしそれでも結果がかんばしくないので、予算がだんだん縮小されてきたのである。しかし今回の福島原発の事故をきっかけに、政府はまた自然エネルギーによる発電に力を入れると言うのである。つまり今回は「ニューニューサンシャイン計画」ということになる。


    菅首相は、1,000万戸の戸建て住宅に太陽光発電のパネルを設置させると言っている。太陽光発電パネルは一戸当たり200〜300万円と言われているから、総額は20〜30兆円ということになる。また発電パネルの重さは1平方メートル当たり15kgである(もっと薄くて軽い皮膜はあるが変換率が低下する)。

    つまり一戸当たり40平方メートルとすれば600kgの重量物が常時屋根の上に乗っかっていることになる。当然、耐震強度が問題になり、建物の強度を増す工事が必要になる。雪の降らない所でも、雪国と同程度の頑丈な家を建てる必要がある。しかしただでさえ太陽光発電はEPRが1程度と極端に効率の悪い発電方法である。これに加え建物の耐震強化を行えば、EPRは1を大きく割ることになる。


    おそらく太陽光発電パネルを設置する業者は、安い中国製の発電パネルをかなり使うことになろう。補助金目当なら、そうなる可能性が高い。中国製太陽光パネルの変換効率が悪くても、価格的に国産メーカは太刀打ちできない。以前、太陽光パネルの生産は日本とドイツの独壇場であったが、今日、安価で大量生産を行う中国メーカが大きくシェアーを伸ばしている。つまり金を掛けて太陽光の変換効率の向上といった技術開発を行っても、あまり意味がないのである。

    ドイツのQセルズという会社は、太陽光パネル製造で世界のトップメーカであった(日本メーカと競っていた)。しかし自然エネルギーオタクのドイツにあっても、同社は業績不振がずっと続いている。今年の1〜3月決算も赤字であった。このように太陽光パネル製造は、もはやハイテクでもなんでもなくなったのである。


    最近、飯田哲也氏という反原発派のカリスマのような人物が頻繁にテレビに出ている。彼は、太陽光発電の効率はどんどん上がっていて、今では30円/kwhを切っているとまで言っている。たしかに49円/kwhというものは、政府が2004年に公表したものであり多少古い。しかし筆者が目にした最新の数字は45円/kwhというものであり、大して安くなっていない(飯田氏はどこから30円/kwhという数字を持ってきたのだ)。

    またメガソーラというものが脚光を浴びている。しかし「サンシャイン計画」でも、雨が降らず日照時間が長いということで、四国にそれに似たものを造ったことがある。ところが雨は降らないが、そのためほこりが付着して発電効率が下がったのである。そして四国のこのテストプラントは撤去されたと聞く。つまりメガソーラでも、ほこりや黄砂が積れば発電効率が下がるはずであるが、反原発派はそのようなことを決して口に出さない。



来週は、今週の続きである。

東電は、汚染水(放射性物質による)の処理費用を21万円/tと公表した。25万tで525億円である。つまり先週号で取上げた20日の報道ステーション(テレビ朝日系)の1億円/tという報道は、全くの誤報ということである。しかし約500倍の数字を持出したということは、単なる誤報では片付けられないと筆者は思っている。



11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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