経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




11/5/23(662号)
原発と電力会社の経営

  • 電力会社の利益構造
    先週号で取上げたように、日本では原発推進派、反原発派とも、自分達の主張を浸透させるためにはデマめいた話さえ広めようとする。それにしても反原発派のデマは酷すぎる。最近では、原発のコストが火力発電より高いといったデタラメな話を始めている(テレビで10.5円/kwという反原発派の話を聴き筆者は驚いた)。

    今週は、このようなことを取上げ今後のエネルギー政策を考えたい。たしかに部外者には正しい発電コストを知ることは難しく、簡単には正確な原価計算はできない。もっとも1kw当たりの発電コストは政府から公表されているものがある。しかし数字が古くまた今日の化石燃料の値上がりや為替の変動を適確に反映していない。


    そんな中で中部電力が、浜岡原発の停止に伴う経費増(主にLNG購入代)が年間2,500億円増えると発表した。浜岡原発の原発の総発電量は360万kwであるから、単純に計算すればほぼ8円/kwのコストアップになる。もっとも運転停止することによって浜岡原発のウラン燃料が消費されないことなどを考えると、そっくり2,500億円の減益になるという話ではない。

    ところで原発に通常装填されている核燃料の金額は意外と小さいと見られる。20日に発表された東電の決算書によれば、福島第一原発の1〜4号機の核燃料の除却損は合計で449億円である。ちなみに東電はこの他に処理費用を146億円計上しているが、これは今後増えるものと考えられる。


    このように原発は、変動費であるウラン燃料費は小さいが、装置の建設費が莫大ということである。つまり電力会社の経営にとっては、いかに原発の稼動率を高めるかが勝負である。したがって福島第一原発などのように減価償却がほとんど終わっている原発は、稼動さえすれば大きな利益を生むのである。

    もっと言えば償却が進んだ原発は、簿価が小さく、固定資産税も少なくて済むので稼動することによる経理上・経営上のメリットは大きい。ちなみに古くなった福島第一原発の1〜4号機の発電設備に関する減損損失は、4機の合計でわずか1,017億円である。ただし発電施設の解体費用が458億円計上されており、これも今後増える可能性がある。


    このように原発が停まって、その発電量を確保するために火力発電を稼動させれば、燃料費がほぼそっくり減益要因となる。中部電力の浜岡原発の場合は2,500億円であったが、東電は福島第一と第二の合計で7,000億円と見積もられている。

    反原発派は、原発の経費に再処理費用が含まれていないので安く見積もられると主張する。そしてこの再処理費用を自分達で勝手に見積もって、原発は経費が掛かると言っているのである。しかし日本においては、まだ再処理工場が完成していないので、再処理費用というものは簡単には見積もることはできない(これまではフランスなどに委託していた)。また再処理を行えば、プルトニウムという副産物が生成される。このプルトニウムはMOX燃料で使い始めており、これで再処理費用をある程度賄えると考えられる(もっとも反原発派はMOX燃料を使ったプルサーマル計画に反対していて、プルトニウムを副産物とは絶対に認めないはず)。


    政府に要請され中部電力は、浜岡原発を停止したが、経費の増加分は政府が補填するという話である。もしこれがなかったら、中部電力は1,000億円程度の経常赤字になると筆者は試算する。

    先週号で述べたように定期検査に入った原発の再稼動が認められない状態が続けば、半年後には日本のほとんどの原発は停まる。したがって中部電力と沖縄電力を除き、東電だけでなく全ての電力会社が赤字になることも考えられる。簡単に原発を停めるという話になっているが、電力会社の損益にはストレートに影響する。電力料金の値上げができなかったら、損益悪化によって税収も減ることになる。ようやく菅首相も事の重大さに気付いたのか、「安全が確保された原発は再稼動しても良い」と言い始めている。


  • 停止中の原発の再稼動
    福島第一原発事故の収束までの費用については、様々な試算が出ている。5兆円とか10兆円という話が一人歩きしている。また20日の報道ステーションでは、アレバ社の汚染水1t当たりの処理費用が1億円で、今後発生する分も含めると汚染水は20万tになり、処理費用は20兆円になると言っていた。驚くような金額である(ちなみにアレバ社は年間売上高が1兆円程度の会社)。しかしもしこれが大きな間違いなら、報道ステーションという番組の存続にも係わるほどの重大な報道ミスということになると筆者は考える。

    原発事故の収束に向けた直接的費用だけでなく、ガレキの処理費や住民の避難費用や休業補償がある。また出荷停止となった農産物や水産物の補償もある。ただ風評被害というものをどれだけ補償するか難しい問題がある。さらに東電と政府の負担割合というものも今後問題になるであろう。


    筆者は、汚染水の処理費用20兆円の話を別にすれば、20日の東電の決算発表で東電の損害額はある程度見えてきたと感じる。マスコミは、原発事故処理費と放射物質放出による損害の賠償が大きいと連日報道している。しかし筆者はこれはちょっと違うと思っている。

    筆者が重要と考える第一のポイントは、現在停止している福島第一原発の5,6号機と福島第二原発の再稼動時期と見ている。前段で述べたようにこれらの原発が停止していることで、年間7,000億円の燃料費が余計にかかる。5年間なら3兆5千億円という話である。もちろんその間はウラン燃料代が不要なので、そっくり3兆5千億円の損失が生まれるということにはならないが、それに近い損益悪化要因になる。


    現政権は、東電に賠償金を払わせるために財源を捻出させている。役員報酬や人件費の削減に加え、株式や複利厚生施設の売却を促している。また何を勘違いしたか、金融機関の債権放棄という話まで出ている。さらに金利減免というチマチマした話もある(せいぜい年間100億円とか200億円といった小さな金額)。しかし無事だった福島の原発の稼動を延期することによって、年間7,000億円に近い損失を生むのである。資金的にも、調達した燃料の代金を払う都度に資金が流出する。また柏崎・刈羽原発で定期点検に入った原発の再稼動が認められないような事態が起れば、さらに損失が膨らむことになる。

    現政権は、東電の非ばかりを責めているが、損害の賠償をスムーズに進める気が本当にあるのなら、停止中の原発の再稼動を早める方策を考えるべきである。このことは他の電力会社の経営にも係わる重大な問題である。今、原発の再稼動は電力確保の面でしか捉えられていない。原発がだめなら、休止している火力発電所を動かせば済むという極めて安易な発想である。


    菅政権は求心力がなく、閣僚のめいめいが勝手な発言をしている。筆者が一番問題と見る閣僚は枝野官房長官である。先週号で触れたように、彼はかなり筋金入りの反原発派と筆者は最初から見なしている。原発事故が発生した当初から言動がおかしかった。

    事故発生当時、皆が混乱しパニック状態のさなか、枝野官房長官は津波を受けても無事であった5,6号機の廃炉を示唆する発言をわざわざ行っている。理由は「国民感情が許さない」ということであった。金融機関の債権放棄の話の時にも「これは国民感情である」と言っている。


    そもそも「国民感情」といった曖昧な言葉を安易に使うことが問題である。またこの「国民感情」の国民とは一体誰のことなのか明らかにすべきである。筆者に言わせれば、枝野官房長官のいう「国民」は、どう見ても反原発派の人々のことである。もっとも枝野官房長官は「国民」とはあくまでも国民全体のことと言い張るであろうが。

    福島の原発事故の後で行われた統一地方選では、原発の立地している県の知事選で反原発派の候補はことごとく大差で敗れている。また原発の立地している市町の議員選ではもっと極端で、反原発派が議席を減らしたり得票数を減らしている。もし結果が逆とか反原発派が健闘したというなら、枝野官房長官の言葉にも説得力はあるが、全くそうではないのである。



今週は原発と電力会社の経営を取上げた。来週は、原発と日本経済の関係について述べる。



11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
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10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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