経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/5/2(660号)
菅政権の迷走

  • 放射線と生活習慣の発がん相対リスク
    先週、「低線量の放射線はむしろ健康に良い」という中村仁信大阪大学名誉教授の話を紹介した。しかしこのような説を唱える学者は、中村教授だけでなく他に沢山いるのである。どうもこのような話は、口には出さないが原子力の専門家の間でほぼ常識になっているのではと筆者は感じる。

    放射線によって人間の持つ免疫機能が高くなることは「放射線ホルミシス効果」と呼ばれている。特に筆者がこのような話を取上げたのは、放射線について科学的根拠が薄弱な話が横行し過ぎているからである。その典型が風評被害である。


    福島からの避難民に対して馬鹿げた差別行為が続いている。これも風評被害の一つと言える。政府もこれはまずくなったと判断したのか、ついに放射線の発がんリスクというものを公表した。日経新聞は4月25日朝刊にこの内容を掲載している。

    これは放射線影響研究所の論文と国立がん研究センターの研究を比較検討し、国立がん研究センターの研究者がまとめたものである。なお放射線影響研究所の論文のデータは、広島、長崎の原子爆弾の被爆者4万4,000人を追跡調査し得られたものである。この論文は研究者の間ではよく知られているが、これまで一般には示されたことがなかったと筆者は思っている。

    放射線と生活習慣の発がん相対リスク
    受動喫煙の女性1.02〜1.03倍
    野菜不足1.06倍
    100〜200ミリシーベルトの被曝1.08倍
    塩分の取りすぎ1.11〜1.15倍
    200〜500ミリシーベルトの被曝1.16倍
    運動不足1.15〜1.19倍
    肥満1.22倍
    1,000〜2,000ミリシーベルトの被曝1.4倍
    毎日2合以上の飲酒1.4倍
    2,000ミリシーベルト以上の被曝1.6倍
    喫煙1.6倍
    毎日3合以上の飲酒1.6倍


    ちなみに福島原発の作業員に許可されている被曝線量は250ミリシーベルトであり、これは「塩分の取りすぎ」や「運動不足」と同等のリスクを負っていることを意味している。


    この表の意味が周知されるなら、少なくとも風評被害が起るはずがないと筆者は考える。もっともこのような知識が一番必要なのは、一般人より菅総理を始め菅政権の面々である。これまでの言動を見ていると菅総理は、まさに「歩く放射能」であり「歩く風評被害」そのものである。


    ただこの表を見て、筆者はおかしいところに気付く。100ミリシーベルト未満のケースが割愛されているのである。どうも100ミリシーベルト未満は分らないということになっているらしい(当然、データ自体は存在していると考えて良い)。しかし「低線量の放射線はむしろ健康に良い」と主張し「放射線ホルミシス効果」を重視している学者は、主にこの範囲の放射線量を念頭に置いている。

    先週号で取上げた台北のコバルト60による鉄骨汚染(コバルト団地と呼ばれている)も年間50ミリシーベルト(平均総積算線量400ミリシーベルト)であった。ここのケースでは、一万人の調査でがん死亡率が一般の3%に減った(実に97%の減少)という衝撃的な報告が、2004年に台湾当局からなされた。あまりにも大きな減少率なので米国などが追跡調査をしている。


    計画的避難区域の飯館村や福島の学校施設は、年間の積算線量が上限である20ミリシーベルトに達するということが問題になっている。しかしICRP(国際放射線防護委員会)が設定している国際基準は、このようなケースでは上限を20〜100ミリシーベルトと定めている。日本の安全基準はこれの一番厳しい数値を用いているのである。

    ところが学校施設の安全基準を20ミリシーベルトに決めたことに抗議して、内閣官房参与の小佐古東大大学院教授が辞任した。4月28日の「朝まで生テレビ(テレ朝系)」に出ていたこの教授の弟子(北海道大学)によれば、教授本人はなんと10ミリシーベルト以下を主張していたらしい。しかし先週号で述べたように、今日、低レベル放射線の害をことさら重視するこのような学者はむしろだんだん少数派になっている。筆者は、菅政権がこのような極端な考えの学者を、わざわざ内閣官房参与に招いていたことが問題だったと考える。


  • 永久債の日銀引受け
    東日本大震災の復興のための財源が問題になっている。内閣の一部や、復興構想会議の議長と宮城県知事が財源を増税に求めると極めて唐突な発言をしていた。しかしこれは財務官僚のシナリオという事が見え見えになっており、各方面から一斉に批難を受けることになった。特に国会議員の大半は、税制こそ政治が決める事項とかなり憤っている。

    菅総理肝煎りの復興構想会議はこの一件で信頼が地に落ちた。復興構想会議から何か答申が出ても誰も相手にしないであろう。菅総理自身も既にこの復興構想会議に興味を失っていて、二回目の復興構想会議では寝ていたそうである。


    筆者は、復興の財源を検討する前に、国家としてどの範囲に財政を投入するかを議論する必要があると考える。ガレキの処理費用や道路の補修費などは分りやすいが、判断が難しいものもある。例えば仮に個人保障を行うとしたなら、どの程度まで行うのか決める必要がある。

    また震災地で次の巨大津波に備え、堤防や防潮堤をどの程度の規模で造るかも議論となろう。堤防や防潮堤は役に立たなかったのだから、造っても無駄と決めつける人々がいる。しかしこれはこれまで公共事業が無駄だと主張してきた人々が言っているのである。筆者はそうは思わない。未来永劫、津波が来る度に、人々は逃げ回れば良いという話はおかしい。そもそも今回の津波で簡単に破壊された堤防や防潮堤の実態をまず調べるべきと考える。筆者は、構造上の問題や、何となく欠陥工事があったのではないかと思っている。


    政府や人々の目は、今回の被災地だけに向かっている。筆者は、東北・関東の震災地だけでなく、今後大きな被害が想定されている地域の防災にも関心を持つべきと考える。想定されるているのは東海・東南海・南海(場合によっては日向灘まで)の同時期の大地震である。

    ところが政府の行動がおかしい。他の地域の公共投資を削り、これを東日本大震災の復興に回そうというのである。しかし直下型地震を含めれば、日本中どこでも震災に見舞われる可能性がある。今日、日本人全体が防災意識にようやく目覚めたのである。


    今、防災に関わる財政支出を全国的に増やすべきと筆者は考える。防災対策によって人命や生産設備が助かるのであるから、安いものである。筆者は、防災費用は決して無駄にならないと考える。

    例えば今回の地震で、埋立地の液状化が問題になった。しかしこれも基礎に砂を打込むなどの費用を掛ければ、被害は最小限に抑えられたはずである。ディズニーランドの敷地は、基準が甘かった1975年以前に埋立てられていたが、基礎を強化していたので無事であった。金を掛けなかった駐車場だけが液状化したのである。


    今後に対する防災費用を含めると、筆者が必要と考える財源は世間で言われているより大きくなる。財源は、まずオーソドックスに特別会計の剰余金と建設国債と考えて良い。しかし東日本大震災といったものが、500年、1,000年の単位で起るのなら、500年、1,000年の償還期限の国債でも良いという考えができる。

    もっとも11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」で述べたように、元々筆者は、膨大なデフレギャップを抱える日本は永久債を発行し、これを日銀引受けにすることを提案している。しかし残念ながら平時においては、このような考えがなかなか理解されない。

    前述の4月28日の「朝まで生テレビ(テレ朝系)」の後半は復興財源が話題になった。驚いたのはコンソル債(永久債)の話が出たことである。大塚厚労副大臣と高橋洋一氏からであった。そのうちの一人は、コンソル債(永久債)の日銀引受けまで言及していた。まあ、この話がどこまで発展するか見物である。



来週号は、ゴールデンウィークにつきアップが少し遅れる予定。

政府は、いまだに飯館村などの計画避難地域からの避難にこだわっている。小佐古東大大学院教授などの変わり者の学者にひっかき回されてきたのであろう。今日、仮説住宅の建設が全く進まず、避難民の数がほとんど減っていない。避難民は精神的にほぼ限界まで来ている。ところが住宅が無事であった飯館村などから、さらに多くの避難民を出そうというのだから、政府は一体何を考えているのかさっぱり分らない。もし避難するのだったら放射性物質が大量放出された3月15日の直後であり、今頃避難しても全く意味がない。賠償金さえ出せば良いという態度である。

原発作業員の緊急事態における放射線被曝許容量を、250ミリシーベルトから500ミリシーベルトに増やす話が出ている。もっとも2007年にICRPから、緊急時の許容量を500ミリシーベルトか1,000ミリシーベルトにするよう勧告が出ていた。日本はこの勧告を受け、今年の1月に放射線審議会(経済産業省と文部科学省の諮問機関)が、安全サイドに立ち250ミリシーベルトと答申している。つまり今後上限を500ミリシーベルに上げても特に問題はない。しかしこのような動きも小佐古教授は気に入らなかったのであろう。ところで作業員は500ミリシーベルトまで上げておきながら、一般人は20ミリシーベルトのままというのは説明のつかないことである。



11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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