平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/5/18(第66号)


世論と経済政策を考えるーーその1
  • アンケート調査の問題点
    今週号は5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」の続編である。民主政治では、政府が世論を意識して政策を進めることが大切とされるが、世論を把握するための主な手法である「アンケート」には色々問題があることを指摘した。それをまとめると次のようになる。
    1. 技術的な問題
      サンプリングの対象者の選択とサンプルの数によってアンケートの精度が決まることになるが、これらは主に費用と時間に制約される。ただ、本誌では、アンケートは技術的に適宜実施されているとの前提で話を進めているので、これ以上の言及は一応省略する。
    2. 心理面の問題
      アンケートの調査結果には、「調査を行なった主体」や「設問の仕方」などが微妙に影響を受けるのである。したがって調査結果を正しく理解するには、アンケートがどのような環境や設問で行なわれたかを知る必要がある。そして場合によっては、調査結果をそのまま鵜呑みすることは間違いの元となるのである。
    3. 民意自体の問題
      アンケートが正しい手段で実施され、設問の仕方に問題がなく、アンケート結果に正しく民意が反映されていても、民意自体が間違っていたら、その民意を実現するための政策は間違いと言うことになる。たしかにたとえ民意が間違っていても、それに沿った政策を行なうことが民主政治であると言う考えもあるが、因果関係が複雑で専門家と言われる者も見通しを間違うような問題や、正しく民意を問うこと自体が困難な問題の場合には、アンケート結果通りの政策を行なうことは決して正しい政策とは思われない。筆者は、まさに「経済」に係わる政策はこれに該当すると考える。
      元々「経済」は複雑メカニズムによって成り立っており、誰でも容易に理解できるものではない。政府の経済見通しがほとんど当らないことでもこれは理解できる。特に日本の経済はその規模が大きくなっており、世界経済に占める比重も大きくなっている。つまり日本の経済運営の影響が各国の経済に多大の影響を与えている。自国の経済の均衡だけを考えて政策を行なえるならかまわないが、現在日本はそのような立場になく、今回のサミットのように、経済政策にも国際的な協調をしばしば求められるのが現実である。さらに昔と違い、「金利」や「為替レート」が変動しており、当局による調整が難しくなっている。また、最近ではデリバティブと言うとんでもないものまで出現している。このような現状で、一般国民に具体的な経済政策を問い、今のような方法で世論を集約することにどれだけ意味があろうか。
    特に最後の問題は重要であり、次に具体例で述べる。

  • マスコミの世論に及ぼす影響
    筆者の手元に日経新聞の切り抜きが4枚ある。これは昨年の8月13日から8月16日にかけての特集で、タイトルは「明暗景気、私の診断」、4人の経済の専門家に景気動向と当面の経済対策を聞くものであった。その概要と簡単な筆者の感想を記すと次のようになる。
    1. A氏ーーシンクタンク理事長
      穏やかな回復基調にあるが、景気が腰折れすることは考えられず、景気刺激策をとる必要はない。今後は公共事業を抑制し、法人税率や所得税率の引き下げが必要。秋以降に日銀の低金利政策の修正局面が来ると考える。

      このシンクタンクは有力で、この理事長も度々マスコミに登場する。筆者は、前の理事長の考えにはよく共鳴するが、現在の理事長については全く評価していない。
    2. B氏ーー銀行系シンクタンク主席研究員
      在庫が増えており、生産抑制は避け難く、景気回復は中だるみとなるが、設備投資の増勢が続くため景気後退局面に入ることはない。97年度の成長率は1.4パーセントであるが、98年度は2.1パーセントと成長の足取りは速まる。特別減税の継続が必要。

      このシンクタンクの予測データは、日経新聞にもよく登場し、同紙の特集「2,020年からの警鐘」が使ったデータもこのシンクタンクのものが多かった。筆者には、半年後の景気動向さえみごとに間違うのに、20年以上後の経済予測がどうして正しいと言えるのか不思議に思っている。そもそも筆者は金融機関、特に銀行系のシンクタンクを全く信用していない。どの銀行もバブル期の不良債権で事実上倒産状態であり、政策的に「利差や」を確保してもらってかろうじて持っている状態である。そのような銀行の調査部門であるシンクタンクの言うことが信用できるはずがない。
      別の銀行系シンクタンクの社長はマスコミによく登場し、「景気が悪化しても政府は景気対策を行なってはならない」と言っている。その結果、経済はさらに悪化するが、5年後には日本経済は立派に再生すると主張している。ところが同氏は最近テレビに登場し、いつもの持論を展開していたが、今回は10年後には日本経済は再生すると言っていた。1年もたっていないのにどうして今回は5年から10年に延びたのか、筆者には「いい加減」も度が過ぎていると思われる。同氏は代表的な財政再建論者であり、これに沿った経済政策が今日の不況を深刻にしていることをどう考えているのであろうか。
    3. C氏ーーシンクタンク専務
      穏やかな回復基調という景気判断を覆えすほどの状態ではない。投資は底堅さを持続すると思う。98年度の公共事業費を前年度比7パーセント減らすが、そのマイナスを補う民間需要が出てくるため、不況に突入する心配はない。規制緩和や経済構造改革を急ぐ必要がある。

      このシンクタンクの場合、調査部長と言う肩書きの人が度々テレビに登場し、コメントを行なっている。言っていることはこの専務と変わりがない。それを見かける度に、筆者は「またいい加減なことを言っている」と思うだけである。
    4. D氏ーー日銀局長
      「穏やかな回復基調」という景気判断を修正する必要はなく、景気が失速するとは思わない。雇用や所得環境の改善基調は崩れておらず、消費はいずれプラスに戻る。低金利は企業の収益を下支えし、投資を促進する要因となっている。

      日銀の場合は、政府の公式見解から大きく外れた経済見通しを述べることはない。当時の政府の景気に対する認識を考えると、この日銀の判断はしょうがないと思われる。したがってこれ以上のコメントは必要ないであろう。
    これらが当時の経済の専門家と言われている人々の平均的な考えであった。ちなみにこの二か月後には金融機関の大型倒産が続き、半年後には政府は16兆円の史上最大の景気対策を検討するはめになったのである。日本の経済の専門家、つまりエコノミストと言われる人々の問題についてはまた後日述べることにするが、今、問題にしたいのは、専門家さえこのように景気動向を大きく間違う状態なのに、一般の人々に具体的な景気対策を問う「世論調査」がどれだけ意味を持つかと言うことである。また、一般の人々にはそれほど多くの情報が手元になく、その意見はこれらのエコノミストの考えにメディアを通じて影響受けている。つまり「世論調査」を行なっても、その結果はこれらの「いい加減なエコノミスト」の言っていることと大差がないのである。
    筆者は経済に関する「世論調査」が全て意味がないと言うのではない。「経済の現状」、「今後の消費計画」、「今後の資産の運用」など個人の経済活動について問うことはそれなりの意味があると思われるが、その効果に議論が分かれる「具体的な景気対策」について問うようなことは別と考えるのである。現在、政府と自民党は「減税の経済効果は小さく、景気対策は公共投資を中心に行なう。」と言い、マスコミに登場するほとんどのエコノミストは「公共投資の効果は小さく一時的である。景気対策は減税、特に所得税や法人税の恒久減税で行なえ。」と主張している。筆者は、このような問題は両者がデータを持ち寄り議論するテーマであり、世論調査で「白黒」を決めるものではないと考えるのである。
    さらにマスコミに登場するエコノミストの意見はちょっと片寄っていると筆者は考えている。ほとんどが「小さな政府」を指向する人々である。筆者は、最近、これはメディアによる選別によると考えている。つまりマスコミ自体が「小さな政府」を指向しており、それに沿った考えのエコノミストだけが頻繁にマスコミに登場するのである。エコノミストの方もマスコミの考えに迎合する傾向にあり、これが「時流に乗る」ために必要と考えるのである。これらのエコノミストには「物事の真理」より「時流に乗る」方が重要なのである。そしてこのようなエコノミストが頻繁にマスコミに登場し、世論も、時には政府もこれらのエコノミストに影響を受け、判断を間違うのである。

    読者の方から「地方への財政支出による日本財政の破綻」について本誌で取り上げることがあるかの照会があった。たしかに日本の場合、都市部で吸い上げた税金を地方に投入している構造になっている。これについては本誌でも7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」で簡単に触れているが、そのうちまた取り上げようと考えている。ただ今後経済の成長が止まると、このような所得の分配に過度に関心が移ることが予想される。例えば日本財政の破綻の責任が一方的に「地方の責任」とされることなどである。筆者の意見はいずれにしてもちょっと違うが、その中で述べたい。質問者が取り上げておられた「地方栄えて日本は破産」と言う本については知らないが、そのうち本屋で立ち読みでもしようと思っている。ただ題名の「日本は破産」と言う言葉は気になる。日本の長期金利はついに1.3パーセント台となっている。これは世界的、歴史的な低金利である。「日本が破産」するとしたら、誰も日本の国債なんか買わないはずであり、その場合には当然金利はとてつもなく上昇するはずである。例えばロシアの国債の金利が何十パーセントにもなっていることを考えれば良い。つまり「日本さえ破産」と言うことになれば、世界の中で破産状態でない国はなくなるのである。したがってこの著者は、単に「日本は破産」と言う言葉で読者を引き付けたいと考えたか、あるいは経済の常識がないと判断される。いずれにしても今後、このような風潮が広がること自体が気になる。



98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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