経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




11/4/25(659号)
放射線は身体に良い?

  • 身体の免疫機能
    放射線の健康被害が話題になるが、メディアはそのメカニズムについて全くと言って説明しようとしない。ただ放射線の健康被害としては、白血病や甲状腺ガンの増加や脱毛が挙げられている。ところがここにきて「低レベルの放射線はむしろ身体に良く、ガンで死ぬ人も減る」というとんでもない説を唱える者が現れた。しかしこの人の話がとても説得力があるのだ。

    この人物は、放射線医師で大阪大学の名誉教授の中村仁信氏である。この人物はただの放射線医師ではなく、日本放射線防護委員会の委員長であり、さらにICRP(国際放射線防護委員会)の委員(単なる委員だけではなく理事にも就いていたようである)をやっていた。まさに本物の放射線医学の権威である。


    ICRPは1956年に設立され、また前身は第二次世界大戦の前(1928年)に設立されている。ICRPは放射線防護の専門家の総本山であり、WHOの諮問機関である。放射線防護に関するWHOの基準値は、ICRPが決めていると言える。一般に知られている基準値は、平時において年間1ミリシーベルト、緊急時は年間20〜100ミリシーベルト(どういう訳か上限を500ミリシーベルトに設定)というものである。ただ各国はこれを弾力的に運用していて、今回、日本は福島原発の作業員に年間250ミリシーベルトまで許容している。

    放射線防護については、ICRP以外にも独自に安全基準を定めているところがあるが、国際的にはほとんど相手にされていない。中には環境保護団体をバックにしたものがあり、今回の福島原発事故に乗じて、日本のマスコミに登場しいい加減な事を言っているケースもあるようだ。


    中村仁信教授によれば、放射線の身体への影響は「活性酸素」を発生させることに尽きるという。活性酸素は、人間の細胞を壊し、さらに遺伝子の配列に影響を与える。そしてこれによって細胞がガン化するというリスクが発生する。

    また短時間(または一瞬)のうちに高い放射線を浴びると、火傷を負ったり毛が抜けたりする。これは活性酸素が身体に大量に発生するからである。最悪の場合、高レベルの放射線を受けると死にいたる。これらのメカニズムを基にICRPは放射線被曝の安全基準値を定めている。


    ところが4月17日の「たかじんのそこまで言って委員会」(読売テレビ・・この番組は日本中に放送されているが、意識的に関東圏だけはネットしていない人気番組)に登場し中村教授は、低レベルの放射線なら継続的に被曝しても健康に害はないと断言している。もちろん現在警戒区域に指定されている福島第一原発の20km圏内に、住民が戻っても影響はないという。現在、問題なのは、原発事故処理で高レベル放射線を浴びる可能性のある作業員だけという口振りであった。

    さらに驚くことに、教授は低レベルの放射線はむしろ健康に良いと言うのである。この番組で中村教授がこの発言をしたのは2回目である。3月に登場し「低レベル放射線はむしろ健康に良い」という衝撃的な発言を行った。その話を詳しく聞こうということで、4月17日の番組に再び登場したのである。


    まず教授は、低レベルであってもICRPが言っているように、身体に発生した活性酸素は細胞や遺伝子を傷つけると述べている。しかし活性酸素で傷ついた細胞や遺伝子のほとんどは、修復されかあるいは体外に排泄されるという。また遺伝子が傷ついてガン化した細胞も大半は排泄される。教授は、人間の身体にはこのような免疫機能が備わっていると説明していた。そして重要なのは、低レベルの放射線が発生させる程度の活性酸素は、むしろこの免疫機能を高める働きがあるということである。

    活性酸素は運動しても発生する。しかし軽い運動で発生した活性酸素は身体の免疫機能を高めると教授は主張する。そして低レベルの放射線は、軽い運動と同じように免疫機能を高めると説明しているのである。ただしここでの低レベルの放射線に、レントゲン照射、CTスキャンそして放射線治療は当てはまらないと筆者は理解している。

    問題はどの程度までの放射線レベルなら健康に良いのかということになる。中村仁信教授は、年間500〜1,000ミリシーベルト程度(筆者の聞き違いでなければ)なら良いのではないかと発言していた。筆者の計算では、これは57〜114マイクロシーベルト/時となる。


  • ICRPの主流派
    低レベルの放射線被曝事故がこれまで何回か世界で起った。その度にICRP(国際放射線防護委員会)も現地に入り、放射線被曝の健康被害を調査した。ところがICRPが想定していたような結果が出てこないのである。

    例えば台湾でビル建設に使われていた鋼材に放射性物質のコバルト60が含まれていて、多くの人々が長期間の被曝をしたことがあった。筆者もこの事故は覚えている。被曝量は、年間50ミリシーベルト程度のペースであった。当然、ICRPの想定では、ガンに罹る人が増えているはずである。ところが実際には、逆に一般よりガン死した人がずっと少なかったのである。そして同様の事例が次々と出てきたのである。またチェルノブイリの原発事故でも、ガン死の比率がむしろ一般人より低かったと中村教授は述べていた。


    ちなみに今年2月に公表された国連原子放射線影響科学委員会(UNSCEAR)の報告書によれば、チェルノブイリで死亡したのは、事故処理作業で高レベルの放射線を浴びた30名と高濃度の放射線物質に汚染された牛乳を飲んだ幼児の15名である。牛乳を飲んだ幼児のうち6,000名が甲状腺ガンに罹り、そのうち15名が犠牲になった。

    この他に原因不明の死者が19名いるが、これらを含めても死亡者は数十名とUNSCEARは報告している。一方、環境保護団体のグリーンピースなどは10万人、ウクライナの被害者支援団体は14万人が死亡したと主張している。どうも日本人の大半は、これらの環境保護団体などの言っていることに洗脳されているようだ。


    中村仁信教授の話に戻る。教授は、これまでICRP(国際放射線防護委員会)は放射線被曝の影響を一つの方向からしか見てなく、人に備わっている免疫機能というものを全く考慮してこなかったという。そして驚くことにICRPの科学者の間では、中村教授と同様、低レベル被曝においては免疫機能が高まるといった効果を重視する考えが主流になっているという。

    したがってICRPの低レベル被曝の安全基準が、そのうち大幅に緩和される可能性がある(早くやってくれれば、現在、福島で進行しているバカげた菅政権のカラ騒ぎと広がっている風評被害に終止符を打てる)。筆者は、ICRPで緊急時100ミリシーベルトだったはずの制限が、実際のところ上限が500ミリシーベルトに引上げられているのは、この流れを反映したものと感じている。教授の話によれば、どうもこれまでのICRPの基準値にこだわっているのは、権威を重んじ科学性に背を向けているICRPの上層部だけになっているようである。


    中村教授は実に思い切った発言を行っている。しかしおそらく教授には「まさに御用学者の典型」とか「東電から金をもらっているのだろう」と言って、各方面から石が飛んできているであろう。中には人格攻撃めいたものもあると思われる。筆者は、もし教授に反論するなら科学上の問題点を指摘すべきと考える。例えば「放射線の害は活性酸素を発生させることに尽きるというのはおかしい」とか「活性酸素は免疫機能を高めることはない」と指摘し、それを科学的に証明すれば良いのだ。

    ただ筆者は、中村教授の主張にもやや弱点があると思われる。まずどの範囲の低レベル放射線なら身体に良いのか、もう一つはっきりしないことである。そしてこの研究がまだ動物実験の段階であることである。たしかに長期の低レベル被曝というものがそうそう起るものではなく、観察データを積上げたり、ましてや人体実験は難しい(ただ最近、放射線を浴びる宇宙飛行士への調査から、教授達の説を裏付けるデータが出ているらしい)。


    中村教授の「低レベル放射線の被曝はむしろ健康に良い」といった主張は、直には一般に浸透しないであろう。しかしこのような考えがもっとメディアで紹介されても良いと考える。また教授に国会で証言してもらっても良い。放射線で余計な心配をしている人々の中でも、これを聞いて安心する人が出てくるであろう。

    「たかじんのそこまで言って委員会」は出席者の発言があまりにも気ままなので、首都圏では放送しにくいみたいである。関東圏の人々は、You Tubeで見る他はないようである。ただいつも面白いとは限らないが。



来週は、今週の続きである。



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