経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/4/18(658号)
山を越えたか?

  • 電力の需給状況モニター
    まず東電管内の電力不足問題を取り上げる。火力発電の復旧などによって、計画停電は3月で終了した。とりあえず最悪の事態は避けられ、異常な消費の自粛ムードも緩和の方向に向かっている。ただ夏場の需要期に電力が不足することははっきりしていて、一段の節電が求められている。


    計画停電が実施された当初、筆者は、他の電力会社からの融通を唱えたが、そのような態勢が整っていないのである。マスコミはこれを東日本と西日本の電気の周波数が異なるからといった説明をしていた。しかし11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」で、これは周波数などの技術的な問題ではなく、電力各社がやる気がなく設備の設置を怠ってきた結果であると筆者は指摘した。

    テレビ東京系のWBS(ワールドビジネスサテライト)という番組で、この問題を取上げていた。ここで専門家に「変換所の建設に3〜6千億円という莫大な費用が掛かり、これは火力発電所建設費用に匹敵する」という明らかな嘘の説明をさせていた。実際の変換所を内側・外側から映していたが、発電所に比べはるかに簡素なものである。

    変電所が火力発電所と同じくらい建設費用がかかるなんて誰も信じないであろう。火力発電所は、発電用タービンだけでなくLNGや石油の受入れ施設が必要であり、海に面した広い用地が必要である。さらに環境アセスメントなども大変で、建設には10年はかかるであろう。一方、変換所はどこでも良く、山奥の国有地に建設することもできる。送電線の布設が問題になるとしても、送電線の問題は火力発電所でもつきまとうものである。


    この番組は「電力の融通は無理ですね」という言葉で締めくくられた。つまりこのレポートは、電力会社間で電力の融通ができないといった異常な状態を追認することが目的であった。筆者は、テレビ局はこの番組でとんだ情報操作をやっていると憤った。

    ところが最近になって、関西電力を始め電力会社の方で、電力各社の電力の融通を検討し始めたという話が出てきた(記事が日経新聞に小さく掲載)。今後、西日本においても大震災などの緊急事態が起りうるのだから、当然の話である。

    さらに11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」で言及した東清水変換所からの送電能力20万kwの増強工事を2年以上前倒し、来年の夏場に完成させると中部電力が発表した。やる気があり、予算さえが付けばこのような工事はどれだけでも早く完了させることができるものである。ところでこのWBSのレポートの最後に、そこまで明らかな嘘の説明を行っていた専門家が、よほど良心が痛んだのか「既存の変換所の設備増設なら安くつく」と付加えていた。

    もっとも今回の大震災で、現状のいびつな電力の供給体制が明らかになったことは一つの成果である。おそらく今後は「電力の融通」は重要なテーマとなろう。それにしてもWBSを始め各メディアは、一体何を目的にこのようなデマ情報を流してきたのかさっぱり分らない。


    揚水電力発電の増強や休止発電所の再稼動によって、夏場の電力供給力は想定以上に確保できそうである(5,200万kw)。また需要も輪番操業や節電意識の向上などによってかなり抑えられそうである。ただ柏崎・刈羽発電所で2機の発電機が夏場に定期点検に入るなど、供給力は日々刻々変動する。

    ここまで需給ギャップが小さくなるのなら、行政による硬直的で強制的な需要抑制の方がむしろ弊害が大きくなると思われる。そうではなく一般の人々や企業の常識や節電意識を信じた施策が望ましい。そのためには適切な情報を流すことが必要である。

    日々の需給量の予想はされているが、現時点における実際の需給状況が分らない。このデータを持っているのは東電だけである。そこで東電が、テレビで常時(あるいは随時)、この電力の需給状況モニターを流せば良いと考える。個々の電力ユーザは、それを見ることによって例えば90%を越えたら冷房を緩め、あるいは95%を越えたら冷房を切るといった節電行動を取ることができる。


  • 放射線汚染物質の処理
    福島第一原発の事故発生から一ヶ月分の日経新聞をまとめて読み返してみた。案外、見落としていた記事が多いのである。ところで最近、ある原子力の専門家が「福島の原発事故は、2号機と3号機が3月の21日頃、1号機は25日頃それぞれ山を越した」と言っている。

    それを何となく裏付けるものが、日経新聞に掲載された次の表と思われる。

    3月29日の原子炉内のデータ(気圧、度)
    1号機2号機3号機
    圧力容器の内圧3.71〜4.91▲0.25*▲0.95〜0.29*
    圧力容器の温度(上部)299.4160.562.2*
    圧力容器の温度(下部)135.8143.6121.1
    格納容器の圧力(上部)2.6511.075
    格納容器の圧力(下部)2.65計測限界以下1.796
    *は計器が一部故障、または故障の可能性。▲はマイナス

    この表の圧力容器の内圧と圧力容器の温度を見る限り、2号機と3号機は落着いた状態という説明も納得できる。2号機と3号機は冷却水もスムーズに入っているようであり、圧力容器の温度も比較的低くなっている。つまり原子炉に限って、依然比較的高い反応が続いているのは1号機だけということになる。


    ただ2号機と3号機の格納容器の圧力が外気圧とほとんど同じということは、格納容器が壊れていることを示す。つまり壊れた格納容器を通して放射性物質が外部に放出されたのである。特に水素爆発によって2号機の圧力抑制室が壊れ、3月15日から16日にかけて大量の放射性物質が放出されたのは事実である。また3号機の格納容器もどこかにか破損があり、放射性物質がある程度漏洩しているようである。

    ところで格納容器に大量の放射性物質が発生するのはおかしいので、当然、これらは圧力容器から流れてきたものと見られる。つまり壊れるはずがないと言われていた圧力容器のどこかが破損しているのである。一番怪しいのは11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」で述べた、制御棒の出入り口のようである。


    このように圧力容器や格納容器が壊れ放射性物質を放出させた2号機と3号機が安定に向かい、損傷の少なかった1号機が依然不安定という皮肉な経過となっている。ただし2号機と3号機の計器の一部は故障していて変な数値が出ている。つまり現時点では確定的なことまでは言えないのである。例えば最近3号機の圧力容器の温度が急に90度くらい上がったりした。これに対して保安院などは計器が故障しているからではないかと説明している。何とも頼りがない。

    冒頭で「山を越えた」という原子力専門家の言葉を紹介したが、筆者は「山を越えた」と言うより山の状態がそのまま続いているという感想を持つ。例えば汚染水の処理が問題なっていて、冷却水の注入をセーブしているという話がある。また今後も大きな余震が有りうる。テレビなどのメディアの関心が薄くなっているだけであり、「山を越えた」という言葉を率直に受取ることはできない。


    原子力発電所内の高濃度の放射性物質の処理が問題になっている。これについては、色々な提案がなされ一部は実行されている。しかし手付かずなのが、低レベル汚染物質の処理である。

    福島第一原発から11,500tの低レベル汚染水を海に放出し、内外の批難を受けた。放出した汚染水のレベルは、英国やフランスの核燃料再処理工場から放出されている汚染水のレベルと同等か、あるいは少し低いものである。しかし各方面から批難を受けたため、今後、この種の低レベル汚染水の放出は難しくなった。実際、英仏の汚染水の放出は、当初、周辺国から批難されたことを筆者も何となく覚えている。今日、周辺国も半分諦めているのであろう。

    福島の場合も膨大な低レベル汚染物の処理が問題になる。原子力発電所の外でも汚染されたガレキや残土がある。第一段として誰でも考えるようにこれらを一ケ所に集める必要がある。常識的に福島第一原発に近い所に用地を確保することになろう。ところで筆者は、汚染物質の処理に福島第二原発をもっと活用しても良いのではないかと考える。


    原発から20km以上離れた町村住民の避難が問題になっている(飯館村など)。一年以上住み続けると健康被害が有りうるというのが避難勧告の理由である。実にばかげた話である。これらの地区には、放射性物質が大量に放出された時(3月13〜15日)に、風向きと雨の関係でたまたま放射性物質が多く降ってきただけである。この地区の上にだけまだ放射性物質が浮遊しているという話ではない。またこれまで福島県に出されていた現乳の出荷制限が、次々と解除されているくらいである。

    問題になっている地区の放射性レベルを計るモニタリングポストの数が信じられないほど少ない。東海村のJOC事故の時には、狭い所に多数の計器を置いて調べたということである。今回は、それより桁違いの広い場所にたった数十個の計器しかないという。それで一ヶ月内の避難勧告を行っているのだから、人々が不満を爆発させのも無理はない。何か、強権で人々を移住させること自体が目的になっているように感じられる。

    今やるべきことは、急いで高い放射線を発している場所を特定し除染を行うことである。雨が降ると放射性物質は深く潜って行くという話である。当然、汚染されたガレキや土を除去することが必要になる。ところが前述の通り、ガレキや残土を持って行く場所が決まっていないのである。端的言えば、現在、福島原発の周辺は無政府状態に近い。



今週は風評被害まで話を進められなかった。来週はこれを取り上げる。



11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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