経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/4/4(656号)
本当に重大な事は何か

  • 混乱の元
    東日本巨大地震に関して、今日、地震と津波による被害の実態がようやく見えてきた。津波の破壊力は、人々の想像をはるかに越えていた。また地震は、石油コンビナートの火災と砂地の宅地の液状化現象を引き起した。

    被害が大きかったのは鉄道である。ただ東北新幹線は、幸い損傷が大きくなかったため、今月中の全線再開が予定されている。大変なのは在来線である。地震の揺れによる損傷に加え、津波による被害が甚大であり、海岸線を走る鉄道の復旧のメドは立っていない。


    分らないのが福島第一原発の事故の収束である。東電清水社長が入院し勝俣会長が会見を行い「原子炉の方は一応の安定を見ている」と述べた。ところがこの発言は各方面から一斉に攻撃を受けている。しかし我々には特に勝俣会長の発言を否定する材料がないのであるから、疑いを持ちながらもこの言葉を信じる他はないと筆者は考える。

    たしかに原子炉は小康状態を維持しているようである。ただ漏水の個所が不明とか、原子炉の損傷の程度が分らないという現状に危うさを感じている。実際、これまでも想定外の事象が次々と起っているのである。


    燃料棒の冷却には想像以上の時間が掛かる。3号機と4号機では使用済み燃料棒が発熱し、あわてて消防隊や自衛隊の放水で冷やす事態に追込まれた。使用済み燃料棒は、原子炉を停止後ある程度まで冷やされた後にクレーンで原子炉から取出し、貯水プールに移されここで3〜5年間冷却され続ける。

    この貯水プールの冷却システムが震災で壊され、今回のような事態を招いた。また事故となった1〜3号機の燃料棒は、貯水プールではなく、原子炉の中で完全に冷えるまで冷却され続けることになるようである。いずれにしても冷却システムの復旧が今回の事故の収束のカギと考える。


    今度の原子力関係の事故では、桁違いの数字が入り乱れ人々を混乱させている。筆者は、神経を使う必要のある重大な事項と、それほど心配する必要がないものをはっきりさせるべきと感じる。ところが大衆はマスコミが流す情緒的な情報で動揺し、このことが逆に政府に影響し不可解な言動を引き起している。

    今回の事故による放射性物質の放出量の合計は、チェルノブイリ原発の場合の10万分の1という専門家の見方がある(数年の冷温期間の放出量を含め)。ただこれは事故が今のままで収まった場合の試算であり、燃料棒の損傷が進めばさらに放出量は増加する。一方、チェルノブイリ原発に関係している現地の技術者は、今回の福島の原発事故での放出量をチェルノブイリ事故の3%程度と試算している。このように同じ原子力の専門家の間であっても、実に3,000倍の開きがある。


    福島第一原発の近くの海水の放射性ヨウ素の濃度が、基準値の3,000〜4,000倍という話が出て人々を連日驚かせている。しかし米ソの冷戦時代は、核実験によって日本の近海のこの数値は常に1万倍であったという話である。核実験が行われなくなって、この数値が限りなくゼロに近くなっていたのである。

    つまりこの基準値というものが混乱の元になっている。一説によれば、基準値は何事かが起った場合の異常を察知するための目安という。観測値がこの基準値を越えたら、何が異常の原因なのか調べる段取りになっている。しかし今回は始から福島原発の事故が原因とがはっきりしていたのだから、基準値というもの自体が宙に浮いた存在であった。

    今回のような事故が起った場合には、本来、本当に健康に影響がある数値を別に設定する必要があった。しかしこれが事前に準備されていなかったので、単なる目安であったはずのこの基準値を急遽使ったのである。だから政府は「食べても安全である」が「出荷を停止する」といった訳の分らない話を続けることになった。摂取制限にいたっては全く意味が不明である。さらにどこまで信用できるのか怪しいIAEAの調査が加わり、余計な混乱を招いている。


    原発事故がまだ収束していないのに、政府関係者から過剰反応と思われる発言が続き、世の中を混乱させている。「事故炉は石棺方式で埋める」「5,6号炉も廃炉は当然」「東電は国有化」「2030年までの原発の建設計画は見直す」など数限りない。いい加減しろと言いたい。


  • 何がなんでも派
    元原子力安全委員会(内閣府)の専門委員だった武田邦彦中部大学教授が、テレビで委員会の様子を話していた。委員会は「何がなんでも原発を推進する委員」と「何がなんでも反対する委員」で構成されていたという。つまり両極端の委員が集まっていて、あまり建設的な議論がなされていなかったようである。ちなみに教授自身は「より安全な原発の推進」を訴えていたそうであるが、どうもこのような中間派は少数であったようである。武田教授は両極端の委員から叩かれたものと思われる。

    「何がなんでもの原発推進派」は、安全性ばかりを強調し危険を指摘する声に耳を傾けない。たしかにどれだけ大きな地震が起っても原子炉は大丈夫という専門家の話は以前からよく聞いたものである。しかし今回は電源装置と冷却システムが破壊され、これが放射性物質放出という事故に繋がったのである。


    ところがその自慢の原子炉さえも弱点が指摘されている。原子炉は16センチの鋼鉄で作られているから、最悪の場合でも壊れないと言われてきた。しかし福島原発のような沸騰水型の原子炉には、制御棒を出し入れする口が下にある。燃料棒の溶けた放射性物質がこの出入り口を損傷させ、放射性物質が格納容器に流れ出ている可能性があるという話である。

    つまり原子炉本体にも弱い部分があるということになる。本当にここから放射性物質が流れ出ているのなら、「高速増殖炉もんじゅ」のナトリウム漏れと似た図式になる。「もんじゅ」の場合には、流体のナトリウムの温度を計る温度計を差込んだ部分からナトリウムが漏れた。


    筆者は、燃料棒の冷却に海水を使ったことに、どうしても引っ掛りを感じる。震災直後、海水を使うことに東電が反対したから事故が拡大したという週刊誌の記事がある(読者の方からのメールで知った)。この週刊誌によれば、その反対の理由が海水を使うと原子炉が廃炉にせざるを得なくなるからということになっている(東電はこの話を否定している)。しかし筆者の危惧はそのような次元の話ではない。

    たしかに二次冷却にも海水を使っている。しかし原子炉の方は高温・高圧であり、こんな所に海水を使うことは不測な事態を招く恐れがあると筆者は危惧した。また緊急避難的に海水を使うことがあっても、いち早く真水を調達し、これで海水を置き換える必要があったと筆者は考える。ところがどれだけ経っても海水の注入を止めなかったのである。そして先週号で取上げた北沢防衛大臣の「米国に言われたから(海水の注入を止め淡水を注入すべき)」発言が出た。これには筆者も非常に驚いた。


    塩分の塩素は金属に結び付き、金属を脆くする性質がある。原子炉は大丈夫でも配管に影響があると筆者は見る。特に配管の曲った部分、つまりエルボーになっているところが危ない。エルボーに不規則な亀裂が入る可能性はゼロではないと筆者は思っている。

    ようやく淡水を注入することになったが、淡水で塩水を完全には置き換えることはできない。何年になるか分らないが、塩分はある程度残るものと考える。筆者は、この塩分の今後の影響に注目している。


    放射性物質を含んだ大量の水の処理が問題になっている。冷却システムが回復するまで、このような水が出てくる。蒸発する水分と同量の水を注入すれば良いという意見があるが、しかしそのような器用なことはできないようである。

    そこで使用済みの水をまた冷却に使おうというアイディアが出ている。しかしこれでは循環する冷却水の放射性物質の濃度がどんどん高くなる(あるいは高いまま)という問題が生じる。そこでゼオライトという物質で放射性物質を吸着するという話が出ている。ところがこのゼオライトを使ってろ過しても、塩水のナトリウム分ばかりが吸着し、放射性物質はうまく除去できないという。ここでも塩分が邪魔になるのである。



今回の東日本巨大地震では、想像が及ばない事が次々と起る。とうとうメガフロートまで登場することになった。来週は、その時点で一番関心があることを取り上げる。



11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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