経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/3/28(655号)
電力不足で表沙汰になった事実

  • 計画停電倒産
    福島第一原発の事故が収束に向かわない現状では、震災に関係していることであっても他の事に人々の関心は薄い。先週号で取上げた電力不足に伴う計画停電もその一つである。マスコミがこれに関連して取り上げるのは、プロ野球の開幕時期のことであったり、東京23区だけが計画停電の対象から外されていて不公平といった話だけである(荒川区と足立区の一部は埼玉の変電所から電気が来ているから計画停電の対象になっている)。

    しかしこのような事をいくら取上げ、またこれらに対策を講じても問題の解決には全く繋がらない。今後は、サマータイムの採用など、人々を混乱させるだけでほとんど効果のない対策が次々と打出されるものと思われる。


    ようやく政府は、夏場に1,500万kwの電力が不足することを認めた。しかも冬場まで電力不足が続くという見通しである。筆者は、人々に節電意識が芽生えているので、夏場にそこまで電力が不足するとは思わない。実際、東電は不足を850万kwとしている。しかしこのままではかなりの電力が不足することに変わりはない。

    ところが不足する電力不足対策として、政府が真っ先に「サマータイム」を取上げていることを知って、筆者は愕然としている。筆者は、今のような計画停電という形は一刻も早く止めるべきと考える。計画停電ではなく、早く総量規制という形に移行すべきである。問題はピーク時の電力使用量であり、これをいかにコントロールするかである。


    筆者は、一般の家庭が節電に協力するのは当然と考えるが、一体、どの時間帯に最も節電が必要なのか情報が必要と考える。こういう事に対する広報活動が大事である(節電が必要ない時間帯に節電をしても意味がない)。ただ一般への節電の呼掛けだけでは確実とは言えないことを筆者も理解している。

    しかしやはり大口の需要家の節電への取組みが重要である。東電こそが大口需要家のデータを持っている。東電の社員が需要家を一軒一軒回って折衝すべきである。


    大口需要家の節電には様々なポイントが考えられる。「生産拠点の一時的な移転」「操業の深夜や休日への移行」など数限りないであろう。重要なことは需要家の個々の事情を考慮した節電の申入れである。実際、自動車業界では操業の輪番制というアイディアが出ている。現在のような一律の停電なんて最低のやり方である。

    今日、意外と電力を多く使用しているのはコンピュータシステムの各種サーバ(インターネットのサーバも含め)である。これについては電算処理を東電の管轄外に移してもらうことが考えられる。たいていの大企業は、震災などに備え、オンラインで常時バックアップデータを遠隔地に送っている。ラインが繋がっているのだから、処理も地方に移すことは技術的に可能と考える。


    ただこれらの対策によって、需要家になんらかの経済的負担が発生する。もし今が非常事態と認識するのなら、なんらかの政府の支援が必要と筆者は考える。しかし国がなかなか決断しないから東電も動けない。筆者は、経済の活動レベルをなるべく下げない形で、節電を実行することが肝心と考える。このような施策によって税収の落込みが小さくなれば国にとってもメリットがあるはずである。

    企業によっては24時間の連続通電がどうしても必要なところがある。このような企業とって、今のような計画停電は死活問題である。そのうち計画停電倒産が続出すると思われる。


    計画停電や後段で述べる電力の交換について、マスコミの報道は大いにピントがズレている。この原因の一つは、ほとんどのマスコミが、計画停電の対象となっていない東京の23区内に拠点を構えていることであろう。しかし計画停電の続行で、経済がガタガタになればスポンサーの企業の方が参ってしまうであろう。どうしてこのような事にマスコミが気付かないのか不思議である。永久にACのコマーシャルを流し続けるつもりなのであろうか。


  • 周波数の問題ではない
    臨時版と先週号で他の電力会社からの電力の融通を取上げた。しかしこれについては色々な誤解がある。当初、筆者も、当然、融通できる体勢が整っているものと誤解していた。ところが筆者だけでなく、枝野官房長官も、地震発生当時、全国的な節電を訴えていた。しかし電力が全国的には融通できないのなら、これは全く意味のない要請であった。つまりこの電力が融通できないという重要な事実は、電力関係者だけが知っていたことになる。

    この理由は、西日本と東日本で周波数が異なることと説明されている。マスコミだけでなく政治家を含め、一般の人々もこの中途半端な説明に納得している。しかしここが誤解されているポイントである。筆者が色々調べたところこれは真実の半分に過ぎない。もちろん異なる周波数に変換することは技術的に可能である。電力の融通が進まない本当の理由が、そのようなところにはないというのが筆者の結論である。

    東電のホームページによれば、東電が受入れている応援受電の内訳は、新信濃変換所60万kw、佐久間変換所30万kw、そして東清水変換所10万kwの計100万kwとなっている。ちなみに新信濃変換所は東電、佐久間変換所が電源開発、東清水変換所が中部電力の所有である。つまり応援受電100万kwのうち60万kwは自前の変換所からのものである。


    では同じ周波数の東日本ではどうかということになる。どういうわけか北海道電力が、同じ周波数帯の東北電力に融通しているのはたった60万kwだけである。電力に余剰はあるが、それ以上は送電能力がないので無理という話である。つまり周波数の問題ではなく送電線の容量の問題である。マスコミはさかんに周波数の問題として取上げ、政治家と一般の人々は皆この嘘話に騙されているのである。

    実際、東清水変換所の送電能力は30万kwあるが、実際の送電は10万kwしか行っていない。今、残りの20万kwを送る送電線の工事を行っている。ところがこれが完成するのは平成14年12月という話である。つまり2年半以上も先の話である。


    筆者に言わせれば、どのような貧しい発展途上国でも、やる気さえあって2年半以上の時間があれば、かなりの地域に高圧電線を張り巡らせることぐらいはできる。要するに日本の電力会社は、電力の融通に関心がなく、また全くやる気がないのである。

    おそらく同じ周波数の西日本の電力会社の間でも電力の融通はほとんどできない体勢になっていると思われる。先週号で将来の電力供給計画を「東日本版」と「西日本版」の二つで示すべきと述べたが、これは間違いであった。将来の電力供給計画は、電力会社毎に作らなければならないのである。

    秀吉や家康によって日本は天下統一されたが、電力業界だけは戦国時代の群雄割拠状態なのである。行政はこのような状況をよくまあ放置してきたものである。電力会社だけでなく、行政もまるでやる気がなかったのである。このような重大な事実が、今回の震災で表沙汰になったのである。


    今の状態では、東電が中部電力から電力の融通を受けても、中部電力には関電から電力の融通を受けるための設備と保証がない。同様に関電も他の電力会社から簡単には融通を受けることができないと考えられる。つまり筆者が主張するように、東電が他の電力会社から電力の融通を受けるためには、全ての電力会社が電力の融通のための工事を一斉に始める必要がある。

    今回の地震は東日本に被害をもたらした。しかし西日本には未来永劫震災が起らないという保証はない。場合によっては、今回の東電以上の悲惨な状況も有りうる。少なくとも今回は、電力の不需要期に起ったという救われた面がある。電力の融通は日本全体にとっても急務の課題である。もちろんこれには政府のリードと国費投入が必要である。

    ここで最も重要なことは、日本の政府のやる気である。それなのにプロ野球の開幕が遅れると喜んだり、節電の方法として真っ先に「サマータイム」を思い付くなんて今の政府はどうかしている。


    最後に北沢防衛大臣の奇妙な発言を取り上げる。ここに来てようやく福島第一発電所にバージ船で原子炉の冷却用に淡水を運ぶことになった。ところが北沢大臣は「米国から冷却水に海水ではなく真水を使うよう強く言われたから」と説明していた。それでは日本政府関係者は真水を使うことを誰も考えていなかったという話になる。

    いち早く本誌は14日の臨時版で『福島発電所に「水」をピストン輸送すべきである。真水を載せたタンカーの派遣も考えられる。』と主張した。やはり海水を使ったことで現実に障害が発生しているようである。それを「米国に言われたから」とは何事であろう。東電関係者も本音では、当然、始めから海水ではなく真水を使いたかったはずである。たしかに淡水をダムから引くことが可能になったため、バージ船の淡水は無駄になるかもしれない。しかし政府としてやれることは何でもやるのが、今回のような時には必要である。

    また先週号で『政府は、政府として一体「何ができるのか」を模索すべきと考える。』と述べた。どうも東電関係者を怒鳴りつけることが政府の役目と勘違いしているようである。今、政府と東電との間の信頼関係はガタガタになっていると筆者は見ている。



来週も今週の続きである。

農産物の風評被害が酷い。最初は一般大衆の中で起っていたが、何と出荷制限とか摂取制限を実施して、政府が風評被害を決定的に拡大させた。どうも急いで作った暫定の基準値というものが、かなりいい加減なものという感じである。政府がこの暫定値の見直しを検討しているという話が出ている。本当にデタラメである。とうとう首相が2週間振りにテレビに現れ、この被害は金で解決すると言っている。事業仕分けでケチな金を削って喜んでいた党の党首とは思われないセリフである。



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11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
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