経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/3/21(654号)
東日本巨大地震

  • 臨時版の説明
    まず東日本巨大地震で被災された方々に、心からお見舞い申し上げます。いまだ被害の全容が明になっていないほどの大震災です。今は救命・救助が一番ですが、一刻も早く復興の段階に進むことを願っています。


    先週は、突然、東日本巨大地震が起り、とても本誌を書き上げる気にはなれなかった。しかしどうしても言いたいことがあったので、14日から15日にかけ臨時版を発行した。まず今週はこの臨時版の説明から始める。もっとも急いで書いたので、修正が必要なところもある。

    『東電が計画停電という奇妙なことに踏切ろうとしている。これによって無用の混乱を招いている。他の電力会社に電力の融通を頼んだが、他の電力会社も余裕がないと断られたらしい。しかしどれだけ真剣に頼んだのか不明である(本当に頭を下げて頼んだのか)。また電力の供給力が不足するのなら、まず大口の電力需要家に停電を承知してもらうのが順番である。大口需要家がメーカなら、夜間の操業や自家発電の使用を依頼してみることも必要である。特に夜間電力についてはどの電力会社も余っていると思われる。公共交通機関も一律に停電という話もばかげている。』

    これは13日の夜になって、いきなり東電が翌日の14日から計画停電というものを実施すると発表したことを受けたものである。しかも計画停電は4月まで続けると言っているのである。ところで「公共交通機関も一律に停電」は翌日から大幅に緩和された。

    そこで筆者は続けて『政府・官邸も存在感が全く、まるで東電の言いなりである。このような状況なのだから、政府が先頭にたって節電を訴えるのは当り前である。しかし節電が必要なのは東電と東北電力の管轄内だけでなく、全国的に節電を求めるべきである。これによって融通できる電力を確保できるはずである。東電は不足する電力はたった100万kwと言っている。実際、大手メーカの地方の工場は、部品が来ないので臨時休業しているところが多い。』と述べた。

    筆者は、緊急的に停電が必要でこれを実施するということまで批難しているのではない。ただ4月一杯まで計画停電を行うと言ったことが非常に奇妙と感じたのである。むしろ電力需要は、それ以降、6月あたりから増えるのである。とにかく東電の言うことには、かなり嘘が含まれていると感じたのである。

    また『東電は建前は民間企業であが、明らかに公的存在である。東電ではらちがあかないのなら、政府が他の電力会社に直接折衝すべきである。場合によっては、財政出動も止むを得ない。他の電力会社から国が高く電力を買うことも考えるべきである。また全国の大口のユーザに対しても、夜間電力をもっと安くするとか、他の地域に生産を移した場合の費用を財政負担するといったことが考えられる。』

    『13日の東電の記者発表では、不足する電力は、1,000万kwと言っているが、14日の東電の記者会見では若い担当者が不足する電力は100万kwと言っていた。思わず口をすべらしたのであろう。もし1,000万kwも不足するのなら、計画停電を次々と撤回するはずがない。この季節、午後5〜7時がピークと言うのは本当であろう。しかしこれまで電力を供給して来たのであるから、この時間に急に1,000万kw以上の電力が不足するとは信じられない。午後5〜7時において一部の地域で計画停電を強行している(引っ込みがつかないから無理やり停電していることも考えられる)。本当にどれだけ不足したのか精査すべきである。おそらく他の電力会社から融通が効く範囲と思われる。』と述べた。この「他の電力会社からの融通」はこれからの重要なポイントなので、後段で取り上げる。ただこの時点では、筆者の思い違いもある。

    次に『このような事態になると必ず、深夜のライトアップやコンビニの営業を止めろという声が起る。しかし深夜は電力が余剰になる(全国的に見ればの原子力発電所は稼動を止められないから)。経済の活性化を考えれば、非常識に基づくこのような声は無視すべきである。』と述べた。夜の電力消費が問題になったのは、第一次オイルショックの時である。当時は石油の確保自体が難しかったのであり、また電子力発電がほとんど行われていない時代であった。今日、事情は様変わりしている。おそらく今日の首都圏であっても、深夜の電力は余っていると考えられる。つまり経済活動でも移せるものは深夜に移せば良いと筆者は思っている。

    最後に『福島第一発電所の発電装置に海水が注入されている。これで発電装置の冷却化に成功すれば結構なことである。しかし冷却化に失敗するケースも考えられる。このまま海水を注入し続けることに筆者はなんとなく危惧を感じる。炉内の海水濃度が上がって行くことが、別の障害を発生させる可能性を心配するのである。これまで「想定外」のことが起っているというセリフは聞きあきた。海水が注入できるのなら、真水も注入できるはずである。福島発電所に「水」をピストン輸送すべきである。真水を載せたタンカーの派遣も考えられる。大きなタンカーは無理かもしれないが、ある程度の大きさのタンカーの派遣は可能と考える。結果的に、このような「水」の準備は無駄になるかもしれないが、それはそれで結構なことである。』と述べた。これについては今でもそう思っている。政府は、政府として一体「何ができるのか」を模索すべきと考える。


  • 二つの重要ポイント
    まだ行方不明者の数さえはっきりしない段階であり、具体的な復興の話は時期尚早であろう。ただ重要と思われるポイントを二つ上げておきたい。一つは前段で触れた「他の電力会社からの融通」である。日本は東日本巨大地震でかなりの発電能力を失った。しかし日本全体で需給はバランスしているというより、むしろ電力の不需要期なので供給力が需要を上回っているものと思われる。

    ところが電力の周波数が異なっていて(西日本の60Hzと東日本の50Hz)、二つの地域の電力は簡単には融通し合えないのである。ただ周波数を変換する変電所が3カ所あり、ここで周波数を変換することができる。この処理能力には諸説があり、300万kwとか100万kwという話がある。また筆者にメールをくれた方は60万kwと言っておられる。いずれにしても驚くほど小さな数字である。


    正直言って、筆者は両地域の変換能力がここまで小さいとは思っていなかった。電力に関しては日本は一つではないのである。これまで様々の角度から役所は、将来の日本の電力の供給計画といったものを発表してきた。しかしこれは全く意味のないことであった。将来の供給計画は「東日本版」と「西日本版」の二つで示すべきなのである。

    なぜ電力の変換能力がここまで小さいのか不思議である。第一には監督官庁の怠慢が指摘できる。しかしこれだけでは説明できないような小ささである。筆者は、東日本と西日本の電力会社の間で、何らかの深刻な葛藤があるからと理解する他はないと考える。また両地域が電力を融通を自由し合えば、競争激化によって不利益を被るという穿った見方もできる。

    筆者は、14日の供給について、東電が東北電力から100万kwの融通を受けたという報道を聞いた(東北電力は北海道電力から60万kw融通を受けた)。しかしもし筆者の聞き違いでなければ、東電が西日本の電力会社に電力の融通を申し入れたが、断られたという話が報道されていたはずである。ただこれが14日だけの当座の話なのか、もう少し先の話なのかがはっきりしない。また変換能力の範囲内の融通もなされているかどうかも不明である。どうもこの電力融通の話はタブーになっているのか、それ以降耳にすることがなくなった。


    筆者は、首都圏の電力不足の解決の決め手はこの電力変換による電力の融通と見ている。技術的に変電所を建設せずとも変換能力を上げる方法があると考える。たしかに一週間では無理であろうが、需要期までの3〜4ヶ月の間にはかなりの能力を整えることができると思う。

    地震によって、東電は原子力発電で910万kw、火力発電で715万kwの能力を失った。原子力発電の復旧は当分無理である。被災を免れた福島第二発電所でさえ、福島県知事の再稼動の許可は当分降りないであろう(また休止している分の柏崎刈羽の原子炉の再稼動の許可も難しくなったと思われる)。火力発電所は、ダメージの大きいところを除き、ある程度復旧するであろう。また休眠していた火力発電所を再稼動させることができる。これは280万kwあるが、ただ燃料の手当が難しいという話がある。

    このように火力発電で、6〜700万kwの発電能力を回復できると見られる。しかし夏場の需要期は、これではとても足りない。本当に残されている道は、筆者の主張する西日本の電力会社からの電力融通だけである。


    もう一つのポイントは、東北の被災地の復興に必要な石油製品の供給が非常に難しいことである。まず首都圏の石油製品(ガソリン、灯軽油)の供給不足であるが、これは1,2週間のうちに解決すると思っている。ただし余震の発生地がだんだん南に下がってきており、鹿島製油所の再開に不安がある。しかし一番の問題は、石油製品を被災地の東北に運ぶ手段が限られていることである。原因はJXホールディングの仙台製油所が被災したことにある。

    幸い精製装置の方の損害はたいしたことがないようであるが、テレビで見る限り出荷設備は全損のようである。つまり14.5万バーレル(2.3万kl・・ガソリン、灯軽油だけでなくガスや重油を含めてほぼ同量の製品を製造)の処理能力を持つ製油所の機能が復活しても、製品が出荷できないのである。そして重要なことは、出荷設備がやられているので、他で造った石油製品を内航船で運んでも、タンクローリー(以下ローリーと省略)に積み込みができないことである。

    製油所は石油精製工場であると同時に油槽所としての機能を持っている。ところが仙台製油所はこの油槽所としての機能を失ったのである。東北には近くに出光の塩釜油槽所があり、浮いているガレキを除去してなんとか船が着けるようになったようである。たしかに三陸地方の各漁港には油槽設備はある。しかしそれらは小さいものばかりであり、しかも津波でダメージを受けている。


    塩釜油槽所だけでは出荷能力が不足するのは明白である。したがってかなりの量の石油製品は、首都圏や鹿島の製油所から直送するか、あるいは新潟、秋田、青森の油槽所からローリーで運ぶことになる。しかしこれまで仙台製油所から片道2時間程度で運んでいたものが、倍以上の5〜6時間はかかることになる。つまり一台のローリは一日に2〜3回運べたが、一日に1回しか運べない計算になる。今、政府は300台のローリーの手配を石油元売り各社に要請している。

    東北の石油製品の需要は1日当たり3.8万klと言われている。ただ当座の緊急的な必要分は別にして、今のところ経済活動のレベルが低いので3.8万klも需要はないと思われる。しかし震災地の復興工事が始まれば、需要は大幅に増えると考える。もちろんこれを塩釜油槽所だけで処理することは不可能である。つまり必要なローリーが格段に増えるのである。


    だいたい、今日、300台ものローリーが遊んでいるとは思われない。また一台のローリーが一回で運べる量を15〜20kl、また一日一回転として計算すると、300台で0.45〜0.6万klの石油製品が運べる計算になる。しかし既存のローリーの輸送距離が伸び、効率が低下することを考えるとこれを補うことさえ難しいと考えられる。

    ましてや復興事業に伴う需要増には、とても対応できないというのが筆者の見通しである。この問題の解決は、仙台製油所の油槽所としての機能の復旧にかかっている。筆者は、人力も機材もここに集中的に投入することが必要になると思っている。



来週は今週の続きである。

そのうち被災地の復興事業が話題になるであろう。筆者は、阪神淡路大震災の復興事業で大きな実績を上げた亀井国民新党代表の出番と考える。しかし菅首相がどう考えるか不明である。

今週は、余裕がなかったため福島原子力発電所についてはコメントを省略した。筆者は、原子力発電所の問題での一番のポイントは、稼働中の原子炉に制御棒が入ることだったと考える。地震発生後、このシステムが自動的に作動し、緊急シャットダウンが成功した。その後の電気系統の不具合を考えると、この制御棒の挿入の成功は、ものすごくラッキーなことであった。もし地震の影響でこれに失敗していたら、とんでもないことになっていたと思っている。



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