経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




11/3/7(653号)
日本が貿易立国という誤解

  • データに基づく検証
    今週は、先週号での課題であった「日本は貿易立国であり、輸出が日本経済の命運を握っている」、「昔から日本経済は輸出によって経済成長を実現してきた」といったセリフがどれだけ正しいのか、実際のデータに基づき検証してみる。


    下記の数字のほとんどは内閣府の経済財政白書から採った。ただ57〜63年の古い輸出額と輸入額のデータがこれには掲載されていなかったので(他の数字は記載されている)、これらについては経済企画庁の年次世界経済報告の付属統計表の数字を使った。また64年、65年の数字が不明であることについては後段で触れる。

    まず輸出額と輸入額については、データの連続性について問題があることを承知している。また、今日、輸出額と輸入額についてはサービスの数字が加えられているが、古い時代ではそのような考えがなかったようである。

    もっとも他の数字も古いものは統計基準が68SNAであり、それ以降は93SNAである(ものによっては80年代は93SNAの基準で再集計されている)。このように数字の連続性についてやや問題はある。しかしこれからの説明には大きな支障はないと判断している。なお設備投資率は、設備投資のGDP比率のことである。

    貿易に関する経済数値の推移(単位:兆円、%)
    年(暦年)名目GDP名目成長率実質成長率輸出額輸入額純輸出額設備投資率
    5710.915.16.51.01.5▲0.515.4
    5811.56.27.31.01.1▲0.114.0
    5913.214.29.31.21.3▲0.114.9
    6016.021.313.31.51.6▲0.218.2
    6119.320.711.91.52.1▲0.620.2
    6221.913.48.61.82.0▲0.319.2
    6325.114.48.82.02.4▲0.518.1
    6430.017.511.218.3
    6532.911.35.715.7
    6638.216.210.23.42.70.815.8
    6744.717.211.13.73.30.417.8
    6853.018.411.94.63.70.918.7
    6962.217.512.05.64.31.320.2
    7073.317.910.36.85.41.421.0
    7180.710.14.48.25.52.719.0
    7292.414.78.48.55.82.717.5
    73112.521.88.09.88.81.018.5
    74134.219.1▲1.215.915.50.518.4
    75148.310.63.116.314.81.516.4
    76166.612.34.019.616.62.915.1
    77185.611.54.421.116.64.614.1
    78204.410.15.320.014.85.213.7
    88381.67.36.533.421.611.817.6
    98515.8▲1.1▲1.148.932.916.015.5
    01506.1▲1.1▲0.246.538.18.515.5



  • 日本の本当の姿は内需大国
    まず日本経済の高度成長期というものが一体どの時代を指すのかが議論の対象になる。以前は、60年の日米安保改定以降(所得倍増論の池田首相の登場)から64年の東京オリンピックまでが高度成長期であったいうのがほぼ定説であった。しかし時代が下って低成長が当り前になってからは、73年のオイルショックまでは高度成長期であったという意見が強くなったと筆者は感じる。

    筆者も少なくとも70年までは、日本経済は高度成長であったと考える。ただ成長パターンが64年以前と以降では変わったと見られる。もし高度成長期を二つに分けるなら、60年から64年までが前期であり、それ以降から73年までが後期と呼べるであろう。


    高度成長期の60年から64年までは本当に経済が成長していた時代である。今日の新興国以上の経済成長率を日本は実現していた。この期間の設備投資率は18〜20%程度を維持しており、これが乗数効果によって所得を増やし、総需要を拡大させた。またこの旺盛な設備投資が一方で生産力を産み、総需要の増大に対応した(投資の二面性)。つまりこの時代の日本経済は、供給サイドの成長理論がある程度適応できる形であった。

    しかしこの時代、輸出のGDP比率はずっと7〜9%であり、輸出が日本経済をリードしていたという印象は薄い。特に輸出額から輸入額を差し引いた純輸出額は毎年マイナスで推移していた。輸出は自生的であり独立的であるのに対して、輸入は所得の従属関数と言える。


    つまり爆発的に経済が成長しGDPが拡大したため、むしろ輸出以上に輸入が伸びていたのである。この時代の輸出品は水産物や繊維製品のような軽工業品が中心であった。一方、電機・自動車・機械・化学品・素材といった今日の主力輸出製品の国際競争力は弱かった。

    当時の円は360円の固定相場であったが、この360円という為替レートは日本にとって高すぎるレートであった。できるなら今日の中国のように円を1,000円くらいに切下げたいところであった。また純輸出額がマイナスということが示すように、この時代、日本は慢性的な外貨不足に泣いていた。首都高も3車線にしたかったが、金がなかったので2車線で建設した(オリンピックに間に合わせるため新幹線と首都高は世銀からの借金で建設)。

    したがって景気が良くなり輸入が増えると、緊縮財政と金融引締めを行って景気の過熱を冷ましていた。このように日本の高度経済成長期の前期においては「昔から日本経済は輸出によって経済成長を実現してきた」というセリフは全くあてはまらない。


    局面が変わったのは64年の東京オリンピック以降である。したがって肝心な64年と65年の輸出額、輸入額が見つけられないことが残念である。しかしこの辺りで日本の経済の体質が変化したことは確かであろう。また東京オリンピックを成功させ、日本の国際的評価も上がり、日本人は自信を取戻しつつあった。

    日本製品の国際競争力は向上した。筆者はこの背景に60〜64年の活発な設備投資(GDP比18〜20%)があったと見ている。投資によって世界の最先端の設備が導入されたのである。またオリンピックの翌年からの不況(この年株価が大暴落し山一証券の破綻の瀬戸際で日銀特融が実施された)が輸出を促進させたと考える。


    次は「日本は貿易立国であり、輸出が日本経済の命運を握っている」というセリフを検証する。たしかに東京オリンピックを境に、輸出はある程度伸び、貿易収支は黒字化した。しかし輸出のGDP比率はだいたい7〜9%である。上記の表で10%を少し超えたのは71年と74〜77年ぐらいである(昔から設備投資のGDP比率の方がずっと大きくまた変動も大きい)。

    日本の輸出が伸びるのは、決まって日本の景気が後退した時である。71年にはニクソンショックがあり、74〜77年はオイルショックと日本列島改造ブームの崩壊による景気低迷が続いた。またこれらの前にもGDP比18〜20%といった大きな設備投資ブームがあった。つまり過剰な設備投資の余剰生産物のはけ口が輸出であった。そしてこれらの年はおしなべて経済成長率は小さい。つまり輸出は日本経済の下支えになっているが、経済を牽引しているということはない。

    また常に無視されているのが、日本の輸出のGDP比率が韓国や中国に比べずっと小さいという事実である。中国の比率は25%ぐらいであり、韓国にいたっては35〜50%と言われている。これらの国が本当の貿易立国である。日本は加工貿易国であり貿易黒字国であるが、決して貿易立国ではない。むしろ日本の本当の姿は米国に次ぐ内需大国である。何も知らないマスコミ人や政治家、そしてデータを見ようとしないエコノミストや経済学者がとんだ誤解をしているのである。



今週示した表は色々と有益である。来週は、この表の形を少し変え、世の中にはびこる虚言・妄言を切ってみる。



11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー