経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/2/28(652号)
日本は本当に貿易立国?

  • 90%以上の人々の常識
    今週は、当り前と考えられているセリフのいくつが、はたして正しいのかを検証する。最近、筆者が気になるのが「日本は貿易立国であり、輸出が日本経済の命運を握っている」、「昔から日本経済は輸出によって経済成長を実現してきた」という話である。おそらく90%以上の人々はこれらが常識と思っているであろう。

    筆者に言わせれば、これらのセリフが全くのデマではないので、完全に否定しきることができないところがむしろ問題と感じる(説明に手間取る)。たしかに今日でも、輸出が増え当座の景気が良くなることを筆者は否定しない。しかしこれらの表現が少なからず人々に誤解を与えているのも事実である。


    特に後者「昔から日本経済は輸出によって経済成長を実現してきた」というセリフは問題である。日本の経済が大きく成長したのは、1950年代から第一次オイルショックの73年までである。しかしこの時代は、輸出だけでなく公共投資や設備投資が大きく伸びている。

    特に設備投資の増大は、乗数効果を通し国民の所得を増やし消費を拡大させた。第二次世界大戦で生産設備が壊滅した日本で、経済復興と共に設備投資が爆発的に増えたのは自然の成行きであった。そして日本の高度経済成長を実現させたものはこのような内需であった。実際、高度経済成長期の日本経済の輸出依存度は戦前よりずっと小さかった。

    つまり輸出だけが日本経済を牽引したとも受取られるような、これらの表現は誤解を生むと筆者は言いたい。そこで来週はこの時代のGDP、輸出額、輸入額そして経済成長率の関係を示し、日本の高度経済成長期を客観的に眺めたい。そして決して日本が輸出依存で高度経済成長を実現したとは言えないことを示したい。


    どうしたことか、最近、マスコミだけでなく政府がインフラ輸出や外国人観光客誘致(外国人観光客の日本国内消費は実質的に輸出と同様に外需)に異常に熱心である。菅首相などは、昨年、中国人観光客へのビザ発給の制限を緩和したことに関して「財政支出を拡大せずとも、頭を使ったこのような政策によって経済成長が可能という例だ」と胸を張っていた。筆者は「なんて無知で愚かな政治家」と思ったが。

    これに関連し、怪しい経済評論家が、もっと外国人観光客を呼込むため受け入れ体制を整備すべきと主張している。例えば公共施設などの案内表示を英語だけでなく、もっと中国語やハングル文字での表記を増やすべきと主張していた。筆者は、民間の商店などが中国語やハングル文字での表記を行うことは自由であり勝手だと思うが、基本的に公共施設は日本語と英語だけで十分と考える。


    中国と韓国は英語教育に熱心な国である。中国の大学の講義はほとんど英語で行われているという話があるほどである。また韓国は日本と比べようもないほど英語教育が盛んであり、英語ができないとまともな就職先がない。

    また中国人(中国の有力政治家の子弟の多くが米国に留学)と韓国人の米国への留学生は激増している。一方、日本人の米国留学生は激減していて、米国での日本人留学生の存在はほとんどなくなっている。このような中国と韓国の英語事情を考えれば、いくら観光客目当といえ日本国内の公共施設における中国語やハングル文字の表記は全く不要である。

    むしろ日本中にこのような不要な表記が溢れている最近の傾向を怪訝に思っている人々もいる。筆者もその一人である。何故、中国と韓国の観光客だけに媚びる必要があるのであろうか。まるで日本が中国と韓国の植民地になったような気分である。


  • TPPは軍事同盟?
    筆者は、今日の世界の経済の仕組みを考えると輸出依存による継続的な経済成長はどの国にとっても無理と考える。短期的に輸出増加によってGDPが増えることは事実であるが、長期的には必ず反動がある。これは為替が変動するからである。

    昔のように固定相場制の時代(もちろん1ドルが360円であった時代を含め)なら、輸出をどんどん増やすことによってGDPをどれだけでも伸ばすことができた。この説明のため01/10/15(第226号)「カルロス・ゴーンと上杉鷹山」で上杉鷹山の米沢藩を取上げた。米沢藩は緊縮財政を実施しても藩の生産物を他の藩に売ることによって経済的に潤うことができた。このように米沢藩が財政の立直しと経済成長を同時に達成できたのは(現実的には近隣窮乏政策)、上杉鷹山の時代が実質的に固定相場制であったからである。


    変動相場制においては、通常、貿易収支黒字国の通貨は高くなる。この通貨高を防ぐには為替相場への介入がある。変動相場制への移行後、日本は円高阻止のためのこの為替介入を頻繁に行ってきた。特に小泉政権時代には35兆円といった常軌を逸した為替介入を行った。これは緊縮財政を行っても、経済成長が可能といった作り話を実現することが目的であったと筆者は捉えている(当時の財務大臣は塩川氏)。筆者は、そのような金があるのなら、そっくり財政支出に回し経済成長を図るべきとずっと主張してきた(失業が減り税収が増える)。

    しかしこのような為替介入は各国から批難を浴びるようになった。貿易収支や経常収支が黒字の国の通貨が高くなるのは自然の成行きであり、これも経済の調整メカニズムである。為替介入は、この経済の調整機能を阻害することになる。世界もようやくこの事に気が付き、為替介入への視線が厳しくなった。


    もし為替が交易状況を反映して自由に動くなら、極端な貿易黒字国や経常収支黒字国が生まれないのである。つまり、本来、交易はゼロサムゲームの要素がある。この機能を壊すのが為替介入である(ただし筆者は異常事態における為替介入までは否定しない)。

    為替介入によって異常な人民元安を維持している中国に批難が集まるのは当然である。むしろこの種の批難が今頃になってようやく起ってきたことが不思議である。また中国は、有り余る外貨を使って、世界中から資源を買い漁り、不動産の取得にも熱心である。


    どれだけ世界から批難を受けようと為替介入を止めない中国のような国になれない日本(厚顔な中国と世間体を気にする日本)が、これ以上外需に依存するような政策を進めるとは考えられないことである。ところが世間ではいまだに「輸出や外国人観光客誘致で景気回復を」という声が溢れている。TPPの賛同者にもそのような人々が多い。

    筆者は、TPPを自由貿易の枠組みだけでは捉えていない。ゆくゆくはTPPが軍事同盟的な要素が強くなると予想している。もしそのような兆しが見えるようになれば、日本もTPPに加入すれば良い。もちろん農業などを犠牲にしない形での加入である。もっとも軍事同盟ならば、一国の特定の産業の犠牲を強いることもないと思われる。



来週は今週の話をデータを用いて解析する。



11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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