経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/2/14(650号)
TPPに関する推理

  • 米国の本心
    今週は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に関連した事項を取上げることにする。そもそもここに来て急にTPPが注目を集めたのは、菅首相が今年の6月までに日本の参加の意志を固めると言い出したからである。しかし国民の多くは、このTPPの中身や実態についてよく知らない。

    このよく分らない協定に参加しようというのだから尋常ではない。ましてや菅政権が6月まで持つのかさえ不明である。もしTPP参加というものが重大な決断ならば、そんな弱体で国民の支持のない菅政権が推進することに問題がある。


    TPPは、現在、シンガポール、ブネネイ、チリ、ニュージランドという4ヶ国で構成されている。いずれも経済的に小国であり、また互いの経済の繋がりはほとんどなく、協定の実態はない。少なくともこれまでは不可解な協定であった。しかし米国やオーストラリアそしてマレーシア、ぺルー、ベトナムの5ヶ国がこれに参加の意志を表明し、今年のAPECまでに妥結と結論を得ることを目標にした。米国が参加するということでTPPは俄然存在意義が高まった。

    もし日本が参加するとなれば、日本と米国のGDPの合計は参加国全体の91%を占めることになる。つまり日本のTPPへの参加は、事実上、日本と米国のFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の締結ということになる。日本国内は、この種の協定でよく見られるように賛成派と反対派に別れている。


    賛成派は、協定作りの最初から参加することによって、日本にとって有利な協定の枠組みができると主張する。一見、もっともらしい話である。しかし一体国内の誰にとって有利なのか賛成派は明確にしようとしない。

    一方、反対派は、国際的な価格競争力に乏しい農産物の生産に頼る地方が中心になっている。話が具体的であり、反対行動が先鋭化しやすい。今後、TPP参加国が増えるにつれ、影響の大きさが明らかになると考える。例えばメキシコが参加し仮に豚肉の関税がゼロとなれば、日本の養豚業は壊滅的な打撃を受けると思われる。また反対派には、やや観念的であるがTPP参加は、関税自主権の放棄という意見もある。

    このように賛成、反対の意見があるが、どれだけTPPの内容を理解しての主張か疑問な点もある。ただ後ほど述べるが、特に賛成派の軽薄さが気になる。正直に言って、筆者自身は賛否の判断をしかねている。仮に賛成するにしても、養豚業者や沖縄のサトウキビ農家が壊滅することがないような条件が整う必要があると考える。少なくとも今日のような曖昧な状態で、話だけが進んで行くことは危険である。


    筆者が、日本のTPP参加の賛否に迷っているのは、協定そのものの内容が分りにくいだけでなく、米国の本心を計りかねているからである。もし仮に米国のTPPへの積極的な関与が、オバマ大統領個人の思い込みによるものならば、TPP騒動は「カラ騒ぎ」だったということになりかねない。反対に米国が本気としたなら、裏にかなり戦略的な意図があると感じられる。

    ここからは筆者の推理を元に話を進めることにする。まずTPPのスタートがほとんど意味のない4ヶ国であったのも、米国の意向が陰にあったと思われるのである(米国がリードする形をあえて隠した)。しかもその4ヶ国の中には、それほど乗り気ではないニュージランドが含まれている。しかしこの米国の戦略的な意図というものは、今のところあまり報道されていないし話題にもなっていない。

    いつものように「GDPに占める比率が極めて小さい農業に日本経済が足を引張られている」といった薄っぺらな農業叩きの議論ばかりである。もし筆者の推理が正しく、TPPが米国の戦略なら、日本の参加はほぼ必須と考えられる。したがってTPP参加に関しては、日本の要求をかなり飲むものと筆者は考える(つまり反対派は今のうちに大いに騒いでいた方が加入条件が有利になる)。


  • 排除の対象国
    仮にTPPが米国の戦略としても、その輪郭はまだはっきりしていない。ただ想定している参加国はほぼ決まっているのではないかと思われる。ただ不思議なことに昨年カナダが参加を打診したが、酪農などの市場開放が十分ではないという理不尽な理由で断られている。しかしカナダは米国とFTA(自由貿易協定)を結んでいるような国であり、TPP加入を断られるなんて普通考えられないのである。

    筆者は、カナダに関しては順番が違ったからと見ている。やはり主導権を握りたい米国が先であり、FTA国のカナダとメキシコの加入はその次という話だったのであろう。つまりこれについては米国の意向が働いたと筆者は感じている。


    韓国はTPPに興味を示している。しかし韓国は最近米国とのFTAを締結したので、それほどTPP加入を必要としていない。また米国とのFTAで国内が揉めたので、これ以上の混乱は好まないと考える。もし韓国の態度が変わるとするなら、日本のTPP加入が具体的になった時であろう。

    問題は中国である。中国も当初TPPに関心を示し、色々と情報を収集したが、結果的に参加しないことを明らかにしている。筆者は、ここがTPPの一番のポイントと見ている。筆者は、TPPはどの国が参加するかではなく、どの国を排除するかが重要と見ている。

    排除の対象はもちろん中国である。TPPは、関税の撤廃に加え様々な交易条件の調整を目指している。しかし中国がとてもクリアーできない事項がいくつか設定されている。例えば「技術の特許、商標などの知的財産」や「環境規制の調整」などである。筆者に言わせれば、これらは中国の加入を阻止するための意図的に潜り込ませた項目と見られる。


    中国は、WTO加盟後、急速に輸出を伸ばし、国力を付けた。そもそもWTO加盟に際して、中国は警戒され、色々な付帯条件がついた。例えば中国の急激な輸出増加には、輸入国側にセーフガードの設定が認められた。しかし中国によるダンピングまがいの輸出が、今でもしばしば米国で問題になっている。また環境無視の開発で、レアアースの生産で世界的な独占的地位を築いたりしている。

    異常な人民元安も一向に是正される気配がない。中国は、日々の通貨管理目標をほんの少し高くしたり、米国から航空機を購入すると言った政策で、人民元安を誤魔化している。このように国際協調というものを全く顧みない中国を、世界はWTOという自由貿易の枠組みに取込んだのである。しかしようやくこの間違いに世界は気付き始めた。


    筆者は、TPPを中国を牽制するための一つのカードと理解している。また中国もTPPが中国を封じ込める枠組みと気付き、不参加を言明したと推理される。今、筆者は、どのような国が次にTPP参加を表明するのか注視している。

    筆者が特に注目するのは、中国との関係が深い台湾とインドネシアである。もしTPPというものが筆者が推理するものであるなら、当然、中国は加入予定国に圧力を掛けるものと思われる。これまでTPPの準加盟国であったベトナムが、最近、トーンダウンしているという話である。何となく中国の影を感じる。


    もちろん筆者の推理が間違っていることも有りうる。その場合にはTPPは、頭がおかしいグローバリズムの信奉者達の単なる思い付きの産物ということになる。しかしその場合には、日本にとって、TPPは全く参加する価値がないものになる。ただでさえ日頃から筆者は、日本の他国に依存しない国造りを主張してきたほどである。







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