経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/2/7(649号)
菅首相の消費税増税

  • 消費税増税と行財政改革
    菅首相は消費税増税に異常な情熱を燃やしている。建前は、社会保障の財源を確保するということになっている。しかし狙いは多分に、同じ消費税増税を唱える自民党との連携による政権延命と見られる。

    一方、現在の自民党の幹部のほとんどは、小泉政権の時に重用された者ばかりで、基本的には財政再建派であり構造改革派である。自民党で過去の主流派であった積極財政派は、郵政選挙で自民党を追われたか、あるいは現在の自民党では陰に隠れた存在になっている。このように温度差はあるが、かなりの政治家は消費税増税を当然のことと考えている。


    消費税に関して大手マスコミの論調は、程度の差はあるが基本的に増税に賛同している。ただし国民の反発を意識し、増税には賛成であるがその前に無駄な歳出の徹底的な削減、つまり行財政改革を実施することを唱えている。仮に消費税増税で時の政権が潰れても、マスコミに批難が及ばないよう保険を掛けているのである。「やはり消費税増税の前に徹底した行財政改革が必要だった」と逃げ口上を用意をしているのだ。


    経済学者は、消費税増税に対してあまり発言をしていない。そもそも多くの経済学者の主な研究対象は過去の経済学説であり、現実の経済に関心が薄い。また若手の経済学者の多くは、新古典派の中でもニュークラシカルの学説に洗脳されていて、いまだに構造改革を唱えている。

    金融機関系のシンクタンクのエコノミストのほとんどはマスコミと同じ論調の発言をしている。もっともマスコミの論調に合わないエコノミストは、徐々にマスコミに登場しなくなる。この結果、経済学者やエコノミストは、ほとんどが御用学者である財政学者が主張するような、財政破綻を前提にしたような意見になる。


    今日の財界は消費税増税に極めて前向きである。特に経済同友会は、税率を17%にする必要があるとかなり具体的である。昔の財界は不景気になると財政出動を要求したものであり、考えが分りやすかった。しかし今日の財界の主張は、様変わりし異様である。

    筆者は、財界の変質の原因の一つを、財界の事務局が一頃はやった新保守主義や新自由主義に染まった者で固められているからと見ている。またもう一つの原因としては、やはり土光会長の行財政改革と財政再建の路線が世間で受けたことが挙げられる。

    土光氏の財界人らしからぬ清貧の生活態度や誠実そうなキャラクターが人々に好感を与えた。しかし土光会長がマクロ経済に理解があったわけではない。また消費税導入を目論む政府には、まず行財政改革をやって国民をなだめ、消費税の導入をするというシナリオがあった。彼はこのシナリオの実現にうってつけの登場人物であった。


    このように世を上げて、消費税増税は止むなしという「空気」が作られている。新聞社がアンケートを採れば、半数を少し上回る人々が消費税増税に賛成している。菅首相の消費税増税はこのようなアンケート結果を頼りにしている面がある。

    しかし消費税増税と行財政改革が実施されれば、間違いなく有効需要が大幅に減少し、ただでさえデフレ経済の日本は地獄を見ることになる。しかしこのことを誰も言い出さないのが不思議である。また財政再建と言えばいつも消費税増税や行財政改革ばかりで、他に良い方法はないのか何故考えないのであろうか。


  • 常軌を逸した政策
    菅首相は、増税した分をそっくり社会保障費として財政支出すれば、経済が成長すると信じ切っている。これについては10/6/21(第620号)「菅首相の想定」で理論的に解説した。たしかに増税分をそっくり財政支出すれば、ホーベルモ効果によって多少GDPは伸びることが考えられる。

    ただしこれは所得税増税と財政支出増加の組合せの場合の話である。所得税の増税によって貯蓄に回る部分を税金として吸い上げ、それをそっくり官需(財政支出)とすればその分有効需要が増えるからである。貯蓄率の高い高額所得者に対する所得税率を大きくする累進課税制度も、この経済理論を根拠にしている面がある。


    しかし問題は消費税増税と財政支出増加の組合せである。前述の10/6/21(第620号)「菅首相の想定」で、筆者は消費税増税は、所得税増税の場合と異なり、有効需要増加の効果に疑問を呈した。消費税の増税は逆進性が強く、全体ではむしろ有効需要を減らす可能性がある。

    これに対して、増税によって社会保障制度が確固たるものになれば、人々は安心をして貯蓄を消費に回すようになるという反論が有りそうである。しかし人々はそんなに今日の政府を信用しているとは思われない。せいぜい増税分は財政再建に使われてしまうと踏んでいる。

    それならば消費税増税分を社会保障の目的税にすれば良いという意見が出そうである。しかしこれについてもこれによって現行の社会保障費の方をその分減額する可能性がある。とにかくこれまで社会保障費の削減に熱心だったガチガチの財政再建派の政治家連中が、急に増税によって安心できる社会保障制度と言っているのだから誰も信用しないのである。


    本誌は日本経済と財政の再建のシナリオを05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」で示した。この時には消費税を7%増税した場合を想定し、これによって物価が5%程度上昇すると試算した。この物価上昇による国民の負担は確実なものである。

    それならば「物価が5%程度上昇するまでセイニア−リッジによる財政支出増大政策を行え」というのが筆者の主張である。もちろん財政支出は社会保障関連でも良い。ところで05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」では、公的年金の積立金を担保にした国債を発行し、日銀がこれを購入する方法を提案した。しかしもちろん政府貨幣(紙幣)発行や永久債の日銀引受けを財源にした、財政支出増大でもかまわない。


    5%程度の物価上昇と言っても、これには相当の財政支出の増大が必要である。80年代のバブル景気の最盛期にさえも消費者物価は3%しか上昇しなかった。それほど日本のデフレギャップは大きいのである。

    そもそも日本人の消費構造が変化していて、需要が増えることによって価格がむしろ下落する物の消費割合が大きくなっている。典型的なのは通信費や情報機器である。需要が増えれば、即、ハイパーインフレが起ると主張するのは、現実の経済を全く知らないシカゴボーイ(シカゴ学派)と、その影響を受けている間抜けな日本の経済学者・エコノミスト達である。実際、今日、日本の物価動向に一番影響を与えているのは、日本の経済政策とほぼ関係のない海外の一次産品の価格の動きと為替である。


    一方、消費税の増税では、一旦消費者の購買力が国に移転することになる。もし消費税増税で得られた財源が直に財政支出されない場合や、財政支出の方が小さい場合は確実に景気が悪化する。ただでさえデフレ経済から脱却できない日本での、消費税増税は常軌を逸した政策である。

    デフレ経済下での消費税増税では、競争力のない企業の中には価格転嫁できないところが出てくると考えられる。また大企業が、下請企業の価格転嫁を十分に認めないことが考えられる。つまり下請企業が泣きを見るような暗い時代が来ようとしているのである。

    本誌は、同じ物価上昇ならセイニア−リッジ政策による経済拡大政策で実現すべきと主張してきた。しかしこのような考えがなかなか浸透しないところが残念である。



来週は、TPPを考える場合の前提条件について話をしたい。



11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
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09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
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09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
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09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
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