経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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11/1/17(646号)
永久債の日銀引受け

  • セイニア−リッジ政策への理解
    毎年、どういう訳かこの時期になるとマスコミは財政危機キャンペーンを行う。今年も日本の公的債務の累積額がGDPの2倍にもなったと騒いでいる。本誌は、昨年もこれに対して10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」から10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」にかけ反論を行った。

    また本誌の読者ならご承知であろうが、長年、筆者は政府貨幣(政府紙幣)発行や日銀による国債の購入といったセイニア−リッジ(発音はシーニョアリッジが近いようだ)政策の実施を主張してきた。セイニア−リッジ政策論議は、2年前のように一時的に盛上がりを見せることがあるが、なかなか国民の間には浸透しない。しかし経済の知識を持つ者の間では、いずれこれを実施せざるを得ないと覚悟する者が増えていると筆者は見ている。


    実際、動きが機敏で目敏い経済学者やエコノミストの中には、何らかの形でセイニア−リッジ政策に賛意を示している者が何人もいる。彼等は、日頃、構造改革的な発言を行いながら、一方で政府紙幣の解説を行ったり、政府紙幣発行論者の著書に推薦文を書いたりしている。世の中がどちらに動いてもかまわないようなスタンスでいるのである。

    今日の日本経済の状況を考えれば、頭からセイニア−リッジ政策を否定する者は、経済に対する認識が乏しいか、頭がおかしいか、あるいはこれまでいい加減なこと(例えば構造改革で日本経済は成長するといった大嘘)を言ってきた事が明らさまになることを怖れているのである。彼等は、セイニア−リッジ政策によって、ハイパーインフレや円の暴落が起ると、必死になってこの政策を否定する。

    中には「日本はそこまで落ちぶれていない」といったような意味不明なことを言って誤魔化す経済学者もいる。このような経済学者やエコノミストは、本当のところ国民経済といったものに興味がなく、自分達の経済(あるいは立場)にしか関心がないのである。

    そもそもどのような政府紙幣発行論者も、政府紙幣の無制限の発行なんて主張していない。政府紙幣発行を行っていて不都合な事、例えば景気が過熱(景気の過熱という言葉自体がなつかしい)して想定以上に物価の上昇が起った場合には、政府紙幣発行を抑えれば良いと思っている。具体的にはインフレターゲットの導入が考えられる。そしてこのインフレターゲット政策は、物価が上昇する状況になってこそ、初めて意味を持つ。


    しかしいきなりの政府紙幣発行には抵抗が大き過ぎることは筆者も承知している。だいたい政府紙幣に関する知識が浸透していない。政府紙幣発行に賛同する政治家でさえ、流通紙幣が二種類になると実行面の不都合を危惧しているほどである。

    ただしこれに関しては発行した政府紙幣を日銀に政府の口座(国庫)に入金し、出金する時には日銀券を使うという方法がある。これなら市中に流通する紙幣が二種類になることはない。また日銀は政府紙幣による入金を拒否できないはずである。実際、政府貨幣である現行のコイン(500円玉や100円玉など)の入金を無制限に認めているのである。


    セイニア−リッジでは、政府貨幣(紙幣)発行より、日銀による国債購入の方がずっと理解されやすい。まず戦前の大恐慌では高橋是清がこれを実施し成功している。実際、今日、日銀は国債の買い切りオペを実施し、買い切りオペ残高は70兆円程度になっている。実質的にこの70兆円は広義のセイニア−リッジであり、また日銀が買い切っているこの国債については、国にとって実質的な金利負担はない。


  • 政治家が責任を持つこと
    自分達の嘘がバレることを警戒する構造改革派や財政再建原理主義者は、セイニア−リッジ政策が実施されることに猛反対である。これらの人々は、セイニア−リッジ政策を揶揄して「マネタイゼーション」とか「ヘリコプターマネー」と呼んだりする。これは聞いている一般の人々に、セイニア−リッジ政策がいかにも道徳に反しモラルハザードを生むかという悪い印象を与えることが目的である。

    しかし先週号まで述べてきたように、日本の場合(ほとんどの先進国は同じであるが)、経済を再生するには政府支出の大きな増大しかない。ところがこの政府支出の増大には、常に財源の問題がつきまとう。実際のところは、政府支出の増大に反対する勢力がことさら財源を問題にするのである。したがってセイニア−リッジ政策を実現するには、どうしてもこれをもっと理解されるよう分りやすい形で説明する必要があると感じる。


    そこで本誌は、永久債の日銀による引受け(購入)を提案したい。国債は、償還期間が10年だけでなく、5年や3年と短いものや20年、30年、40年といった長いものがある。しかし償還期間を定めない永久債の発行も可能なはずである(もし法的に永久債の発行が認められていないなら法律の改正が必要)。

    永久債なんて非現実的という声が出そうであるが、英国はコンソル債という永久債を発行している。ケインズ経済学は、このコンソル債の利回りを「金利」と想定してモデルを構築しているくらいである。しかし政府の財政再建原理主義者に迎合する日本の財政学者は、このような永久債の存在を隠そうとしている。


    筆者のアイディアは、日本政府が発行した永久債を日銀が購入し、これを財源にして財政政策を行うことである。発行した国債は子々孫々の借金になると言われるが、永久債なら借金であるが償還の必要がない。

    ところで国と日銀の関係は、国が親会社で日銀が子会社ということになる。永久債は子会社である日銀に対する国の債務になる。一方、日銀にとって購入した永久債は、親会社である国に対する債権である。ところが連結決算をすれば、親会社と子会社の債権・債務である永久債は相殺され無きものになる。

    また政府から日銀に利払い(クーポンの現金化)が定期的にが行われ、これが日銀の収入になる。しかし日銀の収入は最終的に国庫に納められる。つまり国が払った利息はいずれ国の収入として戻ってくるのである。ただし今のルールでは、利息収入の一部は日銀の準備金に積立てられる。しかしこれも実質的には日本政府のものであり、いわゆる埋蔵金と呼ばれるものになる。


    利息がそっくり国に戻ってくるのであるから、永久債の発行利回りはいくらでも良い。発行額は日本の経済が立直るために必要な額である。少なくとも新卒の高校生や大学生が就職できるような程度に経済を活性化させる必要がある。

    若者は就職することによって実践的で高度な知識を習得でき、これによって日本の将来も安泰ということになる。ろくな就職口がない今日の経済状況を放置しておきながら、国債発行は子々孫々の負担なるとばかげた事を言っている者達は完全に頭がおかしい。


    永久債を発行し一旦市中に流通させたものを日銀が買い切る方法も考えられる。しかし筆者は、日銀が永久債を直接引受ける方が良いと思っている。ただしこれには財政法の制限があり、国会の議決が必要になる。

    そもそもデフレ経済の克服には政治家が責任を持つことが必要と筆者はずっと考えてきた。したがって国会議決を伴う直接引受けの方が好ましい。いつも日銀や官僚にまかせるのではなく、政治家が主体となって行動すべきである。ところが情けないことに菅首相は、増税のための布陣を敷いたり、トンデモ本を買って読んでいるのである。



来週号は「永久債の日銀引受け政策」に到った背景について述べる。



11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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