- 景気対策の評価
総合経済対策16兆円が政府の景気対策として決定した。これに対して、対策が事前の予想より大きくなっているにもかかわらず、株式市場が反応しないように、一般の評価は必ずしも高くない。特に景気対策として「減税」を主張してきたマスコミや、それに同調するエコノミストには評判は悪いようである。諸外国からの反応は、米国政府やOECDの評価が高いのに対して、米国議会やマスコミの評価が厳しい状況である。たしかに3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」で述べたように日米の経済の構造や消費の水準の違いによって、有効な需要創出方法に相違があり、日本では有効な対策について直ぐに理解されにくいことは承知している。しかし、この対策が決定されるまで、諸外国の政府やIMFなどの国際機関から景気対策として「減税」の要求がものすごく強かった。はっきり言うが、これらの人々が日本経済の実情をどこまで理解しているか疑問である。あまりの「減税要求」に、自民党幹部は「諸外国から景気対策を求められるのは理解できるが、具体的な対策については日本政府にまかせてもらいたい」と発言していたが、これはもっともなことである。それにしても、諸外国からの「減税要求」の要求が強いが、筆者は、これは日本のマスコミの論調がそのまま海外に伝えられ、ブーメランのように日本に戻ってきているからと考えている。外国の報道機関から意見を求められたエコノミストもいたかもしれないが、マスコミに登場するエコノミストのほとんどは残念ながらマスコミの論調に迎合していると受け取られてもしょうがないと考えている。実際、マスコミに登場して、例外的な意見を主張しているのはリチャードクー氏や金森久雄氏などほんの数名である。つまり日本人の全てが、「減税」こそが景気対策として一番有効と考えていると誤解されているのであ。したがってこれらの人々には日本の実情を説明するほかはないであろう。 ところで一番「減税」にこだわり、依然「恒久減税」を要求しているのは米国の議会である。先日の上院の公聴会でも「公共投資中心の景気対策」が非難され、日本に「恒久減税」を要求する意見が集中した。ここで米国の議会の特徴を考えたい。日本のように原則として国会議員が内閣を構成する内閣議員制と違い、米国の議会は政府からの独立性が非常に強い。歴史的に議会は、個人の行動が政府から干渉されることを防ぐことを努めとしている。経済の分野では、この延長線でどうしても「小さい政府」が指向される。このように米国の政治の歴史は政府と議会の緊張関係の歴史とも言える。したがって政府と議会が一つの問題で考えが異なることはごく普通のことであり、日本の景気対策に対する見解が政府と議会で違うことは十分有り得る。つまり一言で「米国の日本の景気対策に対する評価」と言っても、それが政府の評価なのか、議会の意見なのかをはっきりさせることが大事なのである。また政府や議会の両者とも、日本の細かい経済の事情についてそれほど正確な知識を持ち合わせているとは思われない。特に米国は納税者の意識の強い国であり、議会もその納税者の代表と言う立場もあり、減税へのこだわりが強いことを認識しておく必要がある。 日本の景気対策に関する米国の公聴会の様子がテレビニュースで伝えられていたが、参考人としてであろうが一人の日本人が証言していた。筆者が見間違うことがないなら、驚いたことにそれはある経済研究所のエコノミストである。日本において「小さな政府」を指向する者にも幅があるが、彼はその中でも一番極端で、極めてエキセントリックな意見の持ち主と筆者は考えている。3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」で述べたように、筆者は日本の「小さな政府論」は一種の宗教と考えている。さしずめ彼はその狂信派と言えるであろう。このことについては機会があればまた述べたいが、このような「小さな政府論」を主張するエコノミストと米国議会との結び付きには興味が持たれる。米国民は消費にとにかく積極的であり、レーガン時代に投資を活発にするため大幅な減税を行なったところ、そのほとんどが消費に回ったほどである。また米国では、個人の政治献金が活発なだけでなく、金持ちはあらゆる施設に寄付を行なうことが義務と考えている。つまり日米間には消費や税金の背景に大きな風土の違いがあるのである。この理解がなく、単純に米国流の「小さな政府」的経済政策を採用するととんでもないことになるのである。自民党の幹部や政府の閣僚が今回の総合経済対策の説明に渡米したが、これは大事なことである。特に議会に説明し、日米の置かれている事情の違いを明確にすることが重要と考える。
- 筆者の景気対策の考え
総合経済対策16兆円の経済効果については、各シンクタンクなどからシュミレーションの結果が公表されている。政府は、これで今年度の目標経済成長率の1.9パーセントをクリアーできるとしているが、民間はそれは無理で1パーセントがせいぜいと予想している。為替などの推移をどう予想するかによって計算結果は異なってくると考えられるが、急速な景気回復を予想する見方はほとんどない。残念ながら筆者には、シュミレーションなど行なって、経済成長率の予想するような術はなく、これらのシンクタンクの予想を参考にする他はない。 ただ、今回の不況の深刻さは理解しているつもりであり、前回の「円高不況」より環境がより悪化していると思われる。これについては3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」で述べた通りであり、その要因となる項目を列挙すれば次のようになる。
- アジアの経済の混乱
- 金融機関の貸し渋り
- 地方の公共投資の削減
- 住宅投資の減少
これらにさらに簡単な説明を加える。当時、つまり94年頃はアジアの経済は好調で、まさに発展途上にあり、また当時は円の為替レートがかなり円高の水準にあり、円安になる余地があった。実際、それ以降円安となり輸出増加の恩恵が受けられた。金融機関の貸し渋りも顕在化しておらず、金融不安の度合も現在よりも小さかった。当時は財政再建問題も今ほど重要視されてはおらず、地方も円高による不況に対する認識を共通に持ち、国の景気対策に協力的であった。住宅に対しても潜在的な需要が残っており、それ以降の住宅着工の実績も94年度156万戸、95年度148万戸、96年度163万戸と現在より年間で15万戸から30万戸も多かったのである。 このように今回の不況をめぐる環境は「円高不況」時より悪く、今回の不況対策額が今までの最高額と言えど、景気のこれ以上の下落にストップをかけるのがせいぜいと考えている。今後の景気対策の効果を考える場合には公共投資の乗数効果が問題となる。この値が少しずつ小さくなっていることを筆者も認める。さらに今回の景気対策による需要のうち、以前より大きい部分が海外に流れる可能性がある。具体的には公共工事に伴う建設資材や素材に対する需要である。この点については今後の為替の動向が問題となってくる。 しかし、筆者は、今後の景気動向に悲観はしていない。今回の景気対策は十分ではないが、政府や自民党が経済へのスタンスをはっきり変更しているからである。総合経済対策の大半は今年度の補正予算として具体化されるが、これで不十分なら第2次補正予算と言うことになろう。4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」で述べたような「消費の限界」の存在も考えられ、以前のような景気対策にすぐに反応した自立的なV字型の回復は無理であり、今後、第2次補正予算による追加景気対策が必至と考えている。
読者から外貨預金に係わる税務についてご質問を受けている。金融ビックバンに伴い、外貨建て金融商品への関心も大きくなっていると思われる。これについては後日、本誌で取り上げたい。ただ、ご質問の中に「外国で預けた外貨預金の税率が65パーセントになると言う話」の真偽があり、これに対しては「一部は正しい」と回答するほかはないと考えている。日本国内の居住者が外国の銀行に預けて利息として収入を得た場合には、それは総合課税の対象になる。ただし、外国において「申告納税」で納めた税額を総納税額から差し引いてくれる。つまり所得が最高税率に達している人が外国の銀行に預けて利息を得た場合には外国と国内で納める税金の合計が65パーセントになることはありうることなのである。このあたりについては本誌でも一年ほど前に6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」で述べたので参考にしていただきたい。
|