経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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10/10/25(636号)
人民元安容認の経緯

  • 騙されやすい人のリスト
    5年前を彷佛させるような反日デモが中国で起っている。デモは週末に行われることが多いので、先週号で取上げるのに間に合わなかった。今後、この動きが激しくなるのか、あるいは収束に向かうのかを見極めるにはもう少し様子を見る必要がある。

    筆者は、中国人の根強い嫌日感情を考えると、今回のような事態がいつ起っても不思議はないと主張してきた。ところがデモは全て官製であり、一般の中国民衆は決して反日ではないという専門家の意見がある。また官製デモに便乗して、日頃からの中国政府への不満を持つ人々が、不満を発散させているという説もある。つまりこれらは日本人にとって中国が決して危険な国ではないと言いたいのであろう。しかしこれは苦しい弁明である。


    以前から筆者は、公然と反日教育を行っている国とは友好関係は結べないと主張してきた。対中国に関しては、この当り前の事が通用しないことが不思議であるとずっと思っていた。中国に関わることでよほど大きなメリットを受けられる人々がいるのか(大したメリットないのに大きな利益を得られると錯覚させられている人々が多い)、あるいは何かで脅されている要人が多いのであろう(元首相ださえ中国のハニートラップに引っかかていたと言われている)。

    江沢民国家主席によって愛国教育という名の反日教育が始まったのは、92年の天皇訪中の直後からである。日本国内の大きな反対を押切って天皇訪中を実現させたのは、親中派の政治家と外務官僚、そして中国進出を企む大企業であった。

    89年の天安門事件をきっかけに、中国は先進各国から制裁を受けていた(このため先進各国の資本は中国を避け東南アジアに流れた)。この現状を打破することが中国の天皇招請の目的であり、またこの頃から欧米の対中制裁が腰砕けになって行った。しかし天皇訪中直後の反日教育開始に見られるように、見事に日本は中国に裏切られていたのである。日本人は遅くともこの時点で、中国、そして中国人の本質というものを見抜く必要があった。


    05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」で述べたように中国は、口先では日中友好と言っていながら、72年の日中国交回復以来ずっと日本を裏切り続けてきた。そもそも中国にとって、国交回復は日本人が考える「友好」のためではなく、日本の技術と資本を呼込むことだけが目的であった。つまり技術移転さえ済めば、いつでも反日を鮮明にする可能性があったのである。

    ところで中国人の反日は江沢民の反日教育から始まったという中国専門家の薄っぺらな意見がある。しかし04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」で述べたように、戦前から中国の教育は反日・排日のためだけに存在していたくらいである。それくらい中国の反日は腰が入っている。


    世の中には騙されやすい人のリストがある。過去にマルチ商法や詐欺商法に引っ掛った人のリストであり、けっこう高値で取引きされているようだ。このような商法に一度でも引っ掛った人は、何度もこの種のサギに引っ掛る傾向が強いので、リストとして価値がある。最後には「おたくは騙されやすい人のリストに載っている。このリストからおたくの名を消すには何十万円必要だ。」ととことん騙される。

    さしずめ日本は騙されやすい人のリストに載っているのである。詐欺師にも二種類いる。一つは相手を恫喝するタイプであり、もう一つは微笑みながら騙すタイプである。しばしば日本のマスコミは後者の微笑むタイプを勘違いして親日派と呼んでいる。しかし恫喝派と微笑み派は一心同体である。


  • 「強い米ドルは国益にかなう」というアホなセリフ
    問題の核心をわざとそらす経済学者やエコノミストがいるが、中国経済の問題は「為替」に尽きると言って良い。日本の円は360円から4倍以上になった。人民元については、スタートを1米ドル=1人民元とするか1米ドル=2人民元程度とするか迷うところであるが、日本と同様の巨額の経常収支の黒字を続ける中国の通貨が6人民元台ということは絶対に有りえない。極端な話、円の推移を当てはめるなら、1米ドル=0.25〜0.5人民元でもおかしくない。

    筆者は、客観的に見て1米ドル=1.5〜2人民元程度が適正と考える。おそらく購買力平価から見てもこの程度が妥当であろう。それにしても不当な人民元安がどうしてこれまで容認されてきたのか不思議である。


    中国の輸出相手国として大きいのは欧州と米国である。特に米国は、中国製品の輸入増に伴い、国内の製造業は壊滅状態になっている。昨年までは米国内で人民元安に批難が出ても、ほとんど中国に影響を与えるものではなかった。また議会で中国の為替操作に対する批難が起っても、米国の制裁への動きはことごとく腰砕けになった。

    今年になってようやく米国議会が対中制裁法案を可決する段階に来た。政府もこれに呼応して中国への圧力を強めている。しかし米国議会の強行姿勢も11月の中間選挙までと筆者は見ている。そして米政府の当初の制裁案(中国を為替操作国として認定する動き)はここにきて腰砕けの様相である。

    G20で制裁レベルの経常収支の黒字幅がGDPの4%超なんて言っているが、これではまるで話にならない。また欧州は、経常収支赤字国とドイツのような大幅な経常収支黒字の国が混在しており、人民元安に対する批難はまとまらず迫力が全くない。この状況では中国は1米ドル=6人民元程度の人民元高でお茶を濁すことになろう。


    米国でずっと人民元安が黙認されてきた理由を考えてみる。そもそも一般の米国民は外国為替の変動に興味がない。また米国のGDPに占める輸出・輸入額の比率がまだまだ小さい。為替変動が身にしみるのは外国への旅行者くらいである。不当な人民元安によってどんどん米国国内の工場は閉鎖に追込まれているが、事態を深刻に捉えていたのは当事者だけである。大半の米国民は、アップルのiPadが米国内で生産されていると思っているような間抜けなところがある。

    米国の政府首脳はずっと「強い米ドルは国益にかなう」と訳の分らないことを言っていた。最初にこれを言い出したのはウォール街出身のルービン財務長官である。以降、政府首脳(物価上昇を警戒するFRBも含む)も事あるごとにこの「アホ」なセリフを繰返していた。

    たしかに「強い米ドル」を標榜すれば、各国から米国に資金が集まる。この資金は金融機関にとってメシの種となる。しかし資金流入による米ドル高によって米国産業は弱体化した。つまり「強い米ドル」なんて金融業者と海外進出企業だけにメリットを与えるものである。


    異常な人民元安が問題であることに米国首脳の一部は気付いていたが、クリントン大統領が「中国との戦略的パートナシップ」と言い出したため、中国に圧力がかからなくなった。次のブッシュ大統領は中国に対して強行姿勢に転じたが、2001年に同時多発テロが起ると中国に急接近し始めた。共にイスラム教過激派に手を焼いていたからである。

    これでは人民元安に圧力がかかるはずがない。これ以外で筆者は「人々が金融業が既に斜陽産業であることに気付いていなかった」と「米国の政府と議会に強烈なロビー活動が行われてきたふしがある」という二点を挙げておく。これらについては来週以降取上げる。

    ようやく米国の政府と政治家も、異常な人民元安が思っていた以上にとんでもない事に気付き始めた。これはリーマンショック後の大規模な経済対策で経済が多少上向いても、一向に失業が減らない事態に直面したからである。GDPが増え、株価が上昇しても失業率は下がらない。しかし生産拠点がことごとく中国に移っているのだから、このことは当り前である。                           



来週は今週の続きである。



10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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