経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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来週は休刊です

10/9/20(632号)
菅政権の行方

  • 旧民主党の勢力
    民主党の代表に菅氏が選ばれた。議員票では拮抗、また地方議員票は6対4(菅対小沢)と小沢氏が予想より善戦した。ところが党員・サポート票で小沢氏に圧勝した。この結果、一見事前のマスコミ各社の予想より大きな差で決着した。

    しかし党員・サポーター票は獲得票数は6対4(菅対小沢)であった。小選挙区の総取り方式を採用したため、票差以上のポイント差がついたのである。ただ党員・サポーター票の投票率が67%と異常に低かった。また投票が封書ではなくハガキで行われ、これが途中で小沢票が捨てられたという噂に繋がった。ともあれ不正がなかったとしても、菅氏は圧勝ではなく僅差で勝ったと言える。


    今週は民主党のこれまでの変遷と今後の行方を取上げる。本誌を昔から読んでいる人は分かっていると思うが、筆者は従来の民主党の主張を快くは思っていなかった。電車の中の週刊誌の中吊り広告に例えたこともあった。とにかく民主党の主張はマスコミの論調の受け売りであり、またマスコミ受けする事ばかり言っていた。


    野党時代の民主党は、マスコミの論調に合わせて与党である自民党を攻撃していた。しかしこのマスコミとの共同戦線の結果は良かった。例えば不人気の森首相のもとでの総選挙で民主党は躍進した。

    それにしても自民党は都会で全く勝てなくなった。都会の民主党に対して、地方の自民党という図式が鮮明になった。これに危機感を持った自民党は次の小泉政権から路線を大きく変更した。


    話は90年代の半ばに遡る。この頃からマスコミは「財政再建」と「構造改革」を唱え始めた。バブル崩壊後、日本経済の足取りは不調であった。公共投資を大幅に増やしても思うように経済が拡大しなくなった。これによって公共投資などの財政支出に効果はなくかったと言ったデマが広がった。しかしバブル崩壊によって設備投資や住宅投資が激減しており、これは仕方がないことであった。公共投資の乗数効果が特に小さくなったという話ではない。

    また当時は10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」の頃であり、財政危機が声高に叫ばれていた。自民党もそれまでの積極財政路線の変更を迫られていた。橋本政権の行財政改革路線は、そのような雰囲気の中で生まれた。


    しかし橋本政権の唐突な緊縮財政は、燻っていた金融不安を表面化させた。景気は再び落込み、参議院選挙で自民党は大敗した。次の小渕政権は、積極財政に転換し、何とか経済の崩壊を防いだ。

    しかし少し経済が持直してくると、マスコミはまた「財政再建」と「構造改革」を主張し始めた。「景気はもう良い。次は財政再建だ。」がキャッチフレーズになった。野党民主党はこのマスコミの論調に合わせるように「構造改革」路線に染まって行った。また寄せ集め政党の民主党を統合させるシンボルがこの「構造改革」であった。

    96年結成当時の「構造改革」路線が今の民主党の原点である。今日の党員・サポーターと言われる人々の多くも、この時代から民主党に肩入れしていたと思われる。そしてこれらの人々にとっては、後に民主党に合流した小沢自由党は、むしろ「新参者」という感覚であろう。今回の代表選で菅氏を推したのは、これらの旧民主党の勢力だったと筆者は見ている。


  • マスコミの奴隷
    都会で勝てなくなった自民党が打出したのが小泉首相の構造改革路線であった。民主党の構造改革路線を無力化するため、民主党以上の改革路線を唱えた。野党の政策を取入れることによって、相手を無力化することは自民党の常套手段であった。

    昔、自民党は、社会党などが唱える社会保障政策を取入れることによって、野党を無力化させてきた。これが自民党が長い間政権を維持した秘訣でもあった。小泉自民党は、民主党より極端な構造改革路線を打出すことによって、民主党の支持者の切崩しを行った。

    元々「構造改革」に賛同するような有権者は、確たる考えがあるのではない。単にマスコミが構造改革を喧伝するから、「乗り遅れまい」とこれに賛同しているのである。この結果、自民党は01年の参議院選で大勝した。


    しかし構造改革路線で経済が浮揚するはずがない。小泉自民党はこれを誤魔化すため、03年から04年にかけ35兆円もの大規模な為替介入を行った(同じ35兆円の借金をするなら、為替介入ではなく財政支出に使うべきであった。これを行っていたなら、これがデフレ脱却のきっかけになり、今日のような円高で苦労することもなかった。)。

    為替介入による円安誘導はうまく行かなかったが、日本だけでなく中国などのアジア諸国の自国通貨安を狙った大量の資金が欧米に流れ込んだため、欧米でバブル景気が起った。07年のサププライム問題の表面化まで、日本以外の世界各国は好景気であった。少なからず日本の輸出企業は世界的好景気の恩恵を受けた。


    輸出企業の業績が良くなったため、たしかに日本の景気にも薄日が射した。しかし景気が良くなったのは、輸出産業が集積する地域と不動産のミニバブルが起った大都市だけであった。その他の地域はむしろ経済が低迷した。このような経済状況を見て、小泉構造改革路線に対して自民党支持者の中で不信感が広がった。特に地方の自民党離れが加速した。

    この結果、04年、07年の参議院選で自民党は大敗した。敗因は地方の一人区で自民党が民主党にことごとく負けたからである。既に「構造改革」は輝きを失った。


    幹事長など民主党の選挙対策の責任者に就任した小沢氏は、選挙戦略を転換した。民主党の原点と言える構造改革路線を隠し、「生活重視」を前面に打出した。また農家対策を公約に入れたり、自民党の支持組織の切崩しを行った。特に07年の参議院選と09年の衆議院選における民主党の大勝は、この選挙戦略の転換が功を奏した。

    しかし完全に構造改革路線を封印したわけではなく、民主党は公共投資の大幅な削減も実施した。また事業仕分けに見られるような構造改革路線が有権者に受けることも理解している。筆者は、今回の代表選で菅氏が勝ったことによって、民主党は中途半端な構造改革路線に舞い戻ると見ている。


    今後の民主党の政策を占うポイントの一つは、やはり消費税の増税である。言い方を変えれば、日本の財政をどう考えるかである。財政が悪いと考えるなら、財政再建路線に走ることになる。財政再建路線に走れば、自然と構造改革路線を進むことになる。

    もう一つのポイントはマスコミの動向である。小沢自由党が合流するまで、民主党はマスコミの論調ばかりを気にし、まるでマスコミの奴隷のような政党であった。今日でも菅首相はマスコミの動向を異常に気にしながら人事を決めているくらいである。しかし経済状態がもっと悪くなれば、マスコミの論調も景気重視に変わる可能性がある。そのような場合に、はたして菅政権が対応できるか見物である。                                   



先月に予告したように来週は休刊である。次回号は10月4日を予定している。



10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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