経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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10/9/6(630号)
日銀悪玉説

  • 幼稚な日銀批難
    円高進行を受け、政府・日銀が緊急対策を講じた。しかし内容は10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」で仄めかしたしたような「しょぼい」ものであった。筆者はここで「もし今週出される政府・日銀の対策が「しょぼい」ものなら、仮に一時的に円安となっても、再び円高局面に戻ることが十分考えられる」と述べた。

    まず政府の緊急対策の話はつまらないので割愛する。一方、日銀が決定した「資金供給30兆円に拡大」は予想通り効果が見えていない。今のところ為替相場はほとんど反応していない。為替相場については早くも単独介入を実施するかどうかに注目が移っている。


    世間には、協調介入なら効果はあるが単独介入では効果がないとか限定的、と言った意見がある。しかし筆者は、協調介入の効果を認めるが、条件が整えば単独介入でも効果があると考える。ただ困るのは筆者が為替介入推進論者と誤解されることである。

    投機マネーの動きなどで耐え難いほど円高が進んだ場合には、為替介入が有効であり、時には必要と筆者は考える。03年から04年にかけての小泉政権下の為替介入が効果がなかったのは、単独介入だからではなく、当時、そもそも為替が円高ではなかったからである。


    現段階においては、仮に単独介入を行った場合、相応の効果を生むかどうかを判断することが難しい。今日の円高が日本経済にとって打撃ということは解る。しかしそれにもめげず日本の輸出は減っていないのである。ちなみに6月の貿易・サービス収支は6,588億円の黒字と決して悪い数字ではない。

    貿易・サービス収支が赤字でもないのに直に為替介入という話に違和感を感じる。筆者は、今日の円高の要因をもっと調べるべきと考える。慢性的な経常収支の黒字が原因ならば、政府の内需拡大政策の失敗として今日の円高は甘受する部分があると思う。しかし中国による継続的な日本国債の購入が大きな原因ということになれば、中国に対して国債購入を中止するよう申し入れるべきである。このような政府の態度と行動の方が、今は為替介入より効果が大きいと考える。


    前置きが少し長くなったが、今週は日銀に対する的外れの批難を取上げる。8月30日の「資金供給30兆円に拡大」という日銀の金融緩和策の決定まで、世間には過剰な日銀への期待と日銀の対応が遅いというに対する批難が渦巻いていた。これを筆者は「ばかげたこと」と見ていた。

    今日の日本にとって重要なのは、金融政策ではなく財政政策である。幼稚な日銀批難は、問題の本質を隠すものである。筆者は、福井総裁以降の日銀の政策は大きく間違ってはいないと見ている。むしろ日銀は金融政策に限界があるということを証明してくれたのである。

    日銀の政策が本当に必要になってくるのは、政府が積極財政に大転換した時である。政府が政策を転換しないのに日銀だけが頑張っても効果はない。この当り前の事が理解されていないのである。


  • トンデモ本大賞
    とにかく日銀の評判が悪い。数々の理由があるが、やはり日本でデフレ経済が続いていることが影響している。また一部のエコノミストやマスコミは、いまだに金融政策でデフレが解決できるといったデマを流布している。

    デフレ経済が一向に解決しないことで、この犯人探しが行われている。筆者などは日本の過剰貯蓄に対して、財政支出が不足していることを原因としている。つまり問題は財政当局と考える。しかし力があると思われている財政当局への批難は控えられ、非力な日銀だけがやり玉に挙がっているのである。


    たしかにこれまでの日銀出身の日銀総裁の失政が日銀の評判を落としている。三重野総裁は、バブル経済が既に崩壊しているにもかかわらず金融の引締めを続け顰蹙をかった。これで日銀マンの経済センスのなさが証明されたかっこうになった。

    同じく日銀出身の速水総裁は最低の総裁であった。小渕政権は橋本政権で大きく落込んだ経済を立直そうとした。ところが速水日銀は小渕政権の要請を断り金融緩和を拒否した。このため円高が一層進み、小渕政権の積極財政政策を台無しにしていた。小渕首相は「速水氏は自分の選んだ総裁ではない(橋本政権が選出)」と嘆いていた。


    速水総裁は、円高信奉者であり、円高こそが日本経済にとってメリットがあるとトンチンカンな主張をしていた。これ以外においても速水日銀は、ゼロ金利政策で迷走するなどメチャクチャであった。当時、FRB理事だったバーナンキ現FRB議長が「中原伸之氏を除く日銀政策委員(総裁、副総裁を含む)はジャンク」と評したほどであった。

    このようなメチャクチャな速水日銀であったが、改正日銀法によって政府の日銀への関与が厳しく制限されていた。筆者は、このような三重野・速水総裁に比べ、福井・白川総裁は問題が少ないと思っている。今日の日銀は常識的な線で政府に協力していると感じている。


    日銀を悪者に見立てる俗説が幅をきかしている。本誌はその一つであるリチャード・A・ベルナーの著書を04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」から04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」にかけて取上げた。意外とこのリチャード・A・ベルナーの著書(「円の支配者」など)の論調がいまだに影響力を発揮していると感じている。

    「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)」は日本のバブル生成期から崩壊までの日銀の動きを取上げたものである。たしかに三重野総裁の金融引締めの引き延しというミスはあった。しかしバブル生成期の超金融緩和は、政府の要請や国際的な金融不安に対処するものであった。また消費税導入を目論む財政当局は、円高不況にかかわらず財政支出を絞り、その分日銀の金融政策に大きな負担を求めた。当時、政府部門は大きな黒字であった(年金などの特別会計が大幅な黒字であった)にもかかわらず、財政支出をけちっていたのである。


    リチャード・A・ベルナーという、日本経済に全く無知な人物が思い込みだけで書いた本が世間に受けた。トンデモ本というものがある。筆者はリチャード・A・ベルナー氏の著書にトンデモ本大賞を送りたいくらいである。ちなみに発行元はPHP社である。

    では何故リチャード・A・ベルナー氏の著書が受けたかということになる。これに関し、筆者は、非力な日銀を批難してもしっぺ返しがないという世間の雰囲気があったからと感じる。いわゆる「日銀イジメ」である。また日本における経済論議自体の低調さも影響している。考えてみれば日本の大半の経済学者やエコノミストは、リチャード・A・ベルナー氏と同じくらい低レベルである。                                          



来週は今週の続きである。



10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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