経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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10/8/30(629号)
外為特会の31兆円の評価損

  • 小泉政権下の為替介入
    円高によって日本の外為特会(外国為替特別会計)の評価損が急増している。今日の1ドル85円で評価すると評価損は31兆円になる。保有外貨建資産(ほとんどが米ドル資産)が約1兆ドルで、これまでの政府・日銀の平均為替介入水準が115円であるから、ほぼ計算通りの評価損が発生していることになる。

    一方、外為特会には20.6兆円の積立金がある。保有している外貨建資産の利息などの収益から、介入資金の調達コストを差引いたところの剰余金を積立てたものである。当然、米国の方が日本より金利が高かったため、毎年積立金は増えてきた。

    ただし09年度は、剰余金2.9兆円のうち2.5兆円を一般会計に繰入れしている。いわゆる埋蔵金の取崩しである。しかし円高による評価損が大きくなっているため、積立金から評価損を差引くと外為特会は約10兆円の赤字になっている。つまり外為特会に限っては、埋蔵金どころか含み損が発生しているのである。


    昔の外為特会には、剰余金による積立金に加え、為替の評価損ではなく評価益があった。文字通りの巨額な埋蔵金が存在していたのである。おかしくなったのは小泉政権下03年から04年にかけての常軌を逸した35兆円もの為替介入からである。

    特に03年は、為替介入にかかわらず為替レートがずっと118円から119円で推移しており、決して円高ではなかった。それにもかかわらず政府・日銀は果敢に円売り・米ドル買い介入を行った。これが大きな謎である。


    それまでの日本の為替介入は合理的であった。円高が進み過ぎた時に米ドル買い介入を行い、円が安くなり過ぎた時に米ドル買い・円売り介入(98年4月、円レートが140円台まで下落した時に200億ドルほど米ドルを売っている)を行っている。つまり米ドルが安くなった時に米ドルを買い、高くなった時に売っていたのである。

    本誌でも短期的な為替の動向を予想するには、政府・日銀の動きだけを見ておれば良いとコメントしていた時代もあった。実際、円高が進み介入がなされた場合には、必ずしばらくして円安に向かったものであった(98年の円安局面での米ドル買い介入においてもその後円高に向かった)。それというのも政府・日銀の為替介入が不合理なほどに円高や円安が進んだ局面で行われたからである。

    今日の円高に対して為替介入を求める声が大きくなっている。たしかに過去においては介入をきっかけに必ず為替動向が反転した。しかし小泉政権下の為替介入からこのパターンが崩れたことを考える必要がある。介入金額巨額な割には円安にならなくなったのである(長い間118円、119円でずっと推移していた)。これ以降政府・日銀は為替介入を行っていないので、仮に今日為替介入を行っても効果がどれだれあるのか不明と筆者は見ている。


    小泉政権下の奇妙な米ドル買い介入によって、外為特会は金額が異常に大きくなっただけでなく、平均の米ドル購入単価が高くなった。つまり少し円高が進むと直に評価損が発生する形になった。今日の巨額の評価損はこの不合理な為替介入の賜物である。

    ところが不思議なことに小泉政権下のこの異常な為替介入を問題にする声が全くない。日頃「政治と金」とか「事業仕分け」と言ったつまらないことで大騒ぎしているマスコミが、これを問題にすることはない。評価益があることが当り前であった外為特会が、今日では31兆円というとんでもなく大きな評価損を抱えているにもかかわらずである。


  • 為替介入は景気対策
    小泉政権下での03年から04年にかけての巨額な為替介入の謎についてはいくつかの説がある。一つはイラク戦争を始めた米国への資金援助という話がある。しかし介入金額がとてつもなく巨額なことを考えると、これは有りえない話と筆者は思っている。

    過去に何回か取上げたように、筆者は、03、04年の35兆円の為替介入は輸出増大を通じた景気対策と見ている。ただ介入前の円レートは、デフレが続く日本にとって決して円高と言える水準ではなかった。円高ではなかったから巨額の為替介入を行ってもほとんど円安にはならなかったと考える。


    しかし円安にならなくとも、景気対策であったからかまわなかったとも言えるのである。為替介入によって米国に資金を渡し、米国に購買力がつけば目的が達成する。事実、直接的な日本の対米輸出は増え、さらに中国の対米輸出が増えることによって間接的(部品などの資本材の対中輸出が伸びた)に日本の輸出が増えた。

    07年の米国のサブプライム問題が発生するまで、輸出が伸びることによって日本の経済は底堅く推移した。内需関連の産業は依然低迷していたが、輸出企業が集まる名古屋を中心とした東海地方の景気は比較的好調であった。筆者は、これを03、04年の35兆円の為替介入の効果と考える。


    日本の巨額の為替介入に続いて、中国の米国債の購入がどんどん増えて行った。人民元安を維持したい中国は日本と同様に毎日為替介入を行い、取得した米ドルで米国債を買った。日本や中国だけでなく、韓国、台湾、そして他のアジア諸国も輸出で稼いだ金で米ドル建て資産を購入した。

    一方、米国にはクリントン大統領時代のルービン財務長官以来「強いドルは国益にかなう」というばかげた信仰(金融業界と世界に進出した多国籍企業だけが儲かる)があり、日本などのアジアからの資金流入に対する警戒を怠った。米国国内には明らかに資金がだぶついたのでFRBは短期金利を上げた。しかしアジアからの資金流入を放置したため、長期金利は上昇せず、長短金利の逆転現象が起った。

    日本の巨額の為替介入資金を皮切りに米国に流入した余剰資金は、米国の不動産市場に流れ込み不動産バブルを発生させた。また欧州にもこの種の資金が流々し、同様に不動産価格が上昇した。しかしバブル崩壊に伴いサブプライム問題とリーマンショックが起き、世界同時不況に陥った。


    小泉政権下での03年から04年にかけての巨額な為替介入という景気対策は、小泉政権の再選を狙ったものと筆者は見ている。03年9月に自民党の総裁選があり、経済の底上げを迫られていた。しかし新規国債発行の30兆円枠に見られるように、小泉政権は「構造改革で経済成長は可能」といった虚言・妄言をスローガンに掲げていた。

    特に03年の初頭は経済が低迷していて、これでは総裁選での再選が危ういという状況であった。ここであみ出されたのが巨額の為替介入である。医療費、地方交付金、そして公共投資を削って財政支出を抑えても、景気は回復するのだという幻想を実現させるための政策である。


    小泉政権は、一般会計ではなく外為特会という特別会計を使った景気対策を行ったのである。ところが何もしらない国民やマスコミは一般会計にしか関心がない。緊縮財政を維持しながら、そこそこ景気が回復してきたと感じたのである。

    緊縮財政であった小泉政権なのに、この政権下で国の債務が急増している。しかし35兆円も為替介入を行えば、借金が増えるのは当り前の話である。ところが小泉政権の最後の頃は、もう少しでプライマリーバランスが達成される(一般会計に限られた話)といったトボけた発言が飛出す始末であった。ちなみに総裁選が終わった03年9月の後、ある程度安く維持されていた円が円高に向かっている。


    筆者は外為特会の31兆円の評価損を計上すべきと考える。民間は所有する株式の株価などの資産価格が一定以上下落した場合、強制的に評価損を計上させられる。国の場合だけが決済を行うまで評価損を計上する必要がないというのもおかしな話である。



来週は、今日、なにかと批難の対象となっている日銀を取上げる。



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