経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


来週は夏休みで休刊であり、次は8月23日号である

10/8/9(627号)
世界に広がるデフレ

  • 先進各国のマーシャルのK
    筆者は、日本のデフレ経済の裏側に、金融機関に眠る巨額の金融資産の存在があることを指摘してきた。03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」他で、筆者はこれを「フリーズ状態の資金」とか「凍り付いたマネーサプライ」と表現してきた。特にバブル経済、つまり資産価格の高騰に伴ってこの種の資金が増えると考える。

    土地などの不動産を価格高騰時に売って得た巨額の売却代金が、消費や投資に回ることなく銀行などの金融機関で凍り付いているのである。これが日本の過剰貯蓄の大きな部分を構成している。そしてこの現象がデフレ発生の大きな原因であることを08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」で説明した。

    特に列島改造ブームと土地バブルというバブル経済を二回も経験した日本は、これまで先進国の中で唯一デフレ経済を続けてきた国である。このデフレ経済を克服する(誤魔化す)ため、日本経済は外需に依存する構造になった。しかし昨今の円高を見れば分るように、この路線も限界にきた。今週はこの「デフレ発生のメカニズム」が日本だけでなく、主要な先進国にも広がっているのではないかと言うことを取上げる。


    まず古典派経済学では、この種の金融資産(貯蓄)が増えれば、金利が低下し投資が活発になり需要不足は起らないことになっている。また消費は無限であり、生産された物は全て消費されることになっている(セイの法則)。しかしいくら金利が低下しても一向に日本の投資が盛上がらないことは、誰でも知っていることである。つまり古典派経済学の理論なんて、現実の経済と無関係である。

    ところが構造改革派は、これは日本が規制緩和や競争政策が進んでいないからと言った虚言・妄言で言い逃れをしてきた。実態は単に国内に需要がないから、投資が増えないのである。これを「構造改革なくして成長なし」という大嘘で誤魔化してきたのである。この結果、考えられないほど長期のデフレで日本国民は苦しめられてきた。そして同じことが世界で起ろうとしているのである。


    米国のサブプライム問題やリーマンショックで世界的なバブルは崩壊したと筆者は見る。それまで信用創造によって世界の金融資産は増えつづけてきた。1990年当時48兆ドルだった金融資産は今日200兆ドル(1京7,200兆円・・本誌で京という単位を使うのは初めて)に迫っている。

    注目されるのは、1990年から今日まで世界のGDPが2.6倍になったのに対して、世界の金融資産は4倍にもなっていることである。マネーサプライを名目GDPで割り返したものがマーシャルのKである。本誌が日本の過剰貯蓄を問題にした頃の日本のマーシャルのKは2.0程度(郵便貯蓄などを含めて)で、先進各国は0.5から1.0程度であった。以前から指摘しているように、先進各国のマーシャルのKもかなり大きくなっていて、日本の数値に近付いているものと筆者は想像する。


    当時マーシャルのKが0.5程度のマネーサプライで十分一国の経済は回っていけることを筆者は指摘した。つまりそれ以上の金融資産は余剰なマネーサプライである。また余剰な金融資産(マネーサプライと言い換えて良い)の存在の反対側には、それを借りている債務者がいる。

    それは資産価格高騰時に借金をして資産を購入した者(かなりの部分が不良資産化して最終的に銀行の負担になる)と、不足する需要を財政支出で埋めている政府である。ところが今日、どの国でも財政赤字が問題になっており、政府支出を削ろうという動きが出ている。しかしこれは極めて危険な行為である。


  • 少しは賢くなっているはずの人類
    最近、米国では銀行の過剰な信用創造を規制する法案(ボルカー法)が通った。これは主に金融機関が過剰な信用創造によって、結果的に大きな不良資産を抱えることを予防するものである(最終的に国家の負担になるから)。ところが過剰な信用創造の結果、デフレ経済に陥ることはあまり意識されていない。

    また今頃になって信用創造を規制しても「後の祭り」と筆者は考える。むしろ今重要なのことは、バブル崩壊後のデフレ経済への対処である。ところがトリシェ欧州中銀総裁の「デフレ脱却には財政再建が重要」発言に見られるように、とんでもない考えが広がりを見せている。


    筆者は長年バブルとその後のデフレ経済の関係を取上げてきた。最近になって日本でもデフレ経済と過剰貯蓄の関係を指摘する者がチラホラ出てきた。先日もテレビに登場したエコノミストは「日本には金融機関に眠ったままの資金が300兆円(金額の根拠がはっきりしないが)もある。これが動かない限りデフレは克服できない」と発言していた。

    そしてこのエコノミストは「この眠り続ける貯蓄に貯蓄税を課せ」と主張していた。アイディアとしては面白いが、しかし実際にそれが実施されればパニックが起ると考える。これまで筆者は、率直に政府がそれに見合う金額の借金をして、そっくり財政支出をすれば済むと主張してきた。

    もし政府が債務を増やすことが問題なら、政府紙幣の発行という方法があり、さらにそれが困難なら国債を日銀が引き受ければ良い。政府やエコノミストは日銀が購入した国債が実質的に国の借金にならないことを国民に説明すれば良いのである。これは先進各国が少しずつ始めている政策であり、貯蓄税なんかよりよほどまともな政策である。


    筆者は、バブル期の不動産取引が日本のデフレの原因と指摘してきた。もちろんそれ以外にも過剰貯蓄の要因がある。特に日本人の将来不安に備えた貯蓄が大き過ぎることもその一つである。また政府も異常に大きな公的年金の積立金を持っている。ストを全くしない労働組合でさえ、闘争資金の名目で組合費を集めて多額の預金をしている(おそらく何兆円もあると思われる。組合員に返せば良いのである)。


    歴史的に見ても、バブル崩壊後に過剰貯蓄を伴ってデフレ経済に陥ると、各国とも為替の切下げ競争と保護主義に走る。そして場合によっては戦争である。第二次世界大戦にもその要素がある。まず軍事の需要がデフレ経済対策になる。そして戦争で互いの国の過剰生産設備を壊し合うことによってデフレが解消される(生産設備が壊されなかった米国だけは戦後もデフレが続いた)。

    しかし人類も少しは賢くなっているはずである。何も戦争をしなくともデフレは克服できる。日本の場合、過剰貯蓄を「はやぶさ」などの宇宙開発や色々な学術研究に使うのも良い。必要な道路も造れば良い。エネルギー自立のために高速増殖炉を建設するのも良い(原子力アレルギーの人は反対するかもしれないが)。公的年金の補填に使うことも考えるべきである。要するに国民が喜ぶことにどんどん使えば良い。


    需要がないから、長期金利が1%になっても収益が見込めず民間は投資をしないか、あるいは減価償却の範囲の投資しか行わないのである。経済がこのような状態になった場合には、公的投資と公的消費で総需要を増やす他はない。そして総需要が増えれば、民間の投資もジワリと増えてくるはずである。



来週は夏休みで休刊であり、次は8月23日号である。なお9月の中旬にもう一回休刊を予定している。



10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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