経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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10/8/2(626号)
米国もデフレ?

  • ヘッジファンドに繋がっている「ヤカラ」
    ギリシアなど南欧諸国の財政危機をきっかけに、一時的ではあるが日本の財政問題が注目を集めた。例えば経済学者達は「財政規律の確立を急げ」と騒ぎ始めた。また大新聞も、国民は消費税引上げに賛成しているという奇妙なアンケート結果を公表していた。このような世間の論調が少なからず菅首相に影響を与え、唐突な消費税増税構想に結び付いた。

    しかし民主党が参議院選挙で大敗する頃には雰囲気が一変していた。消費税増税論議はどこかに吹き飛んでしまった。だいたい政府はデフレ対策のため、これまで消費を喚起する政策(エコポイントなど)を進めてきた。ところが今度は消費税増税によって消費にペナルティーを課すと言うのだから、明らかに矛盾している。


    たしかにギリシアの国債が売られた当初、マスコミには日本の国債も売られるという声が満ちていた。これで財政再建派も勢いづいた。ところが現実は全く逆に動いたのである。むしろ日本の国債はどんどん買われ、利回りは低下した。また日本の国債を買うための資金が流入し、円は高くなった。

    慌てたのは「日本の財政は破綻寸前」と日頃から財政危機を喧伝してきた人々である。彼等は、日本の国内貯蓄がたまたま多いから、今回に限って日本の国債が買われていると苦しい言い訳をしている。「菅首相が増税を言い出したから」という珍妙なものまで現われた。それなら消費税増税を断念したことによって、日本の国債が売られても良いはずだ。


    筆者は、日本の財政について少しずつであるが、正しい理解が広がりつつあると感じる。もっとも30年間も「日本の財政は破綻寸前」という大嘘に付合ってきたのである。いい加減に御用学者達の言動がおかしいと気付く人々が出てきても不思議はない。

    「日本の財政赤字の累計はGDPの2倍も有り、これは先進国で飛び抜けて最悪」という、例の話も最近はあまり聞かなくなった。むしろ日本政府が巨額の金融資産を持っていることが段々と知られてきている。今日、日本の財政が危機的であると深刻に悩んだり、借金時計に脅えるのはよほどの変人である。


    たしかに事あるごとに「破綻寸前の日本の財政」と言っているニュースキャスターがいる。このキャスターは、昔、プロレスの中継をしていた。ところが今日、財政の専門家になったような断定的な口調で話すので驚かされる。特に09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」で取上げたように、この報道番組には、外資系ヘッジファンドに繋がっているのではないかと疑われるような解説者が時々出演している。

    市場関係者によれば、やはり外資系のヘッジファンドはここ一年くらいの間に4回ほど日本国債の売り崩しを仕掛けたという話である。ところが国債の利回りが少し上昇すると、必ず日本の生保や銀行が国債を買ってくる。つまりヘッジファンドは売り仕掛けをする度に失敗しているようである。もし彼等が大きな損を抱えているようなら、また売り仕掛けをして来るものと思われる。その時にはヘッジファンドに繋がっている「ヤカラ」がまたうるさくなるのであろう。


  • 「異例なほど不確か」
    筆者は、日本の現状が正しく認識された上で、財政が運営されるのが理想的と考える。しかし菅首相が「日本の財政はギリシアの次の次ぐらいに悪い」と思い込んだことで分るように、政治家にそのような事を望むのは無理である。日本の財政は直には破綻することはないといった程度の認識を持つのが精一杯である。

    しかし日本がデフレ経済から脱却するには大規模な財政支出政策が必要である。しかもそれを何年も続ける必要がある。この正論を主張できる政治家はわずかである。


    筆者達が主張するセイニアーリッジ政策が、実行されないまでも、社会に認知されるチャンスはあった。リーマンショック後の異常な景気後退時である。しかし麻生政権は財政支出の中途半端な拡大を行いこれに対応した。日銀は、毎月の国債買い切りオペ額を12,000億円から18,000億円に増やし、お茶を濁した。

    各国は金融緩和と財政支出を増やし、リーマンショック後の経済の落込みに対処した。新興国の経済の立直りは早く、少なからず世界の経済を牽引した。日本経済は米国や新興国の景気回復に助けられ、ほぼリーマンショック前に近い水準まで回復した。これによってとりあえずセイニアーリッジ政策の出番がなくなったのは事実である。


    ここから主に今後の米国経済について述べる。世界的に大企業の4〜6月決算が出ている。景気回復とリストラによってどの企業の決算も好調である(前年が酷すぎる)。ただ今後の世界経済の行方は渾沌としている。筆者は先進国の経済は4〜6月がピークではないかと見ている。また企業の業績が多少良くなっても、マクロ経済が悪いという状態がずっと続くと思っている。

    企業決算が良くても失業率が下がらない。もっとも人員整理をしたから企業業績が良くなったという面がある。しかし失業者を抱えたままでは、そのうち消費も頭打ちになる。米国経済にはその徴候がはっきりと現われている。


    今後の米国経済の見通しについてバーナンキFRB議長は「異例なほど不確か」と発言し、これが世間の注目を集めている。バーナンキ議長が懸念しているのは、米国経済が日本のようなデフレに陥ることである(筆者は既にデフレと思っているが)。以前の米国経済は金利に感応的であり、金利を下げれば消費や投資が伸びたものである。ところが今日どれだけ低金利を維持しても、一向に国内需要は増えないのである。

    米国でも国債だけが買われ、長期金利は低下を続けている。しかし金利が低下しても実物経済に金が流れない。まさに日本と同じ現象が起っている。これでは高止まりしている失業率が低下する可能性がなくなる。いずれ高い失業率が大きな政治問題になることは必至である。


    筆者は、バブル崩壊後のデフレは景気循環の景気後退とは根本的に異なると考える。景気循環の不況は主に過剰設備によるもので、時間が経てば調整される。しかしバブル崩壊によるデフレは、資金が金融機関で凍り付いて流れ出さないことによって慢性的な需要不足を引き起す。

    もっともサブプライムローン問題やリーマンショックがバブル経済の崩壊と見なして良いのか議論があろう。もしこれがバブルの崩壊なら、米国経済は日本と同じ道を歩む可能性がある。つまりデフレ街道である。


    今、米国などで不況対策からの出口戦略が検討されている。具体的には金融緩和の是正と財政支出の削減である。頭だけで考えるなら、これまでのように官需を増やす政策を行えば、そのうち民需が増えてくると思われる。ところがその民需が腰折れ状態に陥っている。勘が鋭いバーナンキFRB議長は、もし今出口戦略に移行したらとんでもないことになると気付いているのであろう。それが「異例なほど不確か」という発言になったと筆者は考える。

    そのうち失業率が低下しないことを問題にし、米国民主党の政策を否定する勢力が強くなると思われる(米国民主党の政策を否定する勢力が正しい事を言っているとは限らないが)。また財政規律を問題にする者や長期間の金融緩和に異議を唱える者が必ず出てくる。日本も経験したように、米国の経済運営は難しい段階に来た。



来週は今週の続きである。

8月1日の日経新聞7ページにレスター・サロー・マサチューセッツ工科大学名誉教授のインタビュー記事が掲載されている。・・世界の当局者やエコノミストの間で「景気刺激策を続けるか、財政再建が先か」と議論が別れています。という問に対して、教授は「大恐慌の克服法は20世紀最高のエコノミストの一人、ジョン・メイナード・ケインズが教えてくれている。狂ったように紙幣を印刷し、狂ったように景気刺激策を打出すことだ。財政赤字を気にする必要はない。需要を創出しずぎることはあり得ない」と答えている。筆者はよくぞ言ってくれたと思う。また中国などの経済統計数値が怪しいという話も同感である。日経をとっている方に全文のご一読を奨める。



10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
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09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
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09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
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09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
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09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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