経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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10/7/19(624号)
中国の日本国債購入

  • 相互性の問題
    最近のトピックスの中で筆者が注目しているのは、中国による日本の国債の購入である。以前、中国が日本国債を買うことがあっても、金額的に小さいものであった。さらに保有している期間も短く、買ったものはそのうちに売却していた。

    ところが今年に入ってから中国は積極的に日本の国債を購入している。1〜4月の買越し額が5,410億円であった。このことが日経新聞に掲載されたのは7月の6日の朝刊であった。ところがわずか二日後、7月8日の日経の夕刊は、中国が5月の一ヶ月で7,352億円も日本国債を買越ししていることを報じた。つまり5ヶ月の間で買越し額が1兆2,762億円にものぼったのである。ちなみに5月末の中国の日本国債の保有残高は3兆4,000億円前後と推定されている。中国の外貨準備を270兆円とすれば、中国は全体の1.26%を日本国債で運用していることになる。


    最近の円高傾向は、日本の経常収支の黒字幅の拡大に加え、この中国の継続的な日本国債の購入が少なからず影響していると筆者は見る。当局(財務省)は、市場における中国の取引額はまだ小さいと今のところ静観の構えである。市場関係者も、中国が購入しているのは短期政府証券(短期国債)が中心であり、事態が落着けばそのうち金利の高い他の国の債券に振り変わると見ている。しかし筆者はこのような楽観的な見方をしていない。

    中国が日本国債の購入を増やした背景には、欧州における信用不安やユーロの暴落がある。中国は、ユーロでの運用は減らさないと宣言していたが、やはりある程度は日本円にシフトさせていたのである。つまりユーロの暴落の原因の一端にやはり中国のユーロ離れがあったと考えられる。


    これまでの中国の外貨準備の運用は、70%が米国であり、残りのほとんどはユーロ圏と見られる。しかし中国は今後の運用を、米ドルやユーロ以外にも広げると言明している。今回の日本国債購入の急増は、このことが実行に移されていることを示している。ところで中国は、資金運用だけでなく通貨管理の目標を主要通貨のバスケットで行う方向で考えている。

    日本との交易高や日本の経済力を考慮すれば、中国が円資産(ほとんどは日本の国債)による運用を10%程度まで増やす可能性がある。つまり今後20兆円以上の円資産を追加購入する可能性がある。当然これは強烈な円高圧力になる。このように国家資本主義である中国の膨大な外貨準備はミサイル以上の脅威である。

    筆者は来るべきものが来たという感想を持つ。ところが日本政府はどのように対処すれば良いのか判断ができていないと推察される。今後日本の国債は国内消化が難しくなるのだから、中国が日本の国債を買ってくれるのは有難いと言い出すばか者がそのうち現れそうである。


    国際関係では相互性というものが重視される。中国は簡単に日本の国債を買うことができるが、日本は中国の国債を買うことができない。つまり相互性の点で問題がある。なお同様の問題は不動産の取得についてもある。中国人は日本の不動産を取得できるが、日本人は中国の土地を購入することができない。

    筆者は、日本政府が中国に日本の国債を買うことを控えるよう言うべきと考える。その理由の一つとしてこの相互性の問題を持出せば良いと思う。


  • 国債販促キャラバン隊
    日本の財政と国債については議論が混乱している。色々な立場の人々が思惑を持って発言しているからである。中には本当の事があるが嘘もある。また半分正しいが、半分は事実でないこともある。このように混乱した状況の中、中国が日本の国債購入を本格化させようとしている。


    05/1/31(第375号)「財政当局の変心」で取上げたように、昔、当局(財務省)が日本の国債の販売促進のため世界中にキャラバン隊を送ったことがある。しかし外国に日本の国債を売るということは円高を招くことを意味する。ところが小泉政権下では、ちょっと前まで財政当局は膨大な借金をして円高阻止のための為替介入を行ってきた。為替介入で得た米ドルで二度と売れない米国国債をせっせと買っていたのである。

    このように財務省は全く矛盾したことを平気でやっていたのである。さらに財務省は、日本の財政が破綻寸前とか将来国債は紙屑になるといったデマを誘発するような財政危機説を演出してきた。しかし財政破綻が近いと言っていた国の国債をよく海外に売付けようとしたものである。

    しかし理由はともあれ、日本の財政当局が外国に日本国債を売ろうとした事実は重い。中国に「日本は国債を外国に売ろうとしていたではないか」「中国だけには国債を売らないとはおかしい」と指摘されれば反論は難しい。


    中国の日本国債購入問題に関して、財務省も危ういが政治家はもっと頼りがない。菅首相は「7月1日から中国人向けのビザ発給の条件を緩和しこれによって中国人観光客がどっと増える」と述べ、これが新成長戦略の一つだと胸を張っていた(そのうち取り上げるが大した経済効果はない)。しかし中国人観光客が日本で商品を買うことを歓迎しておきながら、中国が日本国債を買うことを拒否することができるであろうか。

    マスコミ界も酷い。例えば事あるごとに「破綻寸前の日本の財政」と繰返すニュースキャスターがいる。ところがこの人物には日本の財政について正しい知識を持っている気配がない。しかし「破綻寸前の日本の財政」と発言する度に視聴者は日本の財政は危機的だと洗脳されて行く。

    このような間抜けなニュースキャスターが、中国が日本国債を大量購入したと分かった時、どのようなコメントを発するか興味がある。「いや驚きましたね。財政破綻寸前の日本の国債を大量に買ってくれる奇特な国が現われました。」と言い出しかねない。筆者は、テレビに登場させるニュースキャスターには常識テストを果すべきと考える。


    さらに財務省にごまをすっていれば安泰と考えている財政学者が沢山いる。彼等は財務省の意向を代弁して「財政危機」をずっと喧伝してきたつもりである。しかし筆者は財政当局の考えは一様ではないと見ている。今日、むしろ財政危機を煽って来たことが失敗だったと思っている者もいるはずである。どれだけ財政危機を煽っても、狙いの増税が実現しなかったことに気付くべきである。

    このような混乱した日本において、中国の日本国債の大量購入というものが現実になろうとしている。また恒常的な中国の日本国債の購入という事実が広く知られれば、ヘッジファンドなどの投機マネーの流入増が考えられる。先週からの円高が無気味であり、要因を調べる必要がある。状況によっては為替介入(筆者は二度と売れない米国国債が増えるだけと、為替介入には基本的には反対であるが)や機械的な日銀の国債買切りオペの一時中止を考える必要があると思う。



来週は今週の続きである。



10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
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09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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