経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




10/7/5(622号)
サミットの変質

  • 的外れで間抜けな解説
    予定を変更し、今週は最初に菅首相が出席したG8とG20の話を取上げ、また後半で今後の世界経済の見通しを行う。G20では、各国が2013年までに、財政赤字を半減させることで合意した。ただし日本は例外扱いで、日本独自の目標(2015年に基礎収支の赤字比率を半減させるという財政健全化計画)を達成することになった。

    米国のオバマ大統領は、バブル崩壊による傷が癒えない現状で、各国が財政再建に向かうことに反対していた。しかし欧州勢の主張が強く、米国が歩み寄った形になった。既に英国などがサミットの前に緊縮財政への転換を決めていた。どうも今回は欧州勢が周到に準備したふしがある。


    ところで日本が例外扱いになったことに対して、日本のマスコミやエコノミストの的外れで間抜けな解説が続いている。日本の財政状態があまりにも悪く、お情けで今度の措置になったと言うのである。なんと酷い経済オンチなセリフであろう。

    欧州勢は、世界的な不況回避に必要な財政負担の軽減を狙っていた。タイミング良くギリシアの財政問題に端を発した金融の混乱が起り、この出来事を利用して景気対策を縮小しようとしたのである。特に欧州勢は、ユーロやポンドが大幅に下落したため、緊縮財政に転換しても悪影響は小さいと踏んだのであろう。この動きを米国は事前に察知し、オバマ大統領が各国の首脳に書簡を送り、財政再建に動くのは時期尚早と警告した。しかし結果を見ると欧州勢の完全な作戦勝ちであった。


    日本が例外扱いになったのは、財政赤字が大き過ぎるからではない。日本の経常収支が大幅に黒字だからである。経常収支の黒字国が緊縮財政に転換すれば、それこそ世界中に悪影響を及ぼす。日本に財政支出の拡大を続けてもらいたいのが各国の本音である。

    リーマンショック後、欧州勢を始め、世界各国は財政支出を拡大させた。ところがユーロ高もあって、欧州には中国や韓国などのアジア勢の製品がどんどん流れた。これではアジア勢のために景気対策をやっているようなものである。しかし協調性に欠ける中国に自重を求めてもしょうがない。そこで今回は日本だけがターゲットになった。もっともこれほどユーロやポンドが安くなれば、今後、アジアからの対欧輸出はかなり減ると思われる。


    そもそもサミットは、1975年に第一次オイルショック後の世界的な不況を克服するために先進国が集まったのが始まりである。初期の頃のサミットは、いつも日本とドイツに国内需要を増やすことを要請するものであった。両国とも輸出で外貨を稼いでおり、余裕があるのはこの両国だけであった。

    先進国の中で経常収支が大幅に黒字なのは、今日でも日本とドイツだけである。図式は昔と変わっていない。ところがドイツは今回のサミットで他の欧州勢の陰に隠れて逃げたのである。


    各国の財政再建への転換を牽制している米国でさえ、これまでの景気対策が次々と期限切れになる。例えば減税措置が終わり住宅関連も不振になってきた。米国での自動車の売行きも今後は減少すると予想されている。リーマンショック後、世界の経済は順調に回復してきた。しかしどうも今回の景気回復は、4月か5月あたりでピークを打った可能性がある。


  • 欧州は保護主義へ
    本誌は、今後、世界は保護主義に向かうと予想してきた。今回のサミットを見ていると如実にそれを感じる。各国が出来る範囲で財政支出を増やし、世界経済を活性化させようと協調するのがサミット本来の役目であった。

    ところが今回はデッチ上げのソブリンリスクを理由に財政赤字を減らすことに合意した。サミット史上前代未聞なことが起ったのである。融資国に緊縮財政を強いるあのIMFさえ、今回の欧州各国の緊縮財政への早期転換を危惧しているくらいである。

    欧州で問題なのは国債ではない。必要ならECB(欧州中央銀行)が国債を買えば良い。問題は銀行の経営である。緊縮財政によって景気低迷が長引けば、銀行の不良債権も増える。経営不安の銀行が出れば、世界の金融市場に悪影響が波及する。


    欧州各国は通貨安と低金利でこの不況を乗切ろうとしている。ユーロ圏の政策金利は1%であり、まだ下げる余地がある。もしECBが利下げを行えば、一段のユーロ安になる。しかし欧州は地域外の国のことにかまっていられない。

    欧州が保護主義に走り始めたのは無理もないというより正解かもしれない。中国という国家資本主義で超保護主義の国の存在が大きくなった。また韓国は異常にウォンを安くして世界中に輸出攻勢をかけている。

    今後、欧州で売れなくなった中国や韓国の製品を一体誰が引取るのであろう。いずれ日本も保護主義に向かわざるを得ないと筆者は見ている。そして米国がどうするのか見物である。


    前段で述べたように、これから再び世界経済が低迷に向かう徴候が色々と出ている。まず各国の景気対策が次々と期限切れに来ている。またユーロ安は中国などアジア勢に打撃である。ユーロをカラ売りしていたヘッジファンドは大半を買戻したが、ユーロは112円までしか戻らなかった。今後、一段のユーロ安が有り得る。

    中国の経済も変調をきたしている可能性が強い。中国での自動車の売行きが怪しくなっていて、在庫も増えているという話がある。また中国の株価が2ヶ月くらい下落を続けている。不動産バブルもいずれは崩壊するであろう。


    メキシコ湾の原油流出事故にもかかわらず、一向に原油価格が上昇しない。ゴールドマンサックスも原油価格が当分上がらないというレポートを出している。バルチック海運指数も一ヶ月くらい下げ続けている。どうも一次産品の動きが悪くなっているようである。

    7月2日公表の米国の6月雇用統計も悪くなっている。さらに欧州の金融市場の混乱と米国経済の先行き不安で、中国だけでなく、世界中の株価が下落している。当然、これから世界的株安による逆資産効果がある。


    今後の世界経済の見通しは「成長は減速するがマイナスにはならない」と「二番底に向かう」という見方に別れる。前者の根拠は、中国などの新興国の経済がまだまだ強く、また米国の景気対策費が半分くらい残っているというものである。筆者は、やや後者の二番底説に傾いている。いずれにしても答えは近いうちに出る。



来週は参議院選挙の結果について簡単にコメントしたい。13日あたりの発行を予定している。



10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
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10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
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10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
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