経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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10/6/14(619号)
EU市場混乱の本質

  • 日・米・欧のバブルの生成
    まずバブル経済崩壊の影響について述べる。これに関する筆者の持論は08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」から08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」までの5週間で説明した。その中でも特に08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」が議論の核心部分である。


    話を進める前に、日本の土地バブルと今回の欧米のバブルの共通点と相違点について述べる。両方とも大きな金余りを背景にバブルが発生している。日本や欧米のように経済が成熟した国では、必要な設備投資は限られている。

    日本の場合、通常GDPの15%程度である設備投資がバブル期には20%以上に増えた。しかし今日のように技術進歩の進んだ経済では、少ない投資で大きな生産力を生むため、資金があっても設備投資額がどんどん増えることはない。また今日の欧米は軍備の拡張や公共投資の増強に迫られていない。したがってどうしても余分な資金は他に、例えば不動産などに流れバブルを発生させる。

    銀行などの金融機関の行動パターンも資産バブル生成に繋がりやすい。どんどん預金が増えるため、手っ取り早い運用に走る。事業者や企業に融資し、事業や企業を育て、取引額を大きくするなんて悠長なことはやらない。どうしても融資額が即効的に増える不動産融資に傾く。日本の土地融資や米国でのサブプライムローンはその典型である。特に80年代後半の日本の場合、BIS規制強化が目前に迫っていて、自己資本充実のために収益を上げることが銀行にとって急務であった。


    日本の場合、バブルは主に大都市の土地に発生したのに対して、欧米は同じ不動産でも住宅であった。例えばスペインは、年間15万戸の住宅建設がバブル期に3倍以上の50万戸に増え、しかもそれが10年間も続いた。もちろん米国と同様、中古住宅も高値で取り引きされた。これに対して欧米では土地はそれほど限られた資産ではなく、価格は上昇しにくい。

    一方、日本の大都市圏の土地は再生産が不可能な特異な資産であった。日本の場合、供給が限られている大都市圏の土地への投機であったため、米国やEUのバブルよりスケールが大きかったと筆者は見ている。リーマンショックの当時、100年に一度の大不況と言われていた。しかし筆者は、日本の土地バブルに比べれば、それほどでもないという感触であった。しかし日本の場合影響がほとんど国内経済であったのに対して、欧米のバブル崩壊は世界的な衝撃になっている。


    筆者は、バブル崩壊後には必ずデフレ経済に陥ることを前述の08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」で説明した。いわゆるバブル期に資産を高額で売り抜けた「勝ち組」の売却代金が銀行に眠ったままになり、実物経済の循環に戻ってこないからである。ここまで不動産のバブルについて話をしてきたが、当然、株式などの資産にも同時期にバブルが発生し、それが崩壊している。したがって欧米の銀行の預金残高は、バブル期に相当増えているはずである。

    日本だけでなく世界中の長期金利は低い。まだドイツが2.6%であり、また信用不安で上昇したと言われるスペインでさえ4.7%、イタリアが4.3%である。これは各国の中央銀行が低金利政策を行っていることに加え、「勝ち組」の金が銀行で凍り付いていることが原因と考える。預金は増えているが、しかしEUの銀行は貸し倒れを警戒し融資を絞っている。したがって資金は行き場がなくなり、今、欧州中央銀行にどんどん逃げている。6月9日日経夕刊によれば、欧州中央銀行(ECB)の翌日物預金は過去最高の39兆円になっている。


  • ユーロやポンドの適正水準への調整
    リーマンショック後、各国は財政による景気対策を採った。この各国の経済対策と新興国の経済復興によって、世界経済は少し持直した。しかし高く推移している失業率が示すように、先進国の経済状況は決して良くない。特にEU諸国の経済成長率はこの先少し下がる予想さえ出ている。

    筆者が注目するのは、バブル崩壊後の資産価格の推移である。資産価格の下落が、何時、どの水準で止まるかである。言い換えればはたして適正価格近辺で下げ止まるかである。日本の場合は、政策ミスによって地価下落がオーバシュートし、適正水準からさらに下げた。つまり欧米の住宅バブル崩壊による不動産価格の下落が続くかどうかも、今後の経済政策に掛かっていると言える。

    筆者は、不動産価格の下落が止まるか、あるいは上昇に転じるまで経済の再生はないと考える。もしここで不動産価格の下落が止まる前に政策が転換された場合には、日本で起ったような不動産の叩き売りと、銀行の不良債権問題が再浮上する可能性があると見ている。


    バブル崩壊からの経済再生は難しい。バブル崩壊当初は、どの国も財政出動に積極的になる。しかし日本でも経験があるように、経済が少し持直してくると途端に雰囲気が変わる。ただでさえバブル崩壊で経済は落込み税収が減る。したがって財政赤字を問題にする人々(財政再建原理主義者)の意見が幅をきかすようになる。

    ギリシアの財政問題を発端に、欧州の国債の信用リスクが問題になっている。しかし前段で述べたように欧州各国の長期金利は決して高くない。ギリシアの国債の利回りも8%程度に落着いてきている(問題発生当初は13%までハネ上がった)。各国の国債の入札も順調である。

    EU諸国のソブリンリスクというものが、財政均衡論者によって大袈裟に喧伝され過ぎている。たしかにスペインやイタリアの国債利回りは少し上がっているが、これはユーロの先安観が影響していると考える。ユーロが落着いてくれば、各国の長期金利も低下すると思っている。最終的にはドイツの国債利回りに近付くはずである。


    筆者は、欧州経済にとっての最大のリスクは財政再建主義者の台頭と見ている。案の定、今回の市場の混乱をきっかけに、EU諸国は財政支出のカットに走り出している。経済状態が良くなく、さらに不動産価格の下げ止まりを確認していないのに、緊縮財政方向に転換するというのである。

    筆者は、国債が売られ国債利回りが上昇した場合、欧州中央銀行(ECB)がその国債を買えば済むと考える。実際、欧州中央銀行(ECB)は、加盟各国の国債を買い始めた。つまり英国だけでなく、とうとうEU諸国全体が広義のセーニアリッジ政策に踏出したのである。またトルシェ欧州中央銀行総裁は、今後もこの国債買入れを続けると宣言している。


    本誌も指摘してきたように、問題が噴出した当初、欧州中央銀行(ECB)はもたついていた。しかしようやく体勢が整ったのである。筆者はソブリンリスク云々(うんぬん)というカラ騒ぎも峠を越したと思っている。

    もしまだ動揺が起るとしたなら、ユーロ下落のきっかけとなるような新たな出来事が起った場合に限られると考える。ただユーロもかなり下がってきているため、仮に今後色々な事が起っても衝撃は段々と小さくなると見ている。


    スイス中央銀行が大量にユーロを買い始めた。スイスがEUに発言力を強めるためと日経で解説がなされている。しかし筆者はそうではなく、スイスに金が余っていることと、スイスフランが高くなり過ぎたからと考える。

    大体、筆者は、今回のEUにまつわる市場の混乱の本質を、高くなり過ぎたユーロやポンドの適正水準への調整と見ている。日本株の下落も、欧州の投資家がユーロ安による為替差益が発生したため日本株を売ったからである。むしろ筆者が考えるリスクは、緊縮財政方向に転換したことによる経済の不調と不動産価格のさらなる下落である。これによる銀行の不良債権増大が危惧される。


    ただEU諸国に一つだけ救いがある。それはこの通貨安である。これによる貿易収支のかなりの改善が期待される。どうもEU諸国の各国政府は、これを踏まえて財政支出のカットに踏出した可能性がある。悪影響を受けるのは、米・日・中・韓である。中でも中国は、欧州への輸出比率が高いため衝撃が大きい。

    EU諸国では経常収支が赤字の国が多いが、ドイツ一国の経常収支の黒字がバカでかいので、全体では経常収支が黒字である。米国は経常収支が黒字であるEU諸国の通貨安と緊縮財政への転換を批難している。これは同じ経常収支黒字国である中国や日本にも向けられている。



総理が代わった。来週は、菅首相の言っている「増税額をそっくり財政支出することによってデフレから脱却できる」を検証する。



10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群証」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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