経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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10/6/7(618号)
EU経済の混乱とIMF

  • スペインの不動産バブル崩壊
    今週からギリシアの財政不安に端を発した世界的な市場の混乱についてコメントする。どうせこのテーマを取上げるのなら大きく捉えたい。さて筆者は、EUの市場と経済の混乱の原因をEUのバブル崩壊と考えている。サブプライム問題に端を発した米国のバブル崩壊は、世界中のバブル経済を次々と崩壊させた。

    リーマンショック後、世界中の政府はバブル崩壊の衝撃を最小限にするため、様々な経済対策を採った。各国の政府は財政支出を増やし、またどの国の中央銀行も金融を大幅に緩和した。これによってEU諸国の経済は、ギリシアの財政問題が噴出するまでは、なんとか小康状態を保ってきた。


    第二次大戦後、日本だけが、列島改造ブームと80年代後半の土地プームといったバブルの生成と崩壊を二回も経験した。欧米諸国にとってバブル経済の崩壊は戦後初めての経験である。以前から指摘しているように、バブル崩壊による経済の不調と景気循環による不況とは大きく異なる。

    従来型の景気循環の好不況は、主に設備投資の増減が影響している。時間を経ればそのうち経済は上向いてくるので、それまで景気対策を打てば良い。しかしバブル崩壊型の不況からの脱却は難しい。土地や建物といった資産のバブルが潰れているからである。

    ところがここがよく理解されていない。人々にはバブル崩壊による不況を「景気循環の不況のちょっと酷いもの」といった認識しかない。したがって各国の政府と中央銀行の経済対策によって少し経済が上向くと、直に出口戦略を探ることになる。たしかに財政は経済対策と税収の減少によって悪化としており、財政再建の美名のもとに、経済政策の打切りの声が大きくなりがちである。また金融緩和政策の見直しも検討される。G7の一国でありながら、カナダのように早々と利上げを行うような変な国も現れる。


    ところが資産価格が底を打つまで、バブル崩壊の悪影響は続く。米国はようやく住宅価格の下落が止まった段階まできた(商業用不動産はまだ底を打っていないと見られる)。しかしEUの不動産価格の下落はまだ続く可能性がある。特にバブルが顕著であったスペインは、米国以上の不動産価格の上昇があった(一説では2.7倍まで上昇)。

    スペインの不動産には、フランスなどの銀行が多額の融資を行っている。もし不良債権の処理を急げば、日本のように一段の不動産価格の下落を招く可能性がある。このようにEUの経済運営は難しい段階を迎えている。


    ギリシアの財政問題は、ギリシアがユーロを採用する際に財政赤字を誤魔化したことが明るみになったことが原因である。ゴールドマンサックスが、デリバティプを使ってユーロ加盟の条件である「財政赤字のGDP比の3%以下」をクリアできるよう協力していた。このことがバレて、ギリシアの国債が暴落したのである。

    スペインの経済不調の原因は、上述したように主に不動産バブルの崩壊である。EU諸国は、どの国も不動産バブルが起りそれが崩壊している。しかしスペインが一番酷いようである。南欧諸国の財政赤字は大きく、ギリシアの財政不安が発端となって、原因は異なるが財政問題がクローズアップされている。しかし今の段階でスペインなどが緊縮財政に転じれば、経済はとんでもないことになる可能性がある。


  • スティグリッツ教授の指摘
    EUで不動産バブルが起ったことの原因を探る。もちろんサブプライム問題に見られるように米国でも不動産バブルがあり、また欧米ほどではなかったが日本でもミニバブルが生じていた。世界中で金が余っていたのである。

    この余剰資金が欧米に流れ込んでバブルを生成したと言える。米国での長短金利の逆転現象もそれを反映したものであった。グリーンスパン時代、どれだけFRBが利上げしても長期金利が上昇しなかった。

    日本の民間資金や為替介入に使った政府資金が米国などに流れた。また中国も貿易で稼いだ金で欧米の国債などの債券を大量に購入している。産油国も同様である。しかし目立たないが、日本や中国だけでなくアジア諸国や韓国の資金も欧米に相当流れていた。


    このことに論評しているのがスティグリッツ教授である。教授は、アジア諸国の行動が変質したのは97年のアジア経済危機がきっかけと指摘している。90年代、アジア諸国は経済的に発展した。むしろアジア経済危機までは、これらの諸国は中国より経済成長率が高かった。

    しかし経済成長が高かったが、好景気を背景に消費材の輸入増加などによって経常収支は慢性的に赤字であった。しかし海外から短期資金が流入していたので、資金繰りに苦労しなかった。またアジア諸国は、世界からの資金流入を促すために自国通貨を米ドルにリンクさせていた。


    経済は発展していたが、経常収支が慢性的に赤字という矛盾は段々大きくなっていた。この矛盾を投機筋に狙われたのである。たちまち短期資金は逃げ出し、アジア諸国の通貨は暴落した。投機筋が仕掛けなかったのは、経常収支の黒字国である日本、台湾、そして中国だけであった。東南アジア諸国や韓国は経済破綻一歩手前まで行った。

    ここに乗込んで来たのがIMFである。IMFは資金を出す代わりに、各国に超緊縮財政を強いた。08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」で述べたように、米国政府などに関わる経済学者には現実派のケインジアンが多い。ところが世銀、OECDそしてIMFなどの国際機関に携わるエコノミストには観念論者が多い。また彼等は新古典派や構造改革派の経済学者に近い考えを持っている。


    IMFは、金を出す代わりに緊縮財政など、過酷な融資条件を示した。何年間か経てアジア諸国の経済も立直り、この地域も経済成長を続けてきた。しかしIMFの指導に懲りたのであろう、アジア諸国は経常収支を赤字にすることはなかった。むしろ日本や中国のように余剰資金を欧米諸国の債券投資に向けた。

    とうとう世界の余剰資金の流れの終着は、米国と欧州に限られることになった。また運用の分散化を意図した資金もユーロ加盟国に流れた。特にユーロ加盟によって為替リスクが小さくなったスペインには大量の資金が流れ、スペインの金利は低下した。この資金は主に別荘などの不動産投資に使われた。


    これまで資金の受入先であったアジア諸国や韓国までが、資金の出し手になったのである。つまりこのことが欧米のバブルの生成を大きくした要因と言える。そしてこの要因を作ったのが、過酷な緊縮財政の勧告に見られるようなIMFの行動だと指摘するのがスティグリッツ教授である。

    たしかに日本のような経常収支が大幅な黒字の国までにも、IMFは財政再建を示唆する。筆者はIMFの幹部の頭がおかしいと思っている。日本の財政が黒字化すれば、さらに日本の経常収支の黒字は大きくなり、日本で使われない資金がさらに増えることになる。世界的に余っている資金を一体誰が使うのか?

    IMFは国際機関でありながら、世界全体のことはまるっきり眼中にないのである。ところで世銀の上層部が米国出身者で占められているのに対して、IMFの幹部は欧州出身者が多い。つまり今日の欧州経済の困難の原因の一端を、自分のところの出身者が幹部を占めるIMFが作ったのである。



来週は今週の続きである。



10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
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10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
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10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
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10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
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