経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




10/5/10(614号)
一歩前進か

  • 久々の「朝まで生テレビ」
    4月30日の深夜、久しぶりにテレビ朝日系の「朝まで生テレビ」を視た。特にこの番組にチャンネルを合わせたわけではないが、たまたま目が醒めたら放送が流れていたという具合である。ただ途中しか視なかったので、全体を通した議論を正確には説明できない。もっともこの番組は、昔から、出演者が勝手に自分の意見を述べるというのがスタイルで、一つの結論を出すというものではない。

    まず出演しているパネラーが以前とかなり変わっていた。若手の政治家や高橋洋一氏、そして堀江元ライブドア社長などが出ていた。筆者が視たのは、日本の財政が問題になったところであった。


    これまでは、このようなテーマになると、日本の公的債務がGDPの180%以上もあり、いつ破綻してもおかしくないという議論になったものである。ところが驚くことにこの日は誰もそのようなことは言わない。むしろGDPの180%の公的債務ということが事実に反しているという話になった。これは財政当局による数字の操作というのである。

    出席者の誰か一人がこれを言ったのをきっかけに、これに同調する者が次々と現れた。10人くらいのパネラーのうち、4名くらいは同様の発言をしていた。特に高橋洋一氏は「私の試算では、実際の日本の公的債務のGDP比率は60%程度であり、欧米の先進国と遜色がない」と発言していた。しかしこの発言を否定する者は皆無であった。


    ところでこのような意見は、本誌が10年以上も前からずっと主張してきたことである。筆者としては「やっとテレビの深夜枠では同様な主張が出てきた」という感じであった。ただ繰返しになるがこの番組は、一つの結論を構築するというものではない。

    「日本の財政に特段の問題がないのなら、デフレ克服のためには積極財政を展開しろ」といったような次の議論には発展しないのである。いつの間にか番組の議論は「日本経済を活性化するためにはベンチャー企業を排除するな」というものにすり変わっていた。議論が核心に近付くと、途端に話が関係のない方向に進むという相変わらずのパターンが続いているのである。それにしても日本の財政に関する論調も変わったものである。


    ところで、今日、ギリシャの財政危機が話題になっている。予想通り「日本の財政はギリシャより悪い。日本もいつ同じ状況になっても不思議はない」という話がよくマスコミに出ている。この後には必ず「だから日本は増税が必要」とか「一段の歳出カットを行うべき」といったセリフが続く。

    筆者に言わせれば、これは一種の脅しである。たしかにこれまでは、このような脅しに効果があり、これによって世論が影響されてきた。デフレ対策のための財政支出拡大を主張する政治家に批難が集まり、財政支出のカットを主張する政治家がもてはやされてきた。

    ところでギリシャの財政問題騒動が市場に動揺を与えている。筆者は、少なくともファンドの決算(6月末でファンドを解約する場合の期限)である今週末までは、市場は波乱含みと見ている。またギリシャ問題が、また日本の財政再建論議にどのような形で飛び火してくるかを注目している。


  • 渾沌としている経済論議
    日本で政府の累積債務が問題にされ始めたのは、30年ほど前の大平政権あたりからである。しかし途中バブル経済の崩壊があって、本格的に財政再建が国民的議論になったのは、行財政改革を掲げた第二次橋本政権からである。14〜15年前の話である。

    それまでの財政再建論議と言えば、もっぱら歳出カットと増税がテーマであった。これに構造改革が加わったのは、橋本政権の頃からであった。しかしバブル崩壊の影響があり地価の下落が続いていたこの時代、本来、緊縮財政はとうてい受入れられるものではなかった。


    ところが橋本政権時代、財政均衡主義に構造改革が結び付いたのである。これによって財政支出を絞っても、構造改革を行えば経済成長が可能というとんでもない論調が生まれた。テレビなどのメディアに登場する経済学者やエコノミストのほとんどが同じ事を言っていた。しかしこれはまさに虚言・妄言であった。日本経済は成長するどころか、デフレ経済が続き、とうとう名目GDPは470兆円まで縮小した。

    財政均衡主義者と構造改革派は、少なくとも小泉政権までは結び付いていたが、自民党政権の末期には両者が決裂した。財政均衡主義者は増税を強く主張する路線を鮮明にした。

    一方、小さな政府を指向する構造改革派は上げ潮派と自ら称して、経済成長を主張している。しかし歳出カットと構造改革を主張してきた彼等には、経済成長の手段がない。とうとう埋蔵金の活用とか政府紙幣の発行と言った思い付きを彼等は連発するようになった。財政支出に効果がなかったと主張していたのは、まさに構造改革派である彼等自身であったことを完全に忘れている。


    今日、財政均衡主義者と構造改革派は国民の信頼をなくしている。まず簡単に増税が実現するとはとても思われない。しかし筆者達が主張しているような財政政策を前面に出した経済成長路線を主張する者はいまだ少数派である。

    財政再建路線と構造改革は支持を失った。しかしそれに代わる主張も現れていないのである。まさに日本における経済論議は渾沌としている。


    民主党連立政権には成長戦略がないと決めつけられている。筆者に言わせれば、成長戦略なんて日本にはずっとなかったのに、民主党はこの批難を間に受けている。これを意識してか、今日、民主党連立政権はまた場当たり的な政策を始めようとしている。

    まず政府が前面に出て、発展途上国や新興国へ原子力発電所を売込もうと言うのである。また中国人に対してビザの発行を大幅に増やし、中国観光客を呼込もうとしている。これが政府のデフレ対策であり、経済成長戦略ということになっている。


    たしかに規制緩和で経済成長が可能という構造改革派の主張を信じる者はいなくなった。また増税をしなければ、直にでも日本の財政が破綻するという話も簡単には通用しない。このような状況だからこそ、「朝まで生テレビ」の話で取上げたように、財政当局が危機的と言っている財政悪化の数字も、まともには受取られなくなったのである。15年前の橋本政権当時と様変わりである。これはこれで「一歩前進」と受取って良いのではと筆者は思った。



財政問題に関しては経済学者も混乱している。来週はこれを取り上げる。



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