経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


来週はゴールデンウィークにつき休刊

10/4/26(613号)
ガラパゴス症候群

  • 製品高機能化の原点
    85年のプラザ合意以降、日本の輸出品は質的な転換を迫られた。それまでのどしゃぶり的な日本の輸出攻勢が各国から咎められた(この背景には大平内閣以降の財政再建路線と緊縮財政があった)。日本はこの批難を受入れ素直に大幅な円高を容認した。

    今日の中国は、ちょうどこの頃の日本に似た立場に置かれている。ところが中国は、プラザ合意以降の日本経済の混乱を引合に、これまで各国からの人民元切上の要求を徹底的に拒否してきた。しかし最近の米国を始めとした各国からの圧力は一段と強くなっており、今回は完全に拒否することはできないようである。おそらく小さな変動幅の拡大くらいは実現すると思われる。


    プラザ合意以降の超円高によって、日本の輸出企業は窮地に置かれた。これまでと同じ物を輸出しても利益は出ないのである。そこで輸出企業は、製品の高付加価値化を図った。

    例えば鉄鋼会社は、高価格のシームレス鋼管や自動車用の薄鋼板に力を入れるようになった。また家電メーカは製品の高機能化に努めた。当然、家電製品の主な輸出先は所得が高い欧米諸国が中心である。このようにプラザ合意以降の円高によって、日本企業の製品開発力が強化されたと言える。


    しかしサププライム問題に端を発した世界的な不況は、この日本のお得意様であった先進国経済を直撃した。したがって08年から09年にかけての日本の輸出企業の経営はさんざんであった。ただ09年の中盤あたりからは、新興国の経済が復興し、また先進国経済も徐々に持直している。

    しかし経済成長が顕著な新興国に対する日本メーカの完成品の輸出は芳しくない。完全に韓国や中国に負けている。高機能で高価格の日本製品は売れないのである。またこの傾向は、日本にとってこれまでお得意様であった欧米市場にも広がっている。

    日本の輸出が回復しているのは、韓国や中国などへの部品や工作機械といった資本材の輸出が好調だからである。ただこの傾向はサププライム問題以前から見られたものである。リーマンショック以降は、この路線が完全に定着した形になった。


    日本も韓国のように輸出の相手国の事情に合わせた製品作りをすべきという声がある。たしかに一部の日本メーカはこの方針を取り入れ、シンプルで安価な製品を作り利益を上げている。しかし主要メーカはそれほど積極的にはこの路線に転換していない。

    むしろ日本国内の市場だけを意識した製品作りが続いている。輸出を半分あきらめたような経営方針である。これをガラパゴス症候群とよく揶揄されている。


    ガラパゴス症候群の典型は携帯電話である。携帯電話は日本で独自の進化を遂げた。したがって日本国内では売れるが、世界では全く売れないものである。

    だいたい日本の携帯電話は、ほとんどの国がいまだに第二世代なのに対して、かなり前から第三世代の通信技術に対応させていた。つまり日本の主要メーカは今さら古い規格の携帯電話を作って輸出するという気が起らなかったのであろう。

    日本の携帯電話には、話す他に、メール、カメラ、ワンセグそして支払決済など様々な機能が付いている。しかし他の国の人々にとって必要のない機能が多い。例えば世界には識字率が低い国があり、このような国には字を知らない人々が結構いて、彼等にとってはメール機能なんて全く不要である。


  • 円高圧力の蓄積
    世間には、製品だけでなく日本社会自体がガラパゴス化していると、このことを問題にする声がある。しかし筆者は、日本のガラパゴス化を否定的には捉えない。ある意味で必然的な流れである。むしろ日本は、ガラパゴス的であるからこそ世界の中での存在意義があるとさえ思っている。「ガラパゴス的で何が悪い」と、筆者は以前からこの論調にいちゃもんをつけたかった。

    しかし日本の輸出企業が世界の市場に対応し、各国の事情に応じた製品作りをすることも否定はしない。また農家が農産物の輸出に活路を見い出したり、各地の観光地が外国人観光客の誘致に努力することにも筆者は反対をしない。


    しかしマクロで経済を考えなければならない立場の政治家や政府、そしてエコノミスト達は話が違う。彼等がいまだに輸出奨励的な発言を繰返していることが問題と言いたいのである。日本の輸出が全く不振で経常収支が赤字なら分るが、現実は正反対である。

    今日の日本経済の不振は、輸出が不振であるからではない。明らかに日本の内需が決定的に不足しているからである。これは財政支出(この場合の財政は特別会計も含む)を大幅に増大して解決する他はない。


    財政政策が必要なのに、彼等は日本の財政が危機とか破綻するといった「デマ」に完全に騙されている(30年も騙され続けているのであるから驚きである)。またそれが「デマ」と分かっていても、そのことを口に出すことができない政治家もいる。例外は亀井郵政・金融担当相ぐらいなものである。

    どうしても財政によるデフレ対策を避けたいため、政治家や政府関係者は輸出振興的発言をしているのである。また一般大衆も、日本の完成品の輸出が減少していると知らされ自信を失っている。このような雰囲気の中で「日本の社会がガラパゴス的なのが問題」といった大嘘が浸透しているのである。これに関連し「移民の受入容認」や「外国人参政権付与」の議論も、その延長線上にあると筆者は感じる。


    リーマンショックの衝撃も癒え、日本の輸出も回復してきた。経常収支も大幅に黒字になっている。しかし経常収支の黒字は通常円高要因となる。ところが今のところ経常収支の黒字は、そっくり資本流出となっており、円高圧力になっていない。ちなみに2月の経常収支の黒字は1兆4,706億円であり、資本収支は1兆4,767億円の赤字である。

    政府・日銀は、この6年間、円高阻止のための為替介入を行っていない。しかし代わりに民間が、資本流出という形で為替介入をやっているのである。たしかにデフレ経済が続く日本には、投資機会と資金需要が乏しいから当然と言えるが。


    このように経常収支の黒字が続いても、資本流出が続けば即座には円高にならない。しかし外国で所得が発生しても、日本国内に戻ってこないのであるから日本の内需は増えない。どんどん金持になっているのに、日本人は貧乏生活を送っているようなものである。しかし一旦、外国にある民間資金が大量に日本へ舞い戻ってきたなら、一気に為替は円高になる(政府は、税制の優遇で海外にある民間資金を国内に還流させようという、ちょっと矛盾した政策を行っている)。日本はとんだジレンマに置かれているのである。

    経常収支の黒字は大きくなっているが、貿易・サービス収支の黒字は一頃より小さくなっている。海外資産の利息や配当といった所得収支の黒字が、それ以上大きくなっているからである。通常、輸出で得た収入は、国内に戻り、賃金や仕入れに充てられる。それに対して海外資産の利息や配当による所得は現地に留まりやすい性質がある。たしかに資本流出する資金は元々余剰な資金であり、国内に還流する力が弱い。


    しかし海外資産がどんどん増えて行けば、いずれこれが大きな円高圧力になることは間違いない。まさに円高圧力の蓄積である。海外の経済が不調になったり、一旦政情が不安が起れば、これが日本に戻ってきて円高を演出する。日本の経済はこのような爆弾を抱えているのである。



来週はゴールデンウィークにつき休刊である。テーマは未定。



10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
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09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
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09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
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