経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




10/4/19(612号)
マクロによる検証

  • 衰えない日本の競争力
    全体で見れば、日本の産業や企業の競争力に問題がないことを先週号で説明した。筆者はむしろ日本の企業の国際的な競争力が強くなっていると見ている。国内の需要が伸びず、さらに円高である。企業が競争力を強化するのは当り前の行動である。この結果、円高にかかわらず(今後もっと円高になる可能性はある)、輸出は順調に回復している。ただしこの競争力の強化が色々な方面に犠牲を強いているのも事実である。

    ところが日本にはいつも薄っぺらな物の見方をする人々で溢れている。マスコミや役にたたないエコノミスト達である。彼等は韓国などの企業が輸出を大幅に増やしていることを見て、日本の産業や企業の競争力が衰えたと誤った解釈をしている。


    経済を正しく見るには、ミクロで見てマクロで検証し、あるいは反対にマクロで見てミクロで検証することが必要である。これを行わないから、彼等はいつもトンチンカンなことを言っている。

    本当に日本の競争力が衰えたなら、輸出が減少するだけでなく、国内に外国製品が溢れているはずである。しかし安売り店を除き、そのような事実はない。


    先週号で述べたように、たしかに日本の得意分野であった家電の日本企業のシェアーは落ちている。つまりミクロで見れば日本の家電メーカの競争力は弱くなっているように感じる。しかしマクロで見れば、日本の輸出はかなり回復している。これは毎月の国際収支を見ていれば簡単に分ることである。

    日本の家電の輸出が伸びなくても、他の輸出が増えているのである。輸出で伸びているのは部品や工作機械、さらに素材などである。このように経済の実態を正しく知るには、ミクロで見て次にマクロで見るだけでなく、さらにもう一度ミクロで見て事実を確認することが必要である。


    韓国や中国のメーカが輸出を伸ばす場合、日本のメーカから部品を買わなくてはならない。日本でしか作っていない部品があるからである。例えば韓国は、昔から部品産業が脆弱であった。したがって世界に通用する製品を製造しようとすれば、日本からの部品輸入が自動的に増える。この結果、韓国の対日貿易収支はずっと赤字である。

    韓国で部品産業が育たなかったのは、国内の市場が小さかったことが影響している。また筆者は、中小企業が育たない韓国の国内事情も関係していると見ている。その点日本は国内市場がある程度の規模があり、部品メーカが順調に発展してきた。


    韓国は慢性的な対日貿易赤字を問題にしており、部品メーカの育成を急いでいる。これについては中国も同様である。おそらく将来的には、韓国や中国での部品製造は増え、日本からの輸出は減ると思われる。最近の例としてアップルの新製品であるiPadは、高つく日本製の部品をほとんど使っていない(台湾製の部品が多い)。

    つまりいずれ日本の部品、工作機械そして素材の輸出も頭打ちになるであろう。しかし当分の間、これらの輸出はある程度伸びると思われる。他にはプラント関係などが有望である。さらに他の製品についても輸出がまだまだ伸びる物は沢山あると考えている。


  • 札ビラを持った中国人が闊歩
    日本の主要な輸出品目は、時代とともに変わってきた。戦前、生糸やお茶に始まり、綿製品などの軽工業品や重化学製品に変わった。戦後は、大半の製造工場が戦災で壊滅的になったところからスタートした。最初は水産物やおもちゃなどを輸出していた。

    高度成長期以降は、主な輸出品が家電、自動車、鉄鋼といったものになった。さらにこれらに半導体や電子部品が加わった。このように日本の主要輸出品は時代とともに大きく変わっているのである。


    個々の輸出品目を見れば、時代の変遷とともに伸びるものがあれば、逆に減るものがある。重要なことは、時代とともにどの国にも負けないような製品を開発する技術力である。そしてそれを生み出すような国民の好奇心やこだわりといったものが必要である。筆者は、日本の製品開発力が衰えたとは全く考えない。

    たしかに一部の分野で、日本は韓国に追い付かれたように見える。特に最近の韓国の輸出は好調である。しかしこの要因の一つは韓国ウォン安である。しかし韓国ウォン安は是正傾向にある。さらに人民元の切上げが話題になっており、もしこれが実施されれば、同じように輸出に依存している他の国の通貨は高くなると思われる。その第一候補が韓国ウォンと筆者は見ている(日本の円も多少高くなると思われるが)。

    日本は韓国に追い上げられているが、韓国も中国などに追い上げられているのである。中国などが韓国の消費者リサーチ戦術を真似することは難しいことではない。むしろ新製品の開発力が弱い韓国の方が、今後厳しくなると見ている。筆者は、韓国を礼讃している最近のマスコミの論調もそのうち変わると見ている。


    筆者は、日本の輸出力は相当強いと見ている。しかしどんどん輸出を伸ばすことには反対である。筆者は、年間の貿易黒字はODAが行える1兆円程度で十分と考えている。さらに経常収支の大きな黒字を考慮すると、貿易収支は赤字にすべとも考えるほどである。

    仮に貿易収支が赤字でも、国内の経済が成立ち、企業が収益を上げられるほど内需を大幅に拡大すれば良いのである。このことは25年以上前から指摘されてきたことである。ところが日本は一向に有効な内需拡大政策を採らなかった。むしろ最近では正反対の政策を唱える者まで現れる始末である。


    日本の経済政策が迷走している。今度は外国人観光客を誘致しようということになっている。たしかに外国人の観光客が増えれば、観光地が潤い、銀座の高級店や都会の量販店の売上が増える。しかし日本は貿易サービス収支、経常収支ともに大幅に黒字である。「外国人観光客の誘致」が必要な国ではない。

    中曽根政権時代、日本の大きな貿易黒字が国際的に問題になった。政府は、この批難を避けるため日本人の海外旅行を奨励した。たしか年間1,700万人の海外旅行者数が目標であった。今日、貿易黒字は大きくなっていないが、経常収支が黒字である状況は変わっていない。海外資産の金利や配当などによって、所得収支の黒字幅がどんどん大きくなっているからである。

    ところが日本政府は、今度は外国からの観光客を増やせと言っているのである。まるで日本が外貨不足に陥っているみたいな政策である。ちなみに今年の2月の経常収支は1兆4,700億円もの黒字になっている。つまり日本は年間で15兆円以上のペースで外貨を稼いでいるのである。これ以上外貨を稼いで何をするつもりなのか。


    どうしても日本政府は、財政による内需拡大をしたくないのである。彼等は財政拡大によるデフレ対策の実施を避けるため、色々な誤魔化しをやっている。「外国人観光客の誘致」もその一つである。

    本来、財政政策によって内需を拡大し、国民の所得を増やし、日本人が買い物や旅行ができるようにするのが政治である。ところが外国企業との競争のため、逆に日本の雇用者の所得は毎年減少している。個人的にどんどん貧しくなっている日本人を脇目に、札ビラを持った中国人が闊歩しているのである。このような姿がまともなはずがない。



来週は、日本の主要な輸出品の品目の変遷についてもう少し触れる。



10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
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09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
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09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
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