経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




10/4/12(611号)
ミクロで捉えた日本経済

  • 的外れの経済理論
    これまで本誌はマクロ経済を中心に経済論評を続けてきた。本誌は日本の経済不振の原因を、貯蓄過多による国内需要の不足と見ている。したがって主張する経済対策は、もっぱらマクロ経済政策による需要創出である。

    ところが世間では的外れの経済理論がまかり通っている。マクロ経済の不調をミクロ(産業や企業)のレベルで説明しようというものである。それ自体は無茶な話であるが、たしかに聞いている人々を思わずそのような気にさせる。そこで今週からミクロで捉えた日本経済の話をする。


    よく言われていることの一つは「日本の産業の競争力が衰えたから」というものである。90年当時、日本の企業の競争力は世界一であったが、今日、17、18番目になってしまったという話である。しかしこの話の根拠となっている調査の出所が明らかにされていない。おそらく日経新聞がよく引用するスイスのビジネススクールの調査と思われる。

    テレビなどの各メディアは共通してこの調査結果を使っているようだ。しかし昔から本誌はこの調査のいい加減さを指摘してきた。まず国別の競争力となれば色々な要素があり、全ての人々が賛同するような基準はない。また国同士の競争ということになれば為替が関係してくるはずなのに、この調査は為替水準に一切言及がない。だいたいこの調査では米国がいつも一位か二位ということになっている。とても信用できるものではない。


    よく分らないのが「日本において90年代から産業構造が変化の方向が間違っていた」という指摘である。まるで雲を掴むような話であり、筆者にも理解不能である。おそらく需要のある分野に生産要素が向いていないということを言いたいのであろう。

    これに関してよく引合に出されるのは「日本は公共事業ばかり力を入れて、介護などの分野が人手不足になっている」と言った話である。しかしまだまだこれら介護の分野の経済規模は小さく、とても公共事業にとって替わるものではない。またこの分野の従事者の待遇は、国が決めることができるのである。したがって例えば「公務員並の待遇にすれば良い」と言った分りやすい提案をすれば済む話である。いずれにしてもこの程度のことで、日本経済の不調を説明するのには無理がある。


    最近、日本が得意だった分野において、日本メーカの世界シェアーの低下がよく指摘される。具体的には鉄製品、半導体、薄型テレビなどである。特に韓国、中国、インドなどのメーカのシェアーが大きくなっており、おしなべて日本のメーカの順位が下がっている。

    しかし日本の得意分野の輸出が不振になったから今日の日本経済の不調が続いているのではない。たしかにリーマンショック後、世界的な極度の売上不振が起り、日本の輸出も一時的に激減した。ところが最近では輸出全体ではかなり持直している。4月8日発表の2月の貿易・サービス収支は6,934億円の黒字、また経常収支にいたっては14,706億円の黒字となっている。これまで得意としていた分野の輸出が低迷していても、他の輸出が増えているのである。つまり日本の産業の競争力が衰え、輸出が伸びないから日本経済が低迷しているという話は真っ赤な嘘である。


  • カギ付の冷蔵庫
    前段で述べたように、日本の産業や企業の競争力が衰えているという話が蔓延している。日本ではマスコミを中心に、この自虐的な物の見方が根付いている。これまで本誌は歴史や為替(日本の円が米国のドルより強いはずがないという思い込み)に関する自虐的な見方を取上げたことがある。この自虐的な見方が日本の産業まで及んできている。

    最近、日本が産業分野において新興国に追い上げられていることがよく取上げられている。たしかに日本が得意だった家電やパソコンなどではかなり日本の地位は下がっている。また粗鋼の生産量では、新日鉄やJFEスチールは世界の7位以下である。ルクセンブルクのアルセロール・ミタル(経営者はインド人)を除けば、上位のメーカは中国と韓国である。

    このように日本が新興国に追い上げられているのは事実である。日本の人々は、そのうちこれらの国々にどんどん追い抜かれ、日本は三等国に転落すると思い込んでいる。経済や産業だけでなく、色々な分野で日本が新興国に追い抜かれる度に日本人は自信を失うよう仕向けられている。そしてこの後には「だから日本は構造改革が必要」といった日経新聞や、世間知らずの二世国会議員が好みそうな下らないセリフが続く。


    日本のメーカを追い抜いて脚光を浴びているのが韓国である。半導体だけでなく、家電やハイテク関連で日本メーカを引き離すメーカがどんどん出ている。またその差がだんだん大きくなっている。

    たしかに短期間で韓国のメーカが日本を追い抜いたことに興味がある。しかしこれについて適切な解説がなかったのが事実である。そして最近、筆者はこれに関して文芸春秋2月号に掲載された「日本企業はなぜサムソンに負け続けるのか」という文章に注目した。この著者は、日立出身で、元サムソン電子常務の吉川良三氏である。


    この文章の中で筆者が驚いたのは、サムソンなど韓国メーカには開発部門がないという話である。まずサムソンなどは主に日本のメーカの新製品を分解し徹底的に分析する。ここまでは日本のメーカもやっていたことである(特に昔は欧米のメーカの製品を研究した)。しかしサムソンのやり方は徹底しており、部品の設計思想まで遡る。

    サムソンなどの韓国のメーカが凄いのは、この分析から逆に新しい製品を作り上げるのである。各国の消費者のニーズを念頭に、いらない機能をどんどん省き、逆に好まれそうな機能をプラスするのである。徹底したユーザ指向ということである。また価格は輸出先の国民の所得レペルを完全に意識して設定される。


    ようやく所得が増えはじめた新興国の消費者には、日本メーカの製品は高過ぎる。したがって機能を落とし安くした韓国メーカの製品に人気が集まる。また国や地域の事情で、売れない物や、逆にちょっと機能を付け加えることによって売れるものがある。例えばインドでは冷蔵庫はカギ付きでなければ売れない(使用人が勝手に開けるのを防ぐ)。またインドでは音の大きいクーラが好まれる(クーラを持っていることをひけらかすため)。

    最近、ヨーロッパでも韓国製品が好まれている。例えば扇風機のようなスダンド形式のテレビが売れている。これはテレビの台が不要だからである。逆に日本製品は品質の割には値段が高いと不評だそうである。


    このように韓国のメーカは、製品開発より徹底した消費者のニーズのリサーチに力を入れ(リサーチする者を世界中に多数配置している)、ユーザ指向の製品を輸出している。反対に日本のメーカは、高くても良い製品は売れるという信念で商売をしている。筆者はどちらが正しいのか判断に迷う。

    発展途上国では一万円程度の二層式の洗濯機が爆発的に売れている。これらの国では一層式は高すぎるので売れない。つまり一層式しか作っていない日本のメーカが、今さら二層式の洗濯機やカギ付の冷蔵庫を作るのかという話になるのである。ところで日本では韓国メーカの製品はそれほど売れていない。ちなみに最近では現代自動車が日本から撤退した。



来週は今週号の続きである。

本誌は天間基地の代替施設としてメガフロートの基地建設を提案してきた。これについて今週もいくつかの御意見をいただいている。まず先週号でご紹介した沖縄の方からのメールである。さっそく知人の軍事専門家(かなり著名な方)に軍事的合理性について聞いてみたという話である。この軍事専門家によれば「既に時は遅し」という話である。移転が問題になった頃には、米軍も撤去可能な基地の建設に賛意を示していた。しかしその後、埋め立てによる恒久的な基地建設が決まった。これは米国にとって最高に良い話である。

基地を維持するには数々のインフラの整備が必要である。そのためにはかなりの面積を要する。天間基地が大問題になった当時なら、メガフロートの基地でも妥協の余地があったと思われる。しかし日本政府は、辺野古沖の埋め立てという米国にとってベストのカードを既に切ってしまったのである。今さら窮屈なメガフロート案に戻ることはないという話である。

別の読者の方から鋼鉄製のメガフロートの弱点についてご意見をいただいている。やはり鋼鉄製メガフロートには海水による「錆」の問題がつきまとうという話である。これについてはメラニックスという新素材の紹介があった。これはセラミックとスチールの長所を兼備するものである。軽くて強く、また錆にも強いという話である。ただ難点はコストである。しかし考えられる新素材は他にも色々あると考える。筆者はコストの問題はいずれ解決がつくと思われる。そしてこのような先端分野こそ日本が得意であり、力を入れるところと考える。スダンド式のテレビやカギ付の冷蔵庫は他の国にまかせるのが良い。



10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー