経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




10/3/22(608号)
政策提言(後半)

  • 政策提言
    先週に続き政策提言の後半を示す。

    4.政策遂行にあたっての留意点

    @積立金の運用成績で変わるが、毎年3兆円程度の公的年金積立金が取崩されている。これに15兆円の徴収額の減免が加わるため、合計で18兆円の積立金が減少することになる。
    ただし徴収額の減免によって保険料納付者の所得が増えるため、所得税額が増える。また事業主負担も減るので、法人税収も増える。この所得税と法人税の増収額を3兆円と見積もり、これを積立金に繰入れれば積立金の減少額は15兆円になる。


    A徴収額15兆円の減免によって経済活動は活発になり、税収は増える。もし税収の増加分の一部を積立金に繰入れればさらに積立金の減少額は小さくなる。仮に5兆円を繰入れることができれば、積立金の減少額は10兆円になる。


    B積立金の運用は国債や株式などで行われている。15兆円もの運用資産を短期間のうちに売却すれば、国債価格や株価が暴落する可能性がある。
    そこでとりあえず運用資産を担保にした債券を発行し、これを市中に売却するか、もしくは日銀に買取ってもらう。実際の資産の売却は時期を見ながら少しずつ行う。国債の場合、仮に価格が下落していても、満期まで運用すれば問題がない。


    C公的年金については、国民年金と厚生年金は厚生労働省が所管している。一方、共済年金の所管は財務省(国家公務員)、総務省(地方公務員)、文部科学省(私立学校教職員)と多伎にわたる。


    D公的年金に関しては、国民の間に不安と不信感がある。しかし将来の年金給付が確実に受けられるのなら、負担が増えてもしょうがないという意見が国民の間でも多くなっているのも事実である。

    ただし保険料納付の減免を行うと言っても、単純に全ての人から賛同を得られるとは限らない。この一つの対策としては、今回の減免が一年に限ることを強調する。
    また国民に安心を与えるために、将来も一定額(現行と同レベル程度)の年金が給付されることを説明する。そのためには必要な年金制度の改革を進める道筋を示すことが重要である。


    5.日本経済の現状認識

    @長い間、日本経済が慢性的なデフレから脱却できない原因を一言で言えば、過剰な貯蓄である。裏返して言えば、需要が少な過ぎるのである。ただし設備投資に関してはGDPの15%程度を維持しており、他の先進各国に比べ遜色はない。ちなみに米国は10〜12%と日本より小さい。つまり現状では設備投資がこれ以上増える可能性は少ない。

    問題は過小な消費である。膨大な金融資産を持った人々が消費をしないのである。この問題については多くの人々が解っている。

    A政府はこれに対して様々な対策を実施してきた。「子供の住宅建築への資金援助に対する贈与税非課税限度額の拡大」や最近の「エコポイント」なども膨大な個人の金融資産を住宅購入や消費に向かわせることが目的であった。このような財政支出が最小限で済むような経済対策が手を変え品を変え実施されてきた。いわゆる「頭」を使った需要刺激策である。

    Bしかしこれらの需要を誘発する政策は大した成果を生んでいない。ところが政府はこの事実を認めず、次から次へと類似の施策を打出している。もしこれらの経済政策が目論み通りの効果があったならば、日本は既にデフレ経済から脱却していたはずである。

    C日本では個人が得た土地の売却代金のほとんどが貯蓄され、この貯蓄はそのままになっている。代々受継ぐべき先祖伝来の土地を売却したのだから、その代りに売却代金を子々孫々に残すという考えがある。
    また長年働いて得た退職金は、老後の心配があり簡単に使われることはない。このように個人金融資産は凍り付いたままであり、少々の需要刺激策で溶け出すことはない。さらに物価が毎年下がる状況では、資金的に余裕のある人でも消費を急がない。

    Dこのように日本では民間の貯蓄を消費に持って行くという、需要刺激策が行き詰まっている。残るは政府の働きだけである。公共事業などによって政府が直接消費を増やしたり、地方に交付金を渡し公共支出を増やすことが考えられる。しかし民主党連立政権には財政規律を重んじる声が大きく、国債の増発を頑として受け付けない。
    しかし日本のデフレギャップは数十兆円もある。したがって仮に財政規律派の説得に成功し、数兆円程度の財政支出を追加することができても焼け石に水である。

    Eそして最後に残るのが今回提言した「公的年金の積立金の取崩しによる国民の可処分所得の増加政策」である。』


  • 参考資料
    『1.公的年金(厚生年金、国民年金、共済年金)の積立額合計の推移

    (積立額合計の推移 単位:兆円)
    年 度積立金合計
    7836
    95162
    96171
    97179
    98186
    99193
    00196
    01195
    02197
    03197
    04198
    05193
    06191
    07188

    今日でこそ年金積立金は少しずつ取崩されているが、2000年度あたりまでは物凄い勢いで残高が増えている。特に78年度から98年度の20年間で150兆円も積立金が増えた計算になる。積立金が増えるということは国民や企業の可処分所得がその分減ったことを意味する。

    当時、需要不足の日本からの過剰な輸出が問題になり、円高圧力が掛かった。政府も内需拡大のための景気対策を何回も行い、財政赤字が膨らんだ。また日銀も過度の金融緩和を行い、これによってバブル経済を招いた。

    一方、年金の積立金は着々と増えていた。積立金は、一部財政投融資に使われこれがデフレの緩和にはなっていたが、トータルでは大きなデフレ要因となっている。最近では財投に使われることもなく、国債などの債券や株式で運用されている。

    このような事態になるなら、年金改革をもっと早く実施し、完全賦課方式に移行しておれば良かったのである。ところが年金の積立金が増えることがマクロ経済に悪影響を及ぼすという声が、ほとんどなかったのも事実である。


    2.先進各国の公的年金の積立金

    (単位:月、年)
     米  国 2.8年分
     イギリス 2ヶ月分
     ドイツ 0.2ヶ月分
     日  本 4.5年分(厚生年金)

    イギリスやドイツなどの欧州各国の積立金は極めて小さい。毎月、必要なだけの保険料を徴集し、これに国庫の補助金をプラスして年金給付を行っている。日本の積立金は突出して大きい。米国は日本と欧州の中間である。


    3.2004年の公的年金改革のポイント

    @保険料水準固定方式

    Aマクロ経済スライド

    B基礎年金の国庫負担を三分の一から二分の一に引上げ

    C永久均衡方式から有限均衡方式(積立金は2100年までに一年分に減らす)への変更

    この中で重要なのは@保険料水準固定方式の採用である。これまでは一定の年金の給付額を確保するため、徴収する保険料を調整していた。想定より人口の高齢化進んだり、平均賃金が伸びなかったり、現役労働者数が増えなかった場合には保険料の値上げが行われてきた。

    しかしこれでは際限なく保険料が上がる可能性がある。そこで2004年の改革では、保険料の方を固定化し、年金給付額の方で調整する形に変えた。たしかにこれによって年金財政が破綻することはなくなった。

    厚生年金の保険料は少しずつ上がり2017年の18.3%で頭打ちになり、国民年金の保険料は1万6,900円で頭打ちになる。人々の不安は、頭打ちなると言えこれから増える保険料の負担と前提条件(高齢化の進展、平均賃金、現役労働者数)が変わることによる年金給付額の引下げである。』



来週は、本誌の政策提言に対して想定される疑問や批判に答える。いわゆる想定問答である。



10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
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09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
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09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
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09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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