経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




10/3/15(607号)
政策提言(前半)

  • 政策提言
    日本の世論を考慮すると、財政出動による日本経済のデフレからの脱出策には抵抗が大きい。日本が大きな戦争に巻込まれるとか、未曽有の大震災に襲われるといった事態でも起らない限り、大きな財政支出は容認されないであろう。つまりデフレの問題が深刻に受取られていない今日の状況では、デフレを脱却できる規模の財政政策の実現はほぼ不可能である。

    またどれだけ優れたデフレ脱却策を考えても、政治家がその気にならなければ実行されない。これには先週号で述べたように、30〜40%程度の中間的な政治家を、どのように説得するかがカギを握る。筆者はこの中間的政治家の考えが平均的な国民の気持に近いと見ている。今週から示す政策提言はこれを強く意識したものである。

    1.政策提言

    一年間、公的年金(国民年金、厚生年金、共済年金)の保険料徴収を半分にする。
    ただし将来の年金の支給額には影響させない。


    2.政策の効果

    @年金保険料納付者の可処分所得が増え消費が増える。

    A厚生年金の事業主負担も半分になり、企業の利益が増え、さらに資金繰りが楽になる。企業の設備投資の増加も期待できる。また法人税の減税と異なり、赤字決算の企業にも恩恵が及ぶ。
    消費増によって経済活動が活発化することに加え、企業の利益が直接的に増える(社会保険の事業主負担分が半減)ため、ほぼ確実に株価は上昇する。

    B年間の年金保険料の徴収額が30兆円であり、減免額は15兆円になる。したがって真水15兆円の経済対策となる。

    C政策に速効性がある。


    3.政策提言の真の狙い

    @提言の狙いは二つある。一つはこれが大胆な景気対策になることである。今日の日本経済がデフレ状態から脱却するには、10兆円単位の追加対策が必要である。

    Aしかし日本の財政が危機という間違った認識が、国民、政治家、マスコミなどに広く浸透している。これを正すには膨大な努力と長い時間を要するが、それを行ってゆく余裕などない。その点今回の提言の政策は、財政支出を伴わないため、比較的、受け入れやすいと考える。

    B日本の公的年金の積立額は先進各国の中で突出して大きい。このこと自体が過去において可処分所得を減らし、慢性的な日本経済のデフレ傾向を定着させる大きな要因となっていた(最近、ようやく少しずつ積立金が取崩されている)。

    C二つ目の狙いは、今後行われるであろう年金改革を睨みこれを牽制することである。年金の給付水準を今後も維持するには税金の投入が必至である。しかしこの年金改革において増税が先行する可能性があり、これがまた日本経済のデフレ要因となる。

    D提言の政策では、結果的に公的年金の積立金を取崩すことになる。しかしこれによって景気が回復し、税収が増える。このことを国民が実感することが大切である。
    今後、年金改革に伴いどのような形で増税が決まろうと、日本のデフレを悪化させない工夫が必要である。それには積立金の取崩を先行させ、積立金の残高が一定額(例えば100兆円)になるまで増税を実施しないという方法が考えられる。』


  • 提言の補足
    本誌をずっと読んでいる方はお気付きであろうが、筆者の政策提言は、09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」を、中間的政治家や平均的な国民の賛同を得るために手直ししたものである。今週はその半分を示した。ただここが政策提言の主要な部分である。


    政策提言の性質上、あえて深入りしなかった所がある。提言はシンプルが方が好ましいと考えたからである。例えば国民年金には三分の一が国庫から拠出されているが、この部分の取扱いである。また共済年金には、厚生年金の事業主負担にあたるものが国や地方などから拠出されている。しかしこれらについての言及も省略した。

    年金保険料の減免による乗数効果が問題になってくる。筆者は、これが減税と似た効果があり、消費性向を0.6とし、乗数値を1.5程度を想定している。また乗数の効果が全部出るにはある程度の期間が必要と考える。ただ乗数値の算出には色んな考え方があり、ここではこの議論にあまり深入りしたくないと思っている。


    提言では減免を一年とした。しかし先週号で述べたように、GDPを増やす政策は何年も続ける必要がある。筆者は取り敢えず一年これを行い、この効果がはっきりして来た頃を見計らって、政策の延長を決めれば良いと考える。もちろん減免額の増額も考えられる。何よりも第一歩を踏出すことが重要である。

    提言は年金改革における増税を容認している。ただし増税より積立金の取崩しを先行させることが必須である。増税の引き金(トリガー)を一応100兆円(年金積立金)としたが、80兆円、あるいは50兆円とすれば増税をかなり先送りできる。


    提言のポイントは、世間で保険料徴収額の減免が財政支出ではないと認識されていることである。筆者は、経済の循環を考えれば年金の保険料徴収は税金と全く同じであり、一方、年金給付は財政支出である。しかし政治家も財政当局もこのことを認識してこなかった。国の債務残高が増える一方で年金の積立金は188兆円も溜ったのである。そしてこれはりっぱなデフレ要因になっている。

    マスコミや財政当局は、日本の財政を実態以上に悪く喧伝してきた。彼等がこれに国の総債務残高を使ってきたからである。しかし本誌は財政状況を正しく見るには総債務残高ではなく、社会保障基金、つまり公的年金の積立金を差引いた純債務残高を使うべきとずっと主張してきた。今回の提言はこれを逆手に取ったものである。


    先週号で筆者は、デフレ脱却とともに財政再建を考えるには、GDPを550兆円以上に持って行くことを一つの目安とした。今日、俎上に上っている数々の政策ではとてもこの目標の実現は不可能である。筆者は、今こそ公的年金の積立金を使うべきと考える。



来週は.政策提言の後半である。



10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
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09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
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09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
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09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
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09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
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09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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