経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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10/3/8(606号)
税収と名目GDPの関係

  • 中間的な政治家
    年明けからここまで日本の財政を取上げてきた。これは来週から示す筆者の政策提言への準備である。政策提言は日本経済のデフレからの脱却を目的にしている。ただ頭だけで考えるなら、セイニア−リッジ政策を実行すれば良いということになる。

    日本には巨大なデフレギャップが存在するのであるから、100兆円単位の政府紙幣を発行し、これを財源に大胆な財政支出を行えば日本はデフレから脱却できる。話は簡単である。しかしこの仕組みを人々が理解しない限り、この政策は実行されることはない。


    筆者の感じでは、国会議員で政府紙幣を理解し、この発行に賛同している者はいまだ少数派である。おそらく10%にも満たないと思われる。しかしセイニア−リッジ政策の中でも政府紙幣ではなく、日銀による国債購入に賛同という者を含めると、この数はある程度増える。筆者は両者の合計は20%くらいにはなると推定している。またこの数は徐々に増えていると感じている。

    一方、評価や判断に迷っている政治家はかなりいると思われる。また説得すれば賛同に回る可能性のある政治家がかなりいる。筆者の感触では、これらの合計は30〜40%程度になると思っている。筆者の政策提言の主なターゲットは、これら中間的な政治家である。


    日本を除き、セイニア−リッジ政策は最近まで各国で行われていなかった政策である。ただリーマンショック後、米国や英国は中央銀行が国債の購入し実質的なセイニア−リッジ政策に踏切った。しかし日本のマスコミを始め政治家は、これらをセイニア−リッジ政策とは認識していないのである。

    評価や判断に迷っている中間的な政治家は慎重である。通常では行わない政策の効果を疑っている。またこれを実行することによる副作用を気にしている。政策提言はこれらに真正面に応える必要がある。筆者は、政策に何らかの条件を付けることによって、これらの政治家からも賛同が得られるのではないかと考える。


    まずセイニア−リッジ政策の規模が問題になる。3兆円や5兆円といった補正予算程度の政策では話にならないことは誰でも知っている。セイニア−リッジ政策に積極的な20%の国会議員は、規模の大きさにそれほど頓着しないと思われる。十分な効果を生むまで、政府紙幣の発行や国債を購入を青空天井で行えば良いと考えるであろう(基本的に筆者も同じ考え)。

    しかし慎重な中間的な政治家はこれには同調しないと思われる。おそらく国民の多くも同様であろう。したがって後ほど述べるがセイニア−リッジ政策の規模もある程度明示する必要がある。これも賛同を得るための一つの条件となる。


    セイニア−リッジ政策に伴う具体的な財政支出の中味も重要である。10兆円単位で公共事業を増やすと言っても、とても賛同は得られない(技術的にも不可能)。同様に10兆円単位の定額給付金や子供手当も賛成を得られない。中間的な政治家に概ね賛同を得られるような財政支出を選ぶ必要がある。

    日本が中国のように一党独裁の国家なら、効果があると思われる政策は容易く実行されるであろう。中国共産党や中国政府の幹部が政策を理解すれば良いのである。しかし日本のような民主国家では、このような面倒な段取りを行ってしか大胆な政策は実行できない。


  • 税収の弾性値
    慎重な中間的な政治家は財政の行末を気にする。セイニア−リッジ政策を行うことによって、確実に税収が増えることをこれらの人々に納得させる必要がある。しかし筆者は現在の日本経済の低い活動レベルでは、簡単には財政支出によって税収は増えないと見ている。ここで税収の名目GDPに対する弾性値というものが問題になる。


    弾性値を説明するため、まずGDPと税収(国税)、さらに税収の名目GDP比率の推移を示す。
    (GDPと税収(国税)の推移 単位:兆円、%)
    年 度名目GDP実質GDP税収税収GDP比率
    894064445513.5
    904394686013.7
    914634826013.0
    924724855411.4
    934774875411.3
    944794905110.6
    954905055210.6
    965045295210.3
    975055275410.7
    98494517499.9
    99511524479.2
    00513537519.9
    01501530489.6
    02489506449.0
    03494518438.7
    04498528469.2
    05504541489.5
    06511553499.6
    07516562519.9
    08494542448.9

    この表から、概ね名目GDPの増減に応じて税収が増減していると言える。ただ以前は、名目GDPが400兆円台であっても、税収は今よりかなり大きかった(名目GDP比で13%程度あった税収が今日9%程度まで低下している)。この一つの原因は法人税の減税と所得税の最高税率の引下げである。

    また90年度前後の大きな税収には、大きな土地取引に伴う譲渡所得課税が含まれる。反対にバブル経済崩壊後は不良債権処理による税収減があった。そして09年度(今年度)分は表にはないが、リーマンショックなどの影響により、名目GDPは470兆円台、税収は30兆円台まで落込む見込みである。


    次に税収と名目GDPの関係をもう少し踏込んで見てみる。日本の主要な国税は、所得税、法人税、消費税の三税である。まず消費税は、ほぼ名目GDPに比例している。

    一方、所得税、法人税は、名目GDPに比例する分と名目GDPの変化に反応する分の合計と考える。つまり名目GDPが伸びている好況時には、それ以上の伸び率で所得税、法人税も増える。反対に名目GDPが減る不況時には、これらはガクンと減る。しかも名目GDPの動きに少し遅れてそのことが現われる。特に法人税は好不況の影響をより強く受ける。

    08年度、09年度(今のところ予想であるが)と三税とも減少しているが、特に所得税、法人税の減り方が激しい。このように所得税の累進性や法人税の損失の繰延べ(青色申告の事業所得税にも適用)制度を考えれば、今日までの税収の推移は理解できる。


    名目GDPが1%増えた時に税収が何%増えるかが問題になる。税収も1%増えるなら弾性値は1となる。今日のように470兆円台の低い名目GDPなら弾性値は1にも満たない可能性がある。したがって単発の3兆円程度の補正予算による景気対策は、やらないより「まし」という小さな成果しか期待できない。

    筆者は、タテ軸に税収、ヨコ軸に名目GDPをとれば、両者の関係は放物線になると考える。ここまで名目GDPが減少すれば両者は、放物線上の左側、つまり原点に近い方にあると見られる。かなり平らな所に位置しており、小さな景気対策ではほとんど税収は増えない。問題の弾性値は、放物線の切片であり、微分値ということになる。


    日本の税収と名目GDPの関係を考えると、名目GDPをある目標まで伸ばすことと、名目GDPを増やす政策を何年も続ける必要があると考える。つまり経済活動レベルを、かなり放物線上の右側に移動させ、弾性値が1をかなり上回るところまで持って行く必要がある。税収の伸び率を大きくすることによって、日本の純債務の名目GDP比率が低下し、財政再建に道筋をつけることができるのである。

    筆者としての名目GDP拡大の第一の目標は、最大だった07年度の516兆円を越えることである。さらに3年くらいで、550兆円程度まで名目GDPを伸ばすことができればかなり成功と言える。名目GDPが550兆円程度まで増えれば、弾性値はかなり大きくなると考える。

    ただ政府の政策としての正式な目標は、各種のシミュレーションプログラムなどを使って算出することになろう。また何年間も好景気が続けば、放物線の形状自体も変化(良い方向に)する可能性がある。しかしこの話は複雑になるので、これにはこれ以上言及しない。


    デフレ脱却のためには大胆な政策を何年も続けることが必要と、慎重な中間的な政治家を説得する必要がある。それにはここまで述べてきた財政再建への道筋を説明することが良いと考える。また実際に政策が実行され、ある程度の成果が出てくれば、これらの政治家は政策を継続することに納得してくれると思われる。



いよいよ来週から具体的な政策の提言である。

読者の方から、経済対策として色々なアイディアをいただいている。政府紙幣が無理なら、国債を国民に配れば良いのではないかといった提言もあった。まず来週からの本誌の政策提言を見てもらいたい。



10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
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09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
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09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
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