経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




10/2/22(604号)
積極財政への雑音

  • ギリシャの財政問題
    本誌は、日本の場合国債を発行してでも、積極財政を続ける必要があるとずっと主張してきた。この理由は、日本の過剰貯蓄の存在である。少なくとも過去において、民間の設備投資ではとても使いきれないくらいの貯蓄が生まれていた。

    将来に備え、日本人は日々得られる所得の中からせっせと貯蓄をしてきた。それに加え地価が高い日本においては、土地の売却代金(個人)が膨大になり、この土地の売却代金がほとんど消費に回らず、金融機関に眠ってしまった。特に列島改造ブームや80年代後半からの土地バブル時代には、活発に土地の売買が行われ、国民の所得計算から漏れるこの種の貯蓄が激増した。これらに加え政府も公的年金の積立金をもの凄い勢いで増やした。


    過剰貯蓄は体内に蓄積される脂肪みたいなものである。若いうちはどれだけ脂肪分を摂っても、脂肪は燃焼される。ちょうど今日の新興国の経済循環のようなものである。しかし経済が成熟し一通りの消費物資が国民の間に普及すれば、消費や設備投資はそれ以上なかなか伸びないものである。昔、本誌もこの様子を98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」で取上げたことがある。

    高度成長期を過ぎても、日本ではGDPの15%程度と比較的大きい設備投資の水準が維持されてきた(投資には二面性があり、需要になると同時に生産力を増やす)。また政府が財政を赤字にして不足する有効需要を補填してきた。しかしこれらだけでは不足する需要をとても埋め合わせることができなかった。この帳尻を合わせてきたのが輸出であった。


    今日、筆者はギリシャの財政問題を注目している。おそらく財政問題は他の南欧諸国(PIGSーポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)にも飛び火すると思われる。バブル経済崩壊後の経済対策に伴う財政赤字が問題になっている。筆者はユーロという共通通貨を使っているこれらの国々のバブル崩壊後の経済の推移に興味がある。

    日本を除き、第二次世界大戦後、初めて世界中がバブル崩壊型の不況を経験している。バブル経済の崩壊の特徴は、債務で窮地に立っている人がいる反面、バブル経済で儲け、この儲けのほとんどを金融機関に眠らせている者がいることである。本来なら、政府が経済対策のために発行した赤字国債を発行しても市場で消化されるか、あるいはその国の中央銀行がどんどん買えば問題はない(ユーロに参加していない英国はそれを行っている)。しかしユーロ圏の国々は自由がきかない。

    またバブル崩壊後の不況は、従来の景気循環型の不況と異なる。経済対策を行っても、簡単には経済はなかなか回復せず、税収も増えない。ところがどこにも財政規律や財政赤字を問題にする人々がいて(ギリシャ問題の場合は他のユーロ参加国)、そしてこれら人々の発言力は強く、さらなる財政による追加の経済対策を牽制する。このような積極財政への雑音によって、経済政策が誤った方向に進む可能性がある。


    ただし筆者は、南欧諸国のケースは、日本での財政危機キャンペーン時とちょっと事情が異なると考える。これらの国の経常収支の状況が関係してくるからである。たしかに経常収支が慢性的に赤字の国の場合、案外、緊縮財政が大きなダメージにならない可能性はある。このことは慢性的な経常赤字国である米国にも言える。一方、経常収支が常に黒字である日本にとって、緊縮財政への転換は確実に大きな悪影響があった。


  • 日銀の内規
    財政再建への動きとは別に、筆者は南欧の今回の財政危機騒動で注目していることが三点ある。一つは各国政府が独立して経済政策を行っているのに、ユーロという統一通貨を使用していることの矛盾である。二つ目は、自国で通貨を発行していないことによって、為替変動による経済調整ができないことである。とにかく統一通貨はユーロ圏の中で輸出力のある国に有利である。

    三つ目は、南欧諸国の財政問題に絡んだ投機マネーの動きである。投資銀行やヘッジファンドが、これらの国の経済危機を利用して一儲けを企んでいる。またいい加減な格付機関の格付がこれを助けている。それにしてもEUや欧州中央銀行はもたついている。


    このように積極財政に対しては、財政規律や財政赤字の累積と言った観念的な雑音がある。日本の場合、これ以外の雑音は「インフレ(物価上昇)」と「金利の上昇」の危惧の二つがある。しかしこれらについては本誌では何回も取上げてきたので、ここでは簡単に触れることにする。


    まず少なくとも今日、積極財政によって日本で「インフレ(物価上昇)」が起ることはない。物価上昇が起るとしても、輸入資源価格の高騰などのケースに限定される。

    もし本格的に物価上昇が起るとしたなら、サービス料金の値上げ(人件費の高騰による)が広がる場合と考えている。しかし経済活動のレベルが相当高くならなければ、サービス価格が上昇する状況にない。むしろサービス価格が上昇する程度まで経済活動レベルを上げることが政策の目標になる。


    「金利の上昇」はある程度考えられる。日本の過剰貯蓄は、近代日本人の貯蓄選好に加え、大きな土地の売却代金で形成された。さらに政府も公的年金の積立金をどんどん溜め込んだ(78年度から99年度の21年間に157兆円も増えた)。これだけ過剰貯蓄があったため、長期金利が上昇することはなかった。

    ただ2000年頃までに、これらの過剰貯蓄の発生要因はほぼなくなった。これ以降は、企業の設備投資が低迷することによる資金需要の減少と(企業の設備投資は減価償却費の範囲で行われている)、日銀の国債の買入れ(残高は73兆円)によって長期金利は低位に推移している。しかし日銀の国債購入に関して、日銀には日銀券の発行額が限度という内規がある。今日、国債購入額がこの限度に近付いている。


    日銀の内規の変更がない限り、長期金利は今後上昇する可能性がある。ただ筆者は急激な上昇はないと見ている。今日の経済状況では、民間企業の資金需要が急激に増えることは考えられない。また住宅建設が倍に増えることもない。

    日本政府の動きを見ていると、急激な金利上昇がないかわりに、経済活動も低迷するという状態がずっと続くと考える。筆者は、多少上昇しても経済活動が活発化すれば良いと思っている。しかしこのような現状を打破したいという勢力がなかなか出てこないのである。

    今日、政治家は日銀に対してデフレ対策に協力するよう要請している。日銀による国債購入の増額を念頭に置いたものであろう。しかし筆者は、日銀に協力を要請する前に、まず政府がデフレ克服のための総合的なビジョンを示すべきと考える。ただデフレ克服のための施策をまともに考える場合、どうしても最後には日銀の国債購入の限度額が問題になってくるものと筆者は見ている。



来週は、経済活動と税収の関係を取り上げる。

2月15日、10〜12月のGDP成長率の速報値が公表された。実質値は年率で4.6%と比較的高く出ている。しかし名目GDPの成長率は0.9%(年率)と依然低迷していることを示している。内需は依然不振であるが、生産が回復している。やはり輸出に依存する景気回復である。ただしこれまでも速報値の数字はたびたび確定値で修正されている。前回(7〜9月)の速報値は大幅に下方修正された。修正要因はいつも設備投資である。速報値は、設備投資は供給サイドの数字を使っているが、確定値は法人企業統計の需要サイドの数字を使う。

ただGDP成長率の速報値に限っては、筆者が想定していたほど悪くはない。これでは政府にも危機感は生まれないであろう。



10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
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08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
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